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第14章 存在意義 / 第233話
クラウやアレク、フレアが悲しみに暮れる中で、私は混乱の最中にいた。
待って欲しい。私は一言も地球に帰りたいなんて言っていない。私の未来を勝手に決めないで欲しい。
「オニキス」
「何だ?」
「私、地球に帰りたいなんて言ってない。でも、スティアに留まったままでどうにかなるとも思ってない。今すぐに、どっちの世界に生きるか選ばなきゃ駄目なの?」
「ミユ……!」
クラウが私の腕を掴んだ。
彼の気持ちは分かっているつもりだ。スティアに留まって欲しい。きっとそう願っている。でも、今回だけは私の気持ちを尊重して欲しい。
心の中で「ごめんなさい」と呟き、クラウの手に自分の手を重ねた。
「確かに地球で体験したかけがえのないものは忘れられないし、大切な人だっている。でも、スティアだって大切なことを教えてくれたし、ここにいる皆、私が守ろうとしたスティアの人たちだって大切な人なの。どっちかを選ぶなんて、今の私には……」
無理だ。まだ将来の夢を持てずにいた私が、地球に帰って何が出来るだろう。確かに家族には会いたいと思う。一言、留守にして申し訳なかったと謝りたいとも思う。吹奏楽部にだって戻りたい。定期演奏会をみんなと終えたい。それ以外は――思い当たらないのも事実だ。
一方でスティアは、大事な人が沢山いるものの、私の居場所がない。家族もいない、家もない、故郷すらない。
「確かにスティアにいたいとは思う。でも、私の居場所なんて――」
「大丈夫だよ、ミユ」
はっと顔を上げると、エメラルドがにこやかに微笑んでいた。
「ミユがスティアを選ぶなら、ミユの居場所は私たちが保証する。家族も、家も用意する」
「でも、それって偽りの家族でしょ? そんなの、人を騙して暮らしてるみたいだよ」
人を騙してまでスティアに留まる必要はあるのだろうか。
そして、クラウには再会出来るのだろうか。私も一人ぼっちで生きていかなければならないのだろうか。
地球に帰ったとしても、スティアに留まったとしても、クラウ以上の人に逢えるとは思えない。
人目もはばからず、クラウに飛びついた。彼も腕を私の背中に回し、抱き締めてくれる。
「そんなに別れが辛いなら、魔導師だった頃の皆の記憶を消して――」
「止めて! 別れるよりも、忘れる方がもっと嫌!」
出逢い、交わした約束、再会、葛藤、そして今の気持ち――どれも失い難い大切な物だ。
フレアも私と同じ状態なのだろう。隣からくぐもった、啜り泣く声が聞こえてきた。
そんな状況を変えようとしたのか、クラウは私の頭を撫でながらも神に確認を取る。
「さっきの話に戻るんだけどさ。スティアの人たちを滅ぼすことは、止めてくれるんだよね?」
はっと我に返り、クラウの瞳が神々をまっすぐに捉えているのに気づき、私もその視線を辿る。神々は一様に頭を抱えていた。
「オマエら、言い出したら聞かねーからな……。オマエらの熱意に負けた。人類滅亡の話はなかったことにしてやる」
「でも、世界中で争いが起きて収拾がつかなくなった時は……覚悟してね」
そう語るトパーズとサファイアの目には、敗北感と決意が滲んでいた。
とりあえず、今は難を逃れたのだろう。良かった。本当に良かった。クラウと顔を見合わせ、目を潤ませる。
それと同時に、緊張感も沸いてくる。争いが起きた時には、必ず人類は滅亡させられてしまう。戦争は意地でも止めなければ。しっかりと心に刻み込む。
ガーネットは他の三人の神々と目配せをし、小さく頷いた。
「貴方たちに与える猶予は七日間。七日経ったら、元あるべき場所へ戻ってもらうね。それまでに、魔導師としての思い出を作っておきなさい。後悔しないように」
「七日経ったら、それぞれ私たちに通じる塔の魔法陣に来てね。そうすれば、またここに来れるから。ミユ、それまでに地球に戻るか、スティアに留まるか決めておいてね」
エメラルドも強く念を押す。
たったの七日間――いきなり突きつけられた時間に戸惑ってしまった。果たして七日間で決められるのだろうか。出せない答えに呑まれそうになっていると、トパーズは意地悪な笑みを湛えて指を鳴らす。
「んじゃ、オマエらクリスタルに戻って――」
「待て」
トパーズの言葉を止めたのはオニキスだった。神々と私たちを見比べ、慎重に言葉を紡ぐ。
「俺はまだ魔導師に話がある。少しだけ、俺に魔導師を預けてくれないか?」
あまり乗り気ではないのだろう。トパーズの眉間にしわが寄った。
「オレらに聞かれちゃマズい話なのか?」
「うーむ、ちょっとな。まあ、悪い話ではない」
オニキスは顎に手を当て、トパーズに向かって苦笑する。
「頼みを聞いてくれるか?」
その真剣な眼差しに、一時の沈黙が訪れた。それもすぐに破られる。
「昔のよしみもあるしさ、良いんじゃない? 信頼出来る奴だし」
「それもそうだね」
サファイアの言葉に、神々が同意した。頷き、オニキスに笑みを返す。
「ありがとう。さあ、魔導師たち、椅子から立ち上がって、そこに並んで」
オニキスは何を話すつもりなのだろう。神々には答えられないのなら、聞いてもここでは教えてくれないだろう。訝りながら、四人で顔を見合わせる。
「大丈夫だ、取って食うつもりはないからな」
「みんなに何かあったら、私たちがオニキスを許さないから。信じて大丈夫だよ」
オニキスはエメラルドの援護もあって、にこりと笑う。ここまで言われては、従わない訳にもいかない。
気を揉みながら、そろりと椅子から立ち上がる。アレクを先頭に、オニキスが指さした場所へと並んだ。
「目を閉じて」
素直に目を閉じると、オニキスの「よし」と言う声が聞こえた。その瞬間、身体が浮遊する感覚に陥る。これはワープだ。
「さあ、目を開けて」
足が地に着いた感触がすると、ゆっくりと瞼を開けていく。
まだ目を閉じているような感覚に陥ってしまった。闇の塔へ行った時と同じく、四方八方どこを見ても、暗黒が果てなく広がるばかりなのだから。不思議なことに、真正面に構えるオニキスと、一列に並んだ仲間は輪郭を保ったまま佇んでいる。
オニキスは唐突に話し始めた。
「仲間を……神たちを悪い奴だと思って欲しくない。何度も人類を滅亡に追い込んだけど、強い罪悪感を持ってるんだ。その証拠がある。お前らも知ってる場所なんだけど……」
「えっ?」
クラウの方を見てみたものの、二人で首を傾げるばかりだ。全く見当がつかない。アレクとフレアの方を見てみても、同じように首を傾げている。
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