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第14章 存在意義 / 第232話
そんなことはしないで欲しい。僅かに残る希望を乗せて、神へと視線を移動させた。四色の瞳を見ただけで、神々の決意のほどが窺える。
「そのつもりだよ」
エメラルドがきっぱりと言い切った。
「今のスティアは悪の心で満ちてる。影の存在に気づくのが遅れたからだよ。時、既に遅しで、エメラルドの分身――カノンとミユが呪われてしまった。この時点で人類を滅亡させようかと思ったけど、あたしたちの力じゃ、印を持つ程に強い呪いを解けなくて。サファイアの分身――クラウが呪いを解いてくれるのを待ったの。クラウの心の隅にある闇の魂は、魔力を失えば消滅する程に弱くなってる。ミユの力のお陰でね」
「だから、一回魔導師の魔力を奪って闇を消滅させる。その後、人類を滅亡させてスティアを浄化するんだ。そして、新しい人類を創る」
続いて、ガーネット、サファイアが丁寧さはあるものの、残酷に話を進める。
人の心を探って知ったのなら、神だって分かる筈だ。人類を消滅させたとしても、新しい人類を作るなら同じことが起きる。負の感情が消える訳ではないのだから。何故、同じ過ちを何度も繰り返すのだろう。
神だろうと、こんなことは許されない。両手で拳を作り、テーブルを振動させた。全員の視線が私に突き刺さる。
「人類を滅ぼすなんて……私たちが認める訳ないでしょ? 私たちを通して人の心を知ったなら、神様だって分かってる筈だよ! 悪い所もあって、良い所もある、それが人間! 何回人類を滅ぼして再生したって、それは変わらないよ!」
捲し立てるように、言葉がぽろぽろと口から零れ出てくる。顔が熱く、息も荒い。眉間にしわも寄っているだろう。今にも涙が溢れそうだ。
私の気持ちを汲んでくれたのだろう。クラウが私の頭を撫でながら、優しく言葉を重ねる。
「人は支え合って生きてる。人類の滅亡だけが解決策じゃない。今のスティアを見詰め続けることだって必要じゃないかな」
「そうだよ。悪意があったって良いでしょ? それが自然だよ。王様が悪の心を取り去って、それを世界の中心に押しやるなんて、それこそ自然の摂理に反してる。不自然だよ。いくら滅亡を繰り返したって、悪意のない人間なんて生まれてこないんだから」
二人の言葉が酷く心強い。潤んだ瞳でクラウとフレアを見てみれば、決意を込めた目で優しく微笑んでくれた。その奥で、アレクが「よし!」とテーブルに両手を突く。
「オレもコイツらと同じ意見だ。分かっただろ? 人類の滅亡なんて、ぜってーさせねぇ。強行するなら……」
アレクは一呼吸置くと、四柱の神を睨みつけた。
「オレらは転生を止める。神サマが人間を監視出来ない状況を作れば良いだけだからな」
言い切ると、彼はにやりと口角を上げた。そうだ、私たちの『目』がなくなれば、神は人間の心を窺い知ることは出来ない。
「転生を止める術は知ってるのか?」
「いや、知らねぇ。けど、魔導師にならなきゃ良いだけの話だろ? 生まれ落ちた後で首を掻き切ることなら出来る」
信じられないものでも見るかのように、神々はアレクに視線を送る。
「争いが広がっても良いと言うの?」
ガーネットがぽつりと呟いた。
良くはない。ただ、人類の滅亡という選択が間違っていると言いたいのだ。決意を瞳に託し、キッと目を吊り上げる。
「争いが起きるなら、私たちが止めてみせる」
王たちを説得して、一般の人たちにも『戦争なんて間違っている』と投げ掛けて――きっと分かってもらえる筈だ。
ところが、トパーズは「ハッ……」と嘲笑する。
「どーやって争いを止める? 王たちは魔導師という存在を消そうとしてる。オレらだって、クラウに憑いた闇を消すために、オマエらの魔力を一旦消そうとしてる。権力を持たないオマエらに、一体誰がついてくる?」
返す言葉が見つからない。なんて意地悪なことを言うのだろう。悔しくて唇を噛み締める。
まるで援護をしてくれるかのように、アレクが口を開いた。
「オレらだって言葉を持ってんだ。やってみなきゃ分かんねーだろ?」
フレアは言葉にせずとも、まっすぐな瞳を神々へと向けている。
二人の存在がとても頼もしい。こちらを向いて笑いかけてくる二人に、私も笑顔を返す。その横では、何故かクラウが腕を組み、眉間にしわを寄せていた。
「あのさ……」
それだけを言うと、クラウは口ごもる。
「どーした?」
アレクの問いかけに「うん……」とだけ答えた。数秒押し黙った後、クラウは小さな疑問を口にする。
「魔力を失うって、魔導師じゃなくなるって事だよね? 魔導師じゃなくなる、イコール死だと思ってたんだけど……。トパーズは、魔力を失っても生き続けられる、みたいな言い方してない? どういうこと?」
そうだ。あの時のフレアの言葉を忘れられはしない。
――魔導師じゃなくなる時……それは、あたしたちが命を落とす時だけ――
疑いの眼差しを神たちへ向ける。怯むことなく、トパーズが意味ありげに目を細めた。
「例外があるんだ。オレら神が望んだ時だけ、魔導師としてではなく、ただの分身としてスティアで生きられる」
「あたしたちの『神の瞳』は持ってもらったままだけど」
「……なんで隠してた?」
アレクはトパーズとガーネットを鋭い眼光で見比べる。
「隠してた訳じゃねぇ。オマエらが知ろうとしなかっただけだ。まぁ、オレらもそこまで干渉したくなかったしな」
柔らかな物言いなのに、神々の傲慢さが窺える。しかも、私はほとんど知りもしない土地へ放り出されるのだ。どうやって生きていけと言うのだろう。
「クラウやアレク、フレアなら分かるよ。三人には帰る家があるもん。でも、私はどこで、どうやって生きていけば良いの?」
目を潤ませる私を前に、オニキスがわざとらしく咳ばらいをした。
「そんな時のために俺が来たんだ。ミユの身柄は俺が引き受ける。ちゃんと地球に戻してやる」
ニッと笑みを湛え、オニキスはクラウと私を交互に見る。そんなことを言われても、納得出来る訳がない。私はクラウと一緒に生きたいのだ。手放したくはない。その一方で、地球には、家族も友人もいる。私にとってはかけがえのない存在だ。吹奏楽部に戻ることも出来る。地球に帰れる希望と、クラウと別れる絶望の狭間で、心が激しく揺れる。
フレアとアレクも表情に影を落としていた。フレアなんて、瞳が小刻みに揺れ、今にも涙に濡れそうだ。
「じゃあ、魔力を消されたら、ミユには一生会えないってこと?」
「ミユだけじゃない。アレクとクラウにも会えねぇだろうな。住んでる国が違うだろ?」
何ということだろう。その時が来たら、もう一生みんなに会えないなんて。寂しくて、心細くて仕方がない。とうとうフレアは顔を両手で覆ってしまった。
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