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物流倉庫編 / 第3話
自衛官の葉月を先頭に、俯いたままの小さな男の子を支えるように、割烹着を着た初老の女性と、医療ウェアを着た若い女性の3人が倉庫に入ってきた。
続いて、Tシャツとジーンス姿のカイと同い年くらいの青年、黒っぽいスーツ姿の男性。最後尾は先ほどの女性自衛官、仙川が続いた。
葉月が誘導した先は、従業員とトラックドライバー用の食堂兼待機所。
入口の自動扉は電源が落ちてロックが掛かっていたが、葉月がライフルのストックで強化ガラスを割り、扉枠に残ったガラスをきれいに落とすと、6人の民間人を入って右手方向にある、食堂の方へ誘導した。
最後に入った女性自衛官、仙川は皆と逆の左手方向をライトで照らし、真っ暗な配膳カウンターの向こうへ消えていった。
最初に入った葉月が、手にしたライトで食堂を照らす。
内部は、自動ドアから入って右側が食堂で、窓際に沿うように4人掛けのテーブルが並び、6人掛けの大きなテーブルが真ん中に6つ、2列に均等に並んでいる。
よくあるカフェテリア形式のこじんまりとした空間だったが、窓際のテーブルは何らかの衝撃で割れた窓ガラスが散乱し、所々でテーブルや椅子が乱雑に転がっていた。
かつては配送ドライバーや従業員で賑わっていた場所は、非常灯のおぼろげな光しかなく、時折流れ込む湿った風と雨の音だけが響いていた。
スーツ姿の男性が、倒れた椅子を起こし、埃を払って並べ始めた。
「ほら、君も手伝ってくれるか」
40歳位の管理職を思わせる落ち着いた声。
言葉の中に人を動かす力を感じる。
Tシャツとジーンズの青年とカイがほぼ同時に動き出し、それぞれが慣れない手つきで人数分の椅子とテーブルを整えた。
まず、割烹着と医療ウェアの女性たちが、二人で支えていた少年を椅子に座らせ、付き添うように両脇に座った。
医療ウェアの女性は葉月が使っていたL型ライトを受け取ると、少年の顔をまぶしくないよう逸らして照らした。
それから、ライトをテーブルに置き、彼の額に手をあて、脈を計り始めた。
その無駄のない一連の動作に、カイは見とれていた。
葉月がポーチから水筒を取り出し割烹着の女性に渡すと、カイの方を向いた。
「お兄さァん、備蓄用の水や食料、救急キットとか~どっかないか知らないィ?」
カイははっと我に返ると、
「倉庫のですか?食品倉庫は隣に冷蔵と冷凍倉庫がありますよ」
「・・・でも電気落ちてるから開かないかも。救急箱ならここのカウンターの隅においてあったような・・・それより・・・」
耳の奥で鼓動がうるさいほど高鳴り、カイの中の不安が爆発する。
「何がおきたんですか?気が付いたら倉庫はぐちゃぐちゃで、会社の人も誰もいなくて、ここもこんなんなってるし、何?戦争??侵略ってなに??」
カイはパニック気味に、早口でまくしたてた。
(沈黙の中、激しい雨音だけが響く)
スーツの男性が背後からカイの肩をポンポン、と軽く叩き、落ち着きのある低い声で言った。
「とりあえず雨風が入らないように、割れた窓を塞ぎたいんだが、手伝ってくれないか、その時にでも説明しよう」
そして少し間を置いて、
「葉月さん、ケンジ君も・・・お願いします」
スーツの男性は苦笑いしながら、二人に頭を下げた。
「了解しましたァ」
「あああ・・・はい!」
二人はそれぞれに応えると手前側の窓の方へ向かった。
「じゃ、えーと、私と君はこっちへ」
スーツの男はカイを奥側の窓の方を指した。
二人は、窓際のテーブルの上に6人掛けのテーブルを抱え、4人掛けのテーブルの上に倒して窓を塞ぎ始めた。
外の雨はさっきより強くなり、強い風とともに横殴りの雨粒が二人を打ち付けた。
「これで最後かな」
スーツの男とカイは最後の窓をテーブルで塞ぐと、雨風を避けて残った椅子に並んで座った。
「気が付いたらここに独りだったって?」
「はい」
「命拾いしたね、外に出てたら、攫われてた」
「え?」
「皆、攫われてった。・・・もしかしたら殺されてるかもしれないが」
「どういうことですか」
「見た方が早いか」
スーツの男は立ち上がり、カイに双眼鏡型の暗視鏡を手渡すと、塞いだ窓の隙間を指さした。
「あれ、見えるか」
スーツの男の視線は、窓の向こう、倉庫の敷地の向こうの道路の先にあった。
カイは双眼鏡を視線の先に向けた。
スーツの男は、他の皆に聞こえないよう、カイの耳元に顔を近づけた。
「外、国道の右手のはるか向こう、何が見える?」
「!?・・・」
灰色の視界の中、薄暗い道路の向こう・・・雨ともやに包まれた巨大な影が見えた。
