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物流倉庫編 / 第16話
「徳川さん、お話はあとで。緊急事態です」
通信を受けて、八代は立ち上がって続けた。
「徳川さん、佐倉くん、お二人は食堂にいる皆さんをここへ。状況が落ち着くまで身を隠してください」
「了解しました。隊長さん、気を付けて」
八代は身を屈めながら大型倉庫のトラックヤードの方へ駆けていった。
「佐倉くん、行こう」
「は、はい」
二人は食堂へ駆けだした。
「——目標を視認。直線距離で約550、位置、52S VT 1869 7046」
楓の2番機は低い建物の影に隠れ、頭部カメラのみを露出させて対象の位置を監視していた。
雨上がりの曇天の中、破壊され、廃墟となったレストランの向こう側で、巨大な影はぐるぐると周囲を伺いながら徘徊を続けている。
『指揮車05より全隊へ。対空レーダーに感あり! 方位280、距離2、高度800、2機捕捉!』
『IFF反応なし、アンノウンと認定。機速400で真東方向へ移動、まもなく我が方の北側を通過!』
『距離1.2、来るぞォ!最接近!』
強風が吹き抜けるような轟音と共に、2つの大きな黒い影が彼らの北側の空を横切っていった。その姿はまるで巨大な蜻蛉のようだった。
『真北を通過!そのまま東へ離脱中・・・ハァ~びびったァ』
『あのトカゲみたいなのガン無視で行きよったなぁ、連携しとらんのかいな』
楓は視線の先の巨大な影を注視しながらぼやいた。
『電波らしきものは受信できましたが、デコードできませんでした』
仙川は偵察車両のコンソールをチェックしながら補足を加えた。
『こちら01、1番機起動した。葉月、上空のアンノウンはどうか』
『そのまま東方向へ離脱。レーダーロストォ』
「了解。全隊そのまま待機」
起動した1番機のコクピットの中で、八代は各隊員からの情報を整理していた。
2番機の捉えているカメラ映像を受信し、徘徊する巨大な影を観察する。
「見た感じ、あれだな、恐竜映画のアレっぽいな」
明るくなってから改めてその姿を確認すると、八代は無駄口を叩いた。
『ヴェロキ・ラプトルですか?』
『強そうやなぁ、カナヘビとかでええんちゃう?」
『カナヘビて・・・イモリとかヤモリでいいんじゃね?』
「ひとまず、監視中の対象Aをラプトル、離脱した飛翔体アンノウンB,Cをトンボと呼称する。さて、アイツをどうするか・・・」
「動き始めた以上、放置はできない。いつかはここに気付くだろう。撃退するか、撤退するか・・・」
『隊長、どうしますか』
仙川が尋ねた。
「近すぎるんだよなぁ」
『意見具申。今のうちに倉庫の弾薬、補給しませんか』
「そうだな、02、05は『弾薬庫』へ移動、装備の確認と補給を頼む」
「04は俺とラプトルを監視。万一接敵した場合はここから引き離す」
「音は立てるなよ」
『02了解。移動する』
『05了解、あのサクラってコに手伝ってもらうわ~』
「通信終わり」
通信を切った後、八代はラプトルを睨みつけて呟いた。
(うろうろしてねぇでとっととどっか行けよこのトカゲ野郎)
『04より01、微弱な電波を感知。これは・・・ドローンの無線操作の可能性大!』
二人を送り出した後、仙川の報告が入った。
「04,位置、方向は検知できるか」
八代が声を上げる。
『距離約800、10時方向、まっすぐ南方向へ移動中』
「目視する!」
片膝をついていた1番機がゆっくりと立ち上がり、目標を視認しようと方向を合わせる。
「どこのドローンだ!」
民生用の4発モーターのプロペラを持つドローンが、まっすぐラプトルの方へ飛んでいく。
低い高度から接近し、ラプトルを見下ろすように上昇すると、まるで観察しているかのようにゆっくりと旋回しはじめた。
「04,電波の発信源を特定できるか!」
『・・・特定できません、おそらく衛星を経由している可能性大です』
「刺激すんなよ、ったくよォ!」
八代は思わず怒鳴り声を上げた。
ラプトルはドローンを見上げ、旋回に合わせてぐるぐると向きを変えた。
長い尾を激しく地面に叩きつけながら威嚇しはじめると、両肩の棘のような器官から、細長い棘状の物体を発射した。
棘はドローンを掠め、放物線を描いて八代たちのいる倉庫近くに駐車されていたトラックの列に突き刺さった。
勢いでトラック数台が吹き飛ばされ、炎を上げ始めた。
「やばい・・・」
ドローンは高度を取りながら、火の手があがった方へ移動しはじめた。
つられて、ラプトルが移動するドローンに棘を発射しながら追いかけ始めた。
こちらに向かってきている!
