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第一章 火の魔法 FER(フェル) / 第10話
エコーとのお茶会の翌日。
アミナスは緊張した面持ちで、グレンの執務室の扉を叩いた。
「魔導士団治療班所属、アミナスです」
「入れ」
「失礼します」
灰燼卿グレン・アシュクロフト。
宮廷魔道伯にして、アシュクロフト家当主。
貴族には珍しく実力を重んじ、才能があれば平民でも積極的に取り立てる人物だ。
母が医師、父が薬師という平民の家庭で育ち、幼い頃から医療と薬学に親しんできたアミナスは、回復魔法の才能が開花しグレンにスカウトされた。
まだ14歳ながら、複数属性を扱えることもあり、魔導士団内で目をかけられている。
「かけてくれ」
「は、はい……」
グレンが応接ソファを勧めた瞬間、アミナスは内心で少し驚いた。
すでにユリアが優雅に座っていたからだ。
「うふふ。 私もご一緒させてね?」
「わはは! 驚かせてすまんな! カイエの話だと聞いて、ユリアがどうしても……」
グレンが苦笑しながら額を掻いた。
ユリアはニコリと微笑むだけで、何も言わない。
アミナスは、この家の本当の主導権がどちらにあるかを、改めて理解する。
小さく咳払いをして、アミナスは切り出した。
「あの……まずは、ここ数日で知り得たことを、すべてお二人にお話しさせてください」
グレンとユリアが同時に頷いた。
アミナスは深呼吸をして、静かに語り始めた。
「まず確認したいことがあります」
「何だ?」
「お嬢様のそばに、白と黒の存在がいることをご存知で……いえ、そもそも見えていらっしゃいますか?」
「……何の話だ?」
「カイエのそばに何かいるの?」
二人が首を傾げるのを見て、アミナスの背筋に冷たいものが走った。
「精霊とも違う、未知の存在です。 私が見ただけでも、大きな獣、蝶、リス、猫と姿を変えていました」
「……見たことも、聞いたこともないな」
「……私も」
「そうですか……」
これがエコーの逆鱗に触れる可能性を考えると、アミナスは震えそうになる。
「その存在をお嬢様は“エコー“と呼んで、とても親しく……常に一緒に過ごされています」
「エコー……確かに、よく部屋から聞こえる独り言で耳にしたな」
「私も。 また虫か何かをこっそり飼っているのかと思っていたわ」
アミナスの中で、カイエの変人エピソードが追加されたが、努めて冷静に続けた。
「あの日。 お嬢様は瀕死の怪我をされていました。 私のヴィステルでは治せないほどに……」
二人が息を呑む。
当時のカイエは血まみれだったが無傷で、体中の回路が焼き切れてボロボロになっていたのはアミナスの方だったから。
「でもその時、大きな獣姿のエコー様が現れて言ったんです。 『今、許可した』と。 もう一度魔法をかけろと……」
「……それで、どうなった?」
「ヴィステルを唱えた途端、信じられない力が溢れて……お嬢様の傷が瞬く間に、消えました」
二人は顔を見合わせる。
途方もない話なのに、時折震えながら話すアミナスが、嘘を言っているようには見えなかった。
「それと、もう一つ。 エコー様が“許可“されたので、お嬢様は魔法が使えるようです」
「なにっ!?」
「ええっ!?」
「少なくとも、フェルとフェルティアは……」
「⸻天才だ!!!」
「グレンのバカ!! あの子はまだ8歳なのよ!!」
ユリアが嘆き、グレンはあたふたしている。
アミナスは二人のやり取りが落ち着くのを待って、残りの報告を続けた。
カイエが魔法の根本に興味を持ち、危険な実験を繰り返していること。
エコーとの関係。
そして、自分がそばにいることをカイエとエコーが許してくれていること。
話を聞き終えた二人は、目配せで頷き合った。
「アミナス、報告感謝する。 お前から聞けなければ、私たちはカイエの状況に気づけなかった」
「いえ……」
「ねぇ、グレン。 アミナスを治療班ではなく、カイエ専属護衛にしてはどう? 私たちには『エコー』が見えないみたいだし」
「……確かにそうだな。 アミナス、頼めるか?」
「はい。謹んで拝命いたします」
アミナスは胸に手を当て、一礼した。
◆◆◆
そんなことなどつゆ知らず、カイエは厨房に入り浸っていた。
「クッキーをフェルで焼けるかなって思ったんだけど、炭になっちゃった……ごめん、エコー」
「もー、自分の分だけでやってよね! カイエのバカ!」
エコーは猫耳を怒らせぷんぷんしながら、食糧庫へ物色しに行ってしまった。
カイエは仕方なく、一人で鍋の中を観察する。
グツグツグツ……
(あっ、沸騰した)
火を強くすると、泡がさらに激しくなる。
(ブクブクが大きくなった)
泡が積み重なって気泡の層が厚くなるが、それ以上は変わらなかった。
(お水の中と似てる。 ここで水の蓋ができたらなぁ……)
「ん? ……フタ?」
カイエが鍋に蓋をすると——
ジュワァァァッ!!
勢いよく吹きこぼれた。
「きゃー!」
「お嬢様!!」
ちょうど迎えに来たアミナスが慌ててカイエを引き離し、火を消した。
「大丈夫ですか? 火傷は?」
「大丈夫……ありがとう、アミナス」
カイエはホッと息を吐き、ノートを広げて書き加えた。
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『
みず
1、あたためると、ふくらむ
2、あつくすると、もっとふくらむ
3、ふたをすると、もっともっとふくらむ
』
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「なるほどー!」
もちろん、理由はまだ分からない。
でも、アミナスに呆れた顔で見つめられる中、カイエは満足そうに頷いた。
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