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第21話 / 全29話
幼かった頃の夢を見る。
軽すぎるほどの足取りが戻ってくる。
まだ、重たい石の感触を知らない頃。歩くことが、ただの移動だった頃。
私はあの人に会う事だけを考えていた。
乱暴で、声が大きくて、すぐ喧嘩腰になるくせに、背中だけはやけに頼もしい。
そんな姿が、まだ会ってもいないのに、なぜか浮かんでいた。
出会っても、いつも、最初はうまくはいかない。
礼儀がなっていないとか、言葉が汚いとか、そんなことで、私は怒る。
あの人も、「細けぇな」なんて言って、面倒そうな顔をする。
それでも、気づけば同じ道を歩いている。
それが、当たり前になる。
あの人は、私より先に危なそうな場所へ踏み込んでいく。
崩れかけた道も、気配の悪い茂みも、必ずあの人が先だった。
頼んでもいないのに、前に出て、危ない方を引き受ける。
私は後ろから、「無茶しないで」と言う。
聞くわけがないのに、毎回、同じ言葉を口にする。
その繰り返しが、なぜか嫌じゃなかった。
一度だけ、本気で腹を立てたことがある。
理由は思い出せない。
たぶん、どうでもいいことだ。
私は先に歩き出して、振り返らなかった。
それでも、足音は途切れなかった。
置いていかれない。
置いていかない。
その確信だけが、胸に残った。
「今度こそ、うまくやれる」
焚き火の前で、そんなことを思った。
理由はない。
何が「今度」なのかも分からない。
ただ、この道が続いて、明日も同じ場所に座れるなら、それでいいと思った。
火を見つめながら、理由もなく、少しだけ笑っていた。
経典なんていらない。 仏の慈悲なんて、一度も感じたことはない。
私はただ、あなたと、どこにでもある平凡な明日を過ごしたかっただけ。
――ごめんね。
私の「うまくやる」は、
いつだって、あなたを独りきりにしてしまう。
そのことを知らなかったから、あの頃の私は、あんなにも、軽やかに笑えた。
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