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第19話 / 全29話
牛魔王の居城は、切り立った岩山の腹を深々と刳り抜き、血と鉄の臭気が渦巻く巨大な石造りの城塞であった。壁には無数の生贄の骨が打ち付けられ、その呻き声がこだましているかのようだ。
玄奘は、鎖に繋がれた手下に引き立てられ、玉座の間へ導かれた。玉座には、巨大な牛の頭を持つ妖怪、牛魔王が座し、その前に置かれた巨大な大釜からは、煮えたぎる湯気が天井を覆っている。その中身は、もはや判別できないほどに暗い血のような赤色をしていた。
牛魔王は、美しい玄奘を見下ろした。
「顔を上げろ、法師。貴様という誇り高き魂が、今まさにこの釜で溶けるのだと、その口で自覚してみせろ。名を名乗れ」
玄奘は、冷たい石床に膝をついたまま、牛魔王の濁った瞳を真っ直ぐに見据えた。
「……三蔵法師、玄奘と申します」
牛魔王の目の色が変わる。
「……ほう。貴様が、噂の三蔵法師か。あの忌々しい猿を連れていると聞いていたが……奴はどうした。……我らを裏切り、独り天の犬へと成り下がったあの裏切りの猿は」
玄奘は答えない。
「高徳な法師様を見捨てて逃げ出したか。信義を笑い、不義理を糧とする浅ましい弟よ。貴様を食う前に、その首を並べてやりたかったがな」
「私の弟子は、そのような浅ましい男ではない」
「ほう、男だとな…何が男か…あの猿が、何を企み、我らに何を課したか知らぬのだな」
牛魔王は、懐にあるはずの『何か』を確かめるように、分厚い掌で胸元をなぞった。だがそこにあるのは、かつての温もりでも、弾けるような鼓動でもない。ただ、絶えず生まれ、そして弾けて消える「泡」の、虚しくも冷たい感触だけだ。
「……まあよい。法師の肉は久しぶりだ、特に貴様のような若い女の法師はうまい。それをさらに絶望に漬け込めば……さあ、私に最高の『絶望』を献上してもらおうか」
手下は玄奘の法衣を乱暴に剥ぎ取った。布が千切れる鈍い音。
玄奘は、微塵の抵抗もせず、その白く、光を反射するような滑らかな肌を露わにした。しかし、その乳房はすぐに一本の粗縄で持ち上げられ、手下によってキリキリ、 キリキリと、容赦なく締め上げられた。縄は皮膚に深く食い込み、乳房が上向きに強く寄せられる。
小さな息が漏れた。物理的な痛みはもはや感じない。その声には、その瞳の奥には、計画が失敗したことへの絶望が滲んでいた。
ー煮られる、だと? 熱を加えられる、だと?ー
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