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第21章 雪原の向こう / 第259話
真剣勝負は始まった。私とクラウ、アレクとフレアを隔てる雪壁は四つ――隠れながら、クラウと一緒に雪玉を積み上げていく。
「焦らなくても良いよ。アレクとフレアも同じ状況だろうから」
「うん」
頷きながら、クラウの手元を見てみる。大丈夫だ、魔法は使っていない。
「俺があの二人よりも先に雪玉を投げて、あっちの雪玉がなくなるまで投げさせる。また二人が雪玉を作ってる隙を見て、前に出るんだ」
「そんなに上手く行くかなぁ」
「大丈夫だよ。きっと上手く行く」
『大丈夫』の一言が胸を熱くさせる。真剣勝負とはいってもただの遊びなのに、酷い安心感だ。
「仕掛けるよ。ミユは雪玉作ってて」
「分かった」
手を動かしながら、視線だけを持ち上げてみる。クラウはひょいと、ひと玉だけアレクとフレアのいる方へと放り投げた。
「なんだ!? もう雪玉作り終わったのか!?」
「また魔法!?」
「そんな訳ないじゃん!」
どうやら二人を混乱状態に持ち込めたらしい。三人の声が雪原に響いたかと思うと、頭上を雪玉が掠っていった。クラウは再び頭を下げる。
「んなしょぼい玉じゃ、オレらには当たんねーよ!」
「隠れてないで出てきたら?」
次々と投げ込まれる雪玉に、クラウの口元が上がった。
「ね? 上手く行った」
流石、雪合戦を熟知していると言ったら良いのだろうか。誘導的な戦略に、唸り声を上げてしまった。雪玉の雨は数分と持たず、アレクの叫び声が響く。
「もう雪玉ねーのか!?」
「焦らないで。また作れば良いでしょ?」
自らの行動を晒してしまっているアレクとフレアに、思わず笑ってしまった。これでは私たちに『前に進んでください』と言っているようなものだ。
「左手に抱えられるだけ雪玉持って。行くよ」
「うん」
言われるがままに雪玉をかき集め、クラウの後ろに続いた。数歩前の雪壁を目指す。
「……なんてな」
アレクの声に、はめられたと身構える。重たい音を立て、クラウの肩に雪玉が当たった。
「ひと玉だけ残してたんだ。悔しいだ……ぶっ!」
間髪を入れずにクラウは右腕を振り上げる。雪玉はアレクの顔面に命中した。その姿は雪壁の向こうへと消えていく。
「これくらい見越してたよ。まだ一発当たっただけじゃん。あと二発も残ってる」
迫る雪壁に滑り込み、さっと二人で身を潜める。雪の飛沫が頬に当たり、熱を奪っていく。私としてはクラウに雪玉が当たるなんて、予想外の事態だ。僅かに心拍が上がる。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。これくらいなら、作戦に響かないし」
「そうじゃなくて、痛くない?」
私はただ、心配なのだ。青い瞳を見詰めてみると、彼も意味を理解したらしい。すぐに、にこっと笑ってくれた。
「大丈夫、痛くないよ。それよりさ」
私の頭にポンポンと触れると、クラウは目を雪壁から出して、ライバルの様子を窺う。
「アレクが伸びてる間に、もうひとつ前に進もう」
「分かった」
フレアの力では、きっと剛速球は放てない。私でも分かる。クラウが雪壁から飛び出したのを合図に、私も安全地帯から脱した。フレアは目を吊り上げ、雪玉を作ってはこちらに投げる。
「もう! アレク、早く起きてよ!」
微かにアレクの声も聞こえるけれど、なんと言っているのかは分からない。フレアの口はへの字に曲がっていく。
頭を出していては、格好の餌食だ。私にも出来るだろうか。フレアの頭部を目がけ、雪玉を放った。玉は弧を描き、フレアの上腕にぶつかる。
「きゃっ!」
「ミユ、ナイス!」
また雪壁の元に滑り込み、ほっと息を吐き出す。私の玉が当たった。それだけのことが、酷く嬉しい。クラウの役に立てた。フレアの反感は買ったかもしれないけれど、これは遊びだ。割り切って、また雪玉を作っていく。
「クソっ! ぜってぇ倒してやる!」
アレクが復活したらしい。まるでゲームのラスボスに放っているかのような文言だ。
「じゃあさ、こっちに近付いてきなよ」
「……やってやる!」
クラウの煽りに、アレクも乗ったようだ。これはクラウの作戦に決まっている。アレクの負けは決した。
雪玉が飛んでくる間合いを見計らい、クラウは雪玉を振り投げる。
「ってぇ!」
流れ弾が当たるのは嫌なので、様子は音でしか窺い知ることが出来ない。アレクの呻きに紛れて、雪玉の当たる音が確かに二回聞こえた。
「アレク、退場!」
恐る恐る雪壁から頭を出してみると、項垂れるアレクの姿があった。コートには二発の雪の跡がしっかりと残っている。
「嘘でしょ? あたしには無理だよ。降参だよ……」
フレアも両手を上げ、大きな溜め息を吐いた。
「ミユ、やったね!」
「うん!」
フレアが降参してしまった今、私の手柄はほぼゼロだろう。でも、雪玉を一発も当てられずに済んだ。その事実が達成感を与えてくれる。
「あー、楽しかった! やっぱ遊びはこうじゃねーとな!」
負けてしまったのに、アレクは笑顔で大の字に寝転がる。私たちもそこへ近付き、四人で身体を横たえた。雲が数個浮かんではいるものの、眩しい薄い青空は私たちに微笑んでいるかのようだ。
「魔法なんて、使わない方が楽しいでしょ?」
「うん。この前はごめん」
素直に謝るクラウに、フレアはクスクスと小さく笑った。
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