「04,ドローンとラプトルが急速接近中、隙をみて我々が道路に飛び出して逆方向に誘導する、指示を待て!」
『えぇ!?僕も行くんですか!?』
「あぁ、囮は多い方がいい、それにお前の車なら逃げ切れるだろ?」
ドローンは、彼らのいる倉庫会社前の国道を左右に蛇行しながらこちらへ向かってくる。
丁度倉庫会社の前に差し掛かったとき、棘がドローンに命中し、吹き飛ばされて倉庫会社の向こうへ転がって行った。
ラプトルはそれを追いかけ、落ちたドローンを前足の鉤爪で捉えた。
「スモーク発射!今だ、走れ!」
八代の1番機の胸部にマウントされた射出口から、スモークグレネードが2発発射された。
少し遅れて、仙川の乗る偵察車両からもスモークグレネードが射出された。
八代の1番機は倉庫前の駐車場を飛び越え国道に出ると、ドローンを捕縛しているラプトルの背後へ腕に装備した50ミリライフルを発砲した。
砲弾はラプトルの尾に命中したが、白い結晶のようなものに遮られ、跳弾した。
その隙に、スモークが発煙しはじめた合間をぬって、仙川の偵察車両が国道へ飛び出すと、南方向へ全速力で走りだした。
仙川の偵察車両が走り抜けたのを確認すると、八代の1番機は後退しながらラプトルへ射撃による攻撃を続けたが、弾丸はラプトルに命中しても白い結晶を発して跳弾するだけだった。
「とにかく走れ!倉庫から引き離すんだ」
八代は無線で怒鳴りながら後退を続け、機体を翻し国道を南へ駆けだした。
八代はリアカメラの映像でラプトルがドローンを投げ捨て、踵を返してこちらを追いかけてきたのを確認した。
倉庫はスモークグレネードの煙幕で完全に隠されていた。
ラプトルの視界には、八代と仙川しか見えていないはずだ。
「全力で逃げるぞ。とにかく倉庫から引き離せ」
一方、楓と葉月は『弾薬庫』の前で楓の2番機の弾薬補充を行っていた。
96ME専用の50ミリ2連装ライフルのマガジンを、カイの運転するバイペダルローダーで倉庫のコンテナから外へ運び出し、交換する作業をしていた。
交換作業を終え、次に昨夜倉庫のシャッターを切断・破壊するのに使った振動式ショートブレードを持ち出している最中に、仙川からの緊急通信が入った。
「やべぇな」
葉月が無線の音声を聞いて呟いた。
「何かあったんですか」
振動式ショートブレードを楓の2号機の脚部にマウントしながら、無線に気付いたカイが尋ねた。
「なんかドローンがヤツにちょっかい出してるらしい」
「ドローン?じゃ他に誰か近くにいるってこと?」
カイはバイペダルローダーから身を乗り出した。
その時、近くで「ガシャン!ガシャン!」と複数のトラックが吹き飛ばされる大きな音が聞こえたかと思うと、道路に面した駐車場の方で火の手が上がった。
突然の大きな音に、その場にいたサヤとアキラが小さく悲鳴を上げ、徳川と女将さん、上田は表情を強張らせて身を竦めた。
「楓ちゃん、交換OK!」
葉月が大声で合図を送った。
「まだ30ミリハンドガンのマウント済んでないですよー!」
カイはコンテナから巨大なハンドガンを運び出そうとしていたが、葉月に制止された。
「なにやらおっ始まった、扉を閉めて身を隠せぇ、いいな!」
葉月はそう言うと指揮車両に向かって走り出した。
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