動く気配すらない、まるで大きなオブジェにも見えるそれは、うっすらと蒸気のようなもやに包まれていた。
「ここからは見えないが、もっと巨大な、クラゲみたいなのが上空に沢山現れて、あんな不気味な生物とロボットのハイブリッドみたいなのが大量に降ってきた」
「中にはでかいトンボみたいなドローンが大量に空を覆いつくして、あいつらは人を襲い始めた」
「正確には、人を捕まえてはでかいクラゲに運んでいるように見えた」
「街の方はあちこちで火災が起きて、煙があがって・・・自衛隊が応戦していたようだったが、まったく刃が立たなかったようだった」
「冗談・・・きっつ、エイリアンてことですか?」
カイはスーツの男の話を半信半疑に聞きながら、外の巨大な影を観察していた。
身体は細長く長い尻尾がありトカゲのような印象。
ところどころに虫のような節がありエビやカニのような甲殻が連なっているように見える。まるでトカゲと虫と甲殻類のハイブリッドのような姿だ。
前足は恐竜のように小さいが先端は鋭い爪のように見える。
肩にあたる部分に細長い棘か角のような突起が2対。
後脚は鳥足のような逆関節の太い脚の先には、鷹のような大きく鋭い鉤爪。
「かもな。あんな兵器は見たことがない」
「SNSでは、The War of the Worlds(宇宙戦争)って、H.G.ウェルズの古典SFでタグ付けされて拡散してる」
「!?ネット生きてるんですか?」
カイは腰のダンプポーチからスマホを取り出したが、相変わらず圏外だった。
「圏外だよ。衛星ネットがたまに繋がるけど」
見るかい?スーツの男は自分のスマホを差し出した。
受け取ったスマホの画面には、SNSのタイムラインが表示されている。
投稿されたポストには、ビルの間から巨大なクラゲが空中に浮かぶ姿、爆発の画像、トンボのような黒い影が無数に飛び交う動画が撮影されていた。
その中でもショッキングだったのは、黒い影が次々と人々に襲い掛かり、掴んでそのまま飛び去る姿だった。
「火星人?これで巨大な三本足とかもいたら・・・」
「古典SFなのによく知ってるね、でも、火星かどうかも判らない。SNSの中では、月の裏側から突然世界中に現れた、という説もある」
「何なんだ、いったい」
「エイリアンの目的はアブダクション(誘拐)ではないか、という推測も出てる。奴らは人を攫うが、人型の軍事ロボットは容赦なく破壊する。タイムラインの中に中国のロボット兵士の動画があるから見てみるといい」
カイはタイムラインを上下にスクロールさせ、それらしき動画を再生した。
整列して火器を発射するロボット兵士を容赦なくなぎ倒す黒い影。
ロボットの火器は正確に命中しているがまるで効果がないように見えた。
黒い影に着弾し、大きな爆発がいくつも発生しているが、影はまったく怯むそぶりすらない。
逆にその爆風でロボット兵器が吹き飛んでいる様子が映し出されていた。
さらに、空からトンボのような黒い影が急降下してきてロボット兵士の列がなぎ倒され、一瞬にしてバラバラになる様子が撮影されていた。
「ロボット兵士と人間をしっかり区別しているらしい。人にはこんな風に攻撃しない、ただ捕まえて攫っているんだ」
「中国のアンドロイド兵って最先端でしたよね、まったく通用してないみたいだ」
「ああ、実際に見たが、戦車砲も戦闘機のミサイルも、まるで効果がない。逆にそれで市街地に被害が出てそこらじゅうで火事になっている」
「あいつは動かないんですか?」
「あぁ、雨が降り出してから急に動かなくなった」
「雨に弱いとか?」
「わからない。雨が降り出したら、飛んでいたやつらも急にいなくなった。ただ・・・」
「ただ?」
「相変わらず攻撃は通じないし、近づいて攻撃すると動き出して反撃される」
「それであの子は助かったが、自衛官が一人、犠牲になった」
女性二人に囲まれて、ずっと俯いたままの少年を見た。
割烹着姿の女性が少年の肩をやさしく抱き、背中をさすっていた。
「あぁ、自己紹介がまだだったね、私は丸菱商亊の徳川と申します。ここの物流センターにはよくお世話になってました」
スーツ姿の男性は胸ポケットからIDカードを取り出して、カイに見せた。
「名刺は基地から逃げるときに落としたみたいでね、IDカードですまないが」
「佐倉です、佐倉 櫂です」
「宜しくね、佐倉くん」
徳川が右手を差し出してきて、カイと握手した。
「君がいてくれて良かった、ところで・・・」
「この会社の事務所ビルには入ったこと、ある?」
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