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物流倉庫編 / 第10話
「ふぅ~、ウマかったァ~」
最後のひと口を飲み込み、葉月は満足そうに手を合わせた。
「ごっちゃんでした!」
グラスの水を飲み干すと、空になった土鍋に蓋をして、盆を両手に席を立つ。
「あ!そうだ、サクラっち~」
葉月は目の前に座るカイに目配せした後、天井を見上げた。
「この上ってさァ、休憩所って案内板あったけど~?」
「あ!ありますよ、個室になってます」
自分はバイト終わりにシャワーだけ使ったことがあるが、運送ドライバーのおじさん達がよく仮眠や一泊していたのを思い出した。
「おぅけぇぇい、ちょ~っと見てくるわ~」
葉月はお盆を抱えたまま、両手の親指だけを器用に立てて、カウンターの向こうにいる女将さんへ土鍋の載ったお盆を返しに行った。
「ごちそうさまっしたァ~!オトメちゃんの料理めちゃくちゃウマかったぁ!」
「おそまつさまぁ・・・だからおとめちゃんって呼ぶのやめてぇや、恥ずかしい」
女将さんは左手で口を隠しながら、右手をはたはたと上下に振った。
声には嫌そうな困ったような語気があったが、目じりは下がって小皺が目立っていた。
葉月は悪戯っぽくニヤニヤ笑いながら席に戻ると、席の傍に置いていた装備を身に付け、立てかけていたライフルを肩に担いだ。
「じゃぁ~2階みてくるわ、徳さんここ、まかせていい?」
テーブルの向かい側、カイの隣に座っていた徳川がさりげなく右手を挙げ、応えた。
ヘルメットを目深に被り、隣のテーブルにいた楓と仙川の耳元で声をかけ、テーブルに置きっ放しのL型ライトを手にとると、食堂入口の方へ消えていった。
「コーヒー飲む?ミルクはないけど」
女将さんがカウンターから出てきて、食事を終えて一息ついた7人に声をかけた。
「アキラくんは、ジュースか何かにするかい?」
「ぼく、コーヒーのめます」
「あら、大人じゃねぇ、ちょっと待っちょってね」
女将さんが再びカウンターの向こうに消え、カップやソーサーを用意する、かちゃかちゃという音が聞こえてきた。
「女将さんがいてくれるお陰で、だいぶ助かってるね」
食事の盆を片付けながら、徳川が呟いた。
「そうですね、どちらの方なんですか」
Tシャツにジーンズ姿の上田が尋ねた。
「おばちゃんはね~、自衛隊防府基地のアイドルなんや~」
もうひとつのテーブルに座っていた楓が振り向き、自慢げに応えた。
「正確には、隊員食堂の女将さんなんですよ」
楓の隣の仙川が、苦笑いしながら訂正した。
カウンターの向こうでは、ニコニコしながら女将さんが豆の入ったコーヒーフィルターにお湯を注いでいる。
「あ~それで、皆さん顔なじみなんですね」
上田は、納得したように頷いた。
「そういえば上田さんて、何してる人?」
振り向いたついでのように、楓が何気なく質問した。
「僕は、本業は学生なんですけど、動画配信やってて・・・徳川さんの紹介で防府基地に取材に来てました」
ウェーブのかかった長めの前髪を左手で整え、耳の裏に流すと、Tシャツにジーパンの青年、上田 健二(うえだ けんじ)は胸に手をあてて一礼した。
「でも皆さんのおかげで・・・命拾いしました」
「vlog撮ってるんだよね」
徳川がフォローしながら、お盆を抱えてカウンターへ運んでいった。
「へぇ~、フォロワーなん万人?」
楓が感心しながら上田に尋ねた。
「いやいや、まだ1000人すらいってないです・・・」
上田は恥ずかしそうに謙遜していた。
「なんや、そうなんか。でもぎょーさんお金入るんちゃうん?」
楓は手のひらを返して親指と人差し指でわっかを作り、悪そうな顔をした。
「全然ですよ、そのくらいじゃまだ全然収益出ませんし・・・」
上田は少し肩をすくめた。
「おにーさんは、ここの人やったんね?」
楓はカイの方を見た。
カイは背中越しに座っていたが、立ち上がり、楓たちに正対して一礼した。
「はい、バイトです。佐倉 櫂(さくら かい)です」
その様子に楓はいたずらっぽい笑みを浮かべ、座ったままポーズをとった。
「ウチが96式の美少女パイロット、岡崎 楓(おかざき かえで)いいます~。」
「キラ~ン♪」
と、”Money”サインをしていた手のひらを翻し目元までもってくると、指のわっかをパッ!と開いてウインクし、とびきりの笑顔を見せた。
隣の仙川は「えぇ??」といわんばかりに口を半開きにして、冷ややかな視線を隣の自称美少女パイロット(26)に向けていた。
しかしカイは怯むことなく、キラキラした目で楓を見つめている。
カイの興味は、別ベクトルの次元を向いて暴走し始めた。
「あの、96MEのアクチュエーターの動きって繊細ですか?肩から上腕関節までは油圧式で肘から手首までは電動式でマニュピレーターはピエゾ式で指先で折り紙が折れるくらい超繊細な動きが可能って聞いてるんですが操作系ってどうなってるんですかやっぱりバイペダルローダーのコントロールスティックとは全然違うんですよね、どうなってるんだろ?いいなぁ~僕も乗りたいなぁ~よかったらこの後コクピット見せて貰えませんか?やっぱ軍事機密なので無理ですか?ちょっとだけでいいので触らせてもらえたりいやできれば乗ってみ・・・」
「ちょちょちょ、待ちぃ~」
楓がカイのマシンガンのような口撃を、両手で静止した。
「大人しいコだと思ってたのに・・・」
呆気にとられていた仙川が呟いた。
「なんやこのコ、キモ!なにゆうとんのか全然わからへんわ、キモ!」
楓は上半身を反らせて露骨に引いてみせた。
さらに、冷ややかな表情で続けた。
「うちの”みーちゃん(96ME)”のコアは女の園や!男子禁制や!!!」
「・・・葉月さん達が整備してんだけどねぇ」
仙川がぼやいていた。
「んぁ?俺が何ィ?」
動かない自動扉の暗闇から、ゆらゆらとゆらめくキャンドルを片手に葉月が現れた。
「2階、すげぇよ、ビジホみてぇだ。アロマキャンドルまであった」
「窓が割れてて使えない部屋あったけど、割れてない部屋は充ぅぅ分イケる」
手土産のアロマキャンドルを、女性たちが座るテーブルに置いた。
「はい、コーヒー上がったよ」
女将さんが徳川と一緒に人数分のカップ&ソーサーと、淹れたてのコーヒーで満たしたコーヒーサーバーを持って来た。
「悪いことばかり続いたけど、なんだかええ方向に向いてきたねぇ」
女将さんはほっとしたような、安心したような声でコーヒーを注ぎ始めた。
徳川がコーヒーが注がれたカップとソーサーを配りながら続けた。
「飲んで一息ついたら、2階で休みましょう。葉月さん、隊長さんにも報告を」
葉月は頷いて、肩の無線機のスイッチを入れた。
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