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物流倉庫編 / 第2話
吹き飛ばされたシャッターから、迷彩服を着た自衛官が二人、ライフルを構えながら入ってきた。
一人は細身だががっしりとした体形でまっすぐライフルを構え、もう一人は小柄で機敏な動きで周囲を警戒している。
二人は二手に分かれた。
一人は倉庫内をゆっくりと、ライフルを構えながら全体を把握するようにライトを巡らせながら倉庫の外壁に沿って移動し、内部の様子を確認し始めた。
もう一人は、倉庫の隅で立ち尽くしていたカイを見つけると、構えていたライフルを肩にかけ直し、フラッシュライトを手に駆け寄ってきた。
「自衛隊です。大丈夫だった? とりあえずそこ、座ろうか」
フラッシュライトに照らされた先に、パイプ椅子があった。
「これ、お茶。飲んで。お名前を教えてもらっていいかな」
「佐倉 櫂(さくら かい)です。高専の学生です」
名を名乗った青年は、自衛官が差し出したペットボトルのお茶を受け取ると、キャップを捻りゴクゴクと喉を潤し、そばにあったパイプ椅子に力が抜けたように座り込んだ。
「なんでこんなとこにいたの?バイト?」
ヘルメットを目深に被った女性自衛官が青年の前にひざまずいて、彼を見上げた。
「はい、バイトです」
お茶を3分の1ほど一気に飲むと、カイはやっと一息ついて、ほっとした様子で応えた。
「僕は自衛隊の仙川(せんがわ)といいます。防府基地から来ました。」
片手でヘルメットの位置を直すと、女性自衛官は落ち着いた声で自己紹介した。
カイは、お茶をもうひと口飲んで、周囲を見回す。
「すみません何が起きてるか全然わかってないんですけど・・・」
「その前に、怪我してないかちょっと見せてね」
仙川と名乗った自衛官は、立ち上がるとフラッシュライトでカイの頭部、両腕、体、両足を順に照らして外傷がないか確認した。
「怪我は・・・ないようね。どこか痛むところはある?」
こんなものしかないけど、と肩から下げていたバッグからウェットティッシュのパックを取り出すと、1枚取って手渡した。
「顔、それで拭いてね」
「ありがとうございます」
ウェットティッシュで顔を拭いたら、少しすっきりした。
飲み屋でサラリーマンがおしぼりで顔を拭く気持ちが少し判った気がした。
女性自衛官は肩のレシーバーに手をかけ、カチリと押すと喋りはじめた。
「04より01、男性1名を保護、外傷なし、送れ」
『05、現在周辺検索中、どうぞ』
『01から04、了解。05は検索後報告せよ、終わり』
レシーバーから手を放すと、仙川と名乗った自衛官はカイの方を向いた。
「私たちもまだ状況がはっきりと掴めていないんだけど・・・」
仙川は再びカイの前でしゃがみこみ、真剣な顔で彼を見上げ、
「日本はいま、外部からの侵略を受けているようです」
「は?・・・えぇ?」
カイは自分が何か聞き間違えたのではないかと、よくわからなくなった。
もうひとり、倉庫内を回っていた自衛官がフラッシュライトを片手に戻ってきた。
「あ~君だね、サバイバー。名前なんだっけ、俺ぇ、葉月ね、自衛隊~」
フラッシュライトがカイを照らし、男性自衛官がゆっくりと近づいてきた。
「佐倉です」
カイはフラッシュライトを手で遮りながら彼を見た。
迷彩服の上に予備弾倉、無線機などが付いた防弾ベストを装備した姿は、小柄で軽装に見えた仙川と違い、対照的に大きく見えた。
「ま~なんであれ、無事で良かった~、状況は最悪だけど」
男性自衛官はごそごそと着ているベストのポケットをまさぐって、カイにセロファンで包まれた大きな丸い飴玉を差し出した。
「これ、おばちゃん特製のHP回復アイテム。あまじょっぱくてウマいよ~、ゆっくり舐めて~」
カイに強引に飴玉を手渡し、葉月は肩のレシーバーに手をかけた。
「こちら05。検索終了。送れ」
無線機『01より05、状況はどうか』
男性自衛官「05より01、外よりはマシ」
無線機『01より05、なんだそりゃ・・・了解した。04は誘導待機、05は戻って民間人の移動にあたれ。』
男性自衛官「05了解ィ、移動する。終わり」
女性自衛官「04待機します。終わり」
『01より02、我々は民間人移動の後交代で周辺警戒にあたる』
『02了解。警戒を継続。終わり』
一人だけ独特な関西弁の返答だった。さっきの拡声器の声の人か。
葉月という男性自衛官が05、女性自衛官の仙川が04、無線の向こうにいるのが01と02でさっきの関西弁が02、ということか。
「じゃー誘導してくるわ、向かって右手奥に食堂があったから、そこに誘導する」
葉月と名乗った男性自衛官は、手信号で右手奥を指し示すと、倉庫の外へ出て行った。
「了解。気を付けて」
仙川はそう答えて葉月を見送った。
「とりあえず、暫くここにじっとしていてくれる?他の民間の人たちをこの中に一旦引き入れるので・・・少し待ってて」
仙川は立ち上がってシャッターの開口部の前へ立つと、肩にかけたライフルを構えなおし、出迎えの準備に入った。
やがて、エンジン音や何かの駆動音が収まると、倉庫の外から差し込んでいたライトの光が消え、薄暗い非常灯の明かりだけになった。
外は相変わらず激しい雨音が続いていた。
(侵略?侵略っていったよね、何?戦争?身を隠すって?)
カイはまだ何が起きているのか判らず、ただぼーっと裂けたシャッターの向こう側を見つめていた。
外側では、何人かが忙しく行き交う足音が聞こえていた。
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