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第13話 / 全29話
時刻は酉の刻(午後6時頃)。地平線に最後の光が溶け、大地が黒い闇に染まり始める。平天大聖こと牛魔王は、村から数里離れた荒野の山脈から、その巨大な影を滑り出させていた。
彼の体躯は山塊の如く、頭上の角には、得体の知れない赤い呪文が刻み込まれ、常に脈動していた。角から、心臓の鼓動と同期して、激しい痛みが脳を打ち、彼の理性を暴力へと強制的に歪める。
牛魔王は、喉の奥で獣じみた唸りを押し殺しながら大地を踏みしめた。剥き出しの牙の間から、熱を帯びた呼気が白く噴き出す。彼を突き動かすのは、狂おしいほどの焦燥だ。その焦燥が、彼にこの血の道を強いていた。
数刻前、贄を拒否し、愚かにも牛魔王の呪いに抗おうとした集落があった。その瞬間、狂暴な衝動が彼の理性を焼き尽くした。まるで、呪いのように。
そこでの所業は、人間の筆で書き記せるものではない。
牛魔王の配下である醜悪な妖人たちは、まず最初に、未来に満ちた子供たちを選んだ。 幼い喉から上がる叫びを無慈悲に断ち切り、その喉笛を裂く。飛び散った鮮血が村人たちの顔を強制的に赤く染め上げた。牛魔王は、絶望に満ちた慟哭を耳にしながら、その肉塊を無造作に貪り食った。
女たちは鋭利な鉤爪によって衣服を剥ぎ取られ、その身体は生きたまま皮を裂かれた。 溢れ出す制止の声は、肉が裂ける音に塗りつぶされていく。
牛魔王は、裂かれた肉の奥深くに鉤爪を食い込ませ、昏い歓喜を漏らしながら、その傷口に灼熱の鉄鎖をねじ込んだ。女たちの絶叫は、肉を焼く白煙と鎖の唸りにかき消される。牛魔王は、その生きたままの肉塊が引きちぎれる寸前まで、荒野を蹂躙するように引きずり回した。
男たちは、妻や娘が、目の前で、その肢体に屈辱的な烙印を押される様を、縄で縛られ、強制的に見せつけられた。そして絶望に藻掻き苦しみながら、牛魔王の灼熱の口から吐き出された炎で蒸発していった。
牛魔王の頭上の角からは、パチパチと泡がはじける様な音が聞こえ、もうもうと蒸気が昇っている。彼は、目をつむり、その感触を味わうように呟く。
「ああ……! この血肉の味、絶望こそが、救いだ! 救い! 救い! 救い! 救い! 救い! 救い! 救い…」
彼は、背後に炎上する村の残骸を残して、次の目標である玄奘たちのいる村へと、猛々しい蹄音を響かせて向かっていた。
夜が深まるにつれ、彼の焦燥は増す。夜更けまでに贄を受け取り、村の恐怖を確固たるものにしなければ、彼自身の存在が、何かに押し潰されてしまう。
「待っていろ、贄ども。貴様らの絶望こそが、我を繋ぎ止める鎖なのだ」
牛魔王の巨大な身体から立ち上る瘴気は、地を這い、玄奘たちのいる村へと、確実に近づいていた。
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