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第21章 雪原の向こう / 第260話
「そういえば、この原っぱって、どこに繋がってるんだろうな」
アレクがぽつりと呟いた。
「海とかじゃないの?」
「海か。見てみてーな」
アレクも海を見たことがないのだろうか。それなら、試しにこの大地の淵まで行ってみても良いと思うのだ。
「行ってみない? 辿り着けるのかは、分からないけど」
歩いて淵まで行けるのなら、私も見てみたい。好奇心が顔を覗かせる。アレクが上半身をむくりと起こした。
「それもありだな。行ってみよーぜ」
誰の返事を聞くでもなく、アレクは立ち上がり、コートについた雪を払う。残った私たち三人も身体を起こし、顔を見合わせた。
「大地の果てなんてあるのかな」
「分からないけど……行ってみない?」
クラウが懐疑的な思考に偏る一方で、フレアは興味ありげに微笑む。
「行ってみようよ。行けるのも今だけなんだから」
あの時に行ってみれば良かったなんて、将来考えるのかもしれない。それなら行動に移してしまおう。先に歩き出したアレクに続こうと、クラウの手を握った。
「行こ行こ~」
「ちょっ……ミユ!」
叫びはしたものの、無理に手を放そうとはしない。半ば諦め気味に、クラウは小さな溜め息を吐く。
「アレク、疲れない? 雪、漕いでるでしょ」
「まぁな。でも、少しだけだ」
「ちょっと待ってて」
フレアはアレクへと駆け寄り、前方に手をかざした。火炎を放つと、雪の解けた一本道が出来上がる。
「これでちょっとは歩きやすくなったでしょ?」
「いや、それじゃあ、フレアの体力ばっかり減らしちまう。次はオレに合図してくれ」
「合図?」
「あぁ、火炎旋風で雪を吹き飛ばす」
成程、その手があったか、と私も納得した。火炎旋風なら、アレクの力も借りて、より遠くの雪を解かすことが出来る。
「俺よりも先にアレクが気付くなんて、明日は矢が降るよ」
「オマエなぁ!」
アレクは一瞬怒りを露わにしたけれど、苦笑いをするに留まった。大きな口喧嘩にならずに済んで良かった。ほっと胸を撫で下ろし、フレアと視線を交わす。
「果てまで何キロくらいあるんだろうな」
「四キロ以上あるのは確かだね」
再び果てを見据えたアレクの問いに、クラウが答える。
「地平線は四から五キロ先らしいから」
「そんだけしかねーのか。今日中に果てまで辿り着けるかもな」
アレクは何度か頷いた。
フレアのお陰で歩きやすくなった道を四人で進む。ルイスとの戦い前に体力づくりはしていたので、雪道、しかも長距離でも難なく歩くことが出来た。一時間ほど歩いたところで、地平線の違和感に気付く。
「ん~?」
目を凝らしてみても、見間違えではない。地平線までの距離が短くなっているようなのだ。
「ミユ?」
「地平線が近付いてきてない?」
「えっ?」
クラウも私と一緒になって立ち止まり、果てに目を細める。
「地平線が近付くなんて、んなことあるか?」
「……ホントだ。近付いてる」
「……あ」
遅れて地平線に目を遣ったアレクとフレアも、異変を察知したらしい。これは海があるというよりも、正しく『地の果て』が待ているように思われる。ちょっとだけ怖いと感じてしまった。
「引き返す?」
「いや、折角ここまで来たんだ。海だろーと、果てだろーと、しっかり見てみようぜ」
「そうだね」
誰かが引き返そうと言ってくれないだろうか。淡い期待をしてみたけれど、三人は笑い合うだけだった。自ら言うしかない。
「ちょっと怖いなぁ」
「オマエ、一人でここで待ってるか?」
「一人は……嫌。それなら行く」
今まで様々な試練を四人で乗り越えてきたのに、ここで一人にされるのは嫌だ。口を尖らせると、クラウが優しく私の頭に触れた。
「うん。一緒に行こう」
なんて温かく、力強い笑みだろう。そのまま何も言えなくなってしまい、されるがままに手を引かれた。
雪道を一歩一歩踏み締めるたび、鼓動は速まっていく。果てを見たから世界が終わるなんてことはないのだけれど、何かが変わってしまう気がする。ただの予感だ。
「アレク、面白い話してよ」
不意にクラウが口を開いた。
「何でオレなんだ? 自分ですれば良いだろ」
「こういうのは聞くのが楽しいんだよ」
「なんかあったか……?」
アレクは唸り声を上げ、天を仰いだ。
「ああ、こんなことがあったな」
「何〜?」
アレクの話にワクワクしている自分がいる。先を急かすと、彼はにかっと笑った。
「ミユも気になんのか? 良いぞ、話してやる。あれはトパーズで女王の誕生祭をやってた日なんだけどな? 勿論、魔導師なんて外に出られる訳がねぇ。女王のパレードが行われる合図の花火が鳴った時、部屋にはオレと、あとロイがいた。それでロイが言ったんだ」
トパーズがどんな所なのか、想像も出来ない。それでも、空に煙と音だけの花火が打ち上がった所だけは頭に思い描けた。
アレクは一呼吸置くと、ふっと息を吸い込む。
「『きっと民衆は女王になんて見向きもしないで、屋台に群がってますよ』ってな。今になってみりゃ皮肉だって分かるけどよー、あの時のオレは『んな不謹慎なこと言うんじゃねぇ!』って突っ込んじまった。女王があんな性格だったとはなー」
魔導師を辞めろと迫られ、ワルツを踏んだ時を思い出す。トパーズ女王であるマグには、棘のある言葉を投げかけられるばかりだった。嫌味な性格だと、ロイは知っていたのだろう。
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