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倉庫脱出編 / 第3話
——日本はいま、外部からの侵略を受けています——
「は?・・・えぇ?」
仙川の言い放った言葉に、カイは聞き間違えたかと思い素っ頓狂な声を上げた。
もうひとりの男性自衛官が倉庫の奥から戻ってきた。
「あ~君。名前なんだっけ、俺ぇ、葉月ね、自衛隊~」
フラッシュライトがカイを照らし、葉月という自衛官が近づいてきた。
「僕、佐倉です」
カイはフラッシュライトを手で遮りながら彼を見た。
フル装備の迷彩服。
予備弾倉、無線機、防弾ベストを装備した姿は、さっきの女性自衛官に比べるとかなり大きく見えた。
「ま~なんであれ、無事で良かったわ。状況は最悪だけど」
葉月は防弾ベストのポケットから、セロファンで包まれた大きな丸い飴玉を差し出した。
「これ、おばちゃん特製のHP回復アイテム。あまじょっぱくてウマいよ。ほれ!」
カイに強引に飴玉を手渡し、葉月は肩のレシーバーに手をかけた。
「こちら05。検索終了」
無線機『01より05、状況はどうか』
葉月 「05より01、外よりはマシ」
無線機『01より05、なんだそりゃ・・・了解した。04は救護者と待機、05は戻って民間人の移動にあたれ。』
葉月 「05了解ィ、移動する。終わり」
仙川 「04待機します。終わり」
立て続けに、無線機から割れた声が響く。
無線機『01より02、我々は民間人移動の後交代で周辺警戒にあたる』
無線機『02了解。警戒を継続。終わり』
一人だけ独特な関西弁の返答だった。さっきの拡声器の声の人か。
葉月という男性自衛官が05、女性自衛官の仙川が04、無線の向こうにいるのが01と02でさっきの関西弁が02、ということか。
「じゃー誘導してくるわ、奥に食堂があったから、そこに集合な」
葉月と名乗った男性自衛官は、手信号で奥を指し示し、倉庫の外へ駆け出す。
「了解。気を付けて」
仙川はそう答えて葉月を見送った。
「とりあえず、ここにじっとしててくれる?他の民間人を引き入れるので」
仙川は立ち上がってシャッターの開口部の前へ立つと、肩にかけたライフルを抱えなおした。
やがて、エンジン音が収まると、外から差し込んでいた光が消え、薄暗い非常灯の明かりだけになった。
外は相変わらず激しい雨音が続いていた。
(侵略?侵略っていったよね、何?戦争?)
カイはまだ何が起きているのか判らず、ただぼーっと裂けたシャッターの向こう側を見つめていた。
そこに、外からバシャバシャと水溜りを踏みつける足音と共に、人影が現れた。
自衛官の葉月を先頭に、割烹着を着た初老の女性と医療ウェアを着た若い女性が、俯いたままの小さな男の子を両脇から支えながら倉庫に入ってきた。
続いて、Tシャツとジーンス姿のカイと同い年くらいの青年、黒っぽいスーツ姿の男性。
最後に先ほどの女性自衛官、仙川がカイを促し、一団に付いて奥へと向かう。
葉月が誘導した先は、従業員とトラックドライバー用の食堂兼宿泊所。
入口の自動扉は動かなかった為、葉月が小銃のストックで強化ガラスを叩き割り、強引に開けた。
割れたガラス片を足でどかせ、6人の民間人を奥の食堂へ誘導した。
最後に入った女性自衛官、仙川はライトを構え、真っ暗な配膳カウンターを超えて厨房の中へ消えていった。
最初に入った葉月が、手にしたライトで食堂を照らす。
食堂の中は、よくあるカフェテリア形式のこじんまりとした空間だったが、窓際は何らかの衝撃で割れた窓ガラスが散乱し、テーブルや椅子が乱雑に転がっていた。
かつては配送ドライバーや従業員で賑わっていた場所は、非常灯のおぼろげな光しかなく、時折流れ込む湿った風と雨の音だけが響いている。
スーツ姿の男性が、倒れた椅子を起こし、埃を払って並べ始めた。
「ほら、君も手伝ってくれるか」
40歳位の管理職を思わせる落ち着いた声。
言葉の中に人を動かす力を感じる。
Tシャツとジーンズの青年とカイがほぼ同時に動き出し、それぞれが慣れない手つきで人数分の椅子とテーブルを整えた。
割烹着と医療ウェアの女性たちが、二人で支えていた少年を椅子に座らせ、付き添うように両脇に座った。
葉月がポーチから水筒を取り出し割烹着の女性に渡すと、カイの方を向いた。
「お兄さァん、備蓄用の水や食料、救急キットとか~どっかないか知らないィ?」
カイははっと我に返ると、
「倉庫のですか?食品倉庫なら、隣の棟にあります」
「なるほど。他には?」
「救急箱は・・・ここのカウンターの隅においてあったような・・・」
「オッケイ、あったあった」
葉月がカウンターの端にあった救急箱を見つけ、医療ウェアの女性に手渡した。
耳の奥で鼓動がうるさいほど高鳴り、カイの中の不安が爆発する。
「あの・・・何がおきたんですか?気が付いたら倉庫はぐちゃぐちゃで、会社の人も誰もいなくて、ここもこんなんなってるし、何?戦争??侵略ってなに??」
カイはパニック気味に、早口でまくしたてた。
・・・沈黙の中、激しい雨音だけが響く。
スーツの男性が背後からカイの肩をポンポン、と軽く叩き、落ち着きのある低い声で言った。
「とりあえず雨風が入らないように、割れた窓を塞ぎたいんだが、手伝ってくれないか、その時にでも説明しよう」
男性たちは協力して、テーブルを使って割れた窓を塞いた。
外の雨はさっきより強くなり、強い風とともに横殴りの雨粒が隙間から吹き込んでくる。
「さてと、こっちに来てくれるかい?」
スーツ姿の男に促され、カイは割れていない窓の方へ移動する。
男は、雨が打ち付ける窓の外の闇を見つめ、カイに小さな双眼鏡を手渡す。
「見た方が早いからね。それ、暗視鏡だからよく見えるよ」
スーツの男は窓の外を指さした。
「あれ、見えるか」
カイは、スーツの男が指さす方向に双眼鏡を向ける。
スーツの男は、他の皆に聞こえないよう、カイの耳元に顔を近づけた。
「外、国道の右手のはるか向こう、何が見える?」
「え・・・何!?」
灰色の視界の中、薄暗い道路の向こう・・・雨ともやに包まれた巨大な影が見えた。
動く気配すらない、まるで大きなオブジェにも見えるそれは、うっすらと蒸気のようなもやに包まれていた。
「ここからは見えないが、もっと巨大な、クラゲみたいな飛行物体が上空に現れて、そこに居るような怪物の大群が現れたんだ」
カイは、双眼鏡を構えたまま、息を呑んだ。
「中にはでかいトンボみたいな飛行物体が大量に空を覆いつくして、人を襲い始めた」
「正確には、人を捕まえてはでかいクラゲに運んでいるように見えた」
「街のあちこちで火災が起きて、煙があがって・・・自衛隊が出て応戦していたが、まったく刃が立たなかったようだ」
「冗談・・・きっつ、エイリアンてことですか?」
カイはスーツの男の話を半信半疑に聞きながら、外の巨大な影に目を凝らした。
身体は細長く長い尻尾がありトカゲのような印象。
虫のような節、エビやカニのようなつらなる甲殻。
まるでトカゲと虫と甲殻類のハイブリッドのような姿。
前足は恐竜のように小さいが先端に鋭い爪。
肩に細長い棘のような2対の突起。
後脚は鳥足のような逆関節の太い脚に、鷹のような大きく鋭い鉤爪。
徳川と名乗ったスーツの男が、ため息まじりに吐き捨てる。
「かもな。あんな兵器は見たことがない」
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