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第12章 乱舞 / 第225話
間隔を空け、魔導師と王が四角形の形に並ぶ。私の相手はオズだ。両手でドレスを摘まみ上げ、ちょんと膝を折る。気になるクラウの方を見ると、リラと礼を交わしていた。フレアはレンと、アレクはマグとペアになっている。
「一つお願いしておきたいことがあるの」
フレアが声を上げた。
「今日はワルツだけにしてくれない? 正直に言うと、ここまで練習してあげたことに感謝して欲しいくらいなんだけど」
「分かったよ。踊れないものをやれって言っても、場がしらけちゃうだけだし」
マグが指を一度鳴らすと、どこからともなくワルツが流れ始めた。練習曲と同じものではないけれど、基本は一緒だ。オズと手を取り合い、内心では負けるものかと闘志を燃やす。作り笑いを浮かべ、踏み出したオズの足を追う。私のことを考えてくれているのだろうか。ペースを若干落し、ゆとりを持ってくれる。お陰で、ドレスを着て初めてのダンスなのに、足がもつれることはない。
「ミユ」
突然だった。声に顔を上げると、謝罪が滲む瞳がそこにはあった。
「何ですか?」
「済まない。我々が言った言葉に驚いているだろう。怒っているだろう」
済まなく悲しそうにオズの目が細められる。
命を捨てろと言われて驚かない訳がない。理不尽な要求に怒らない筈がない。しかし、率直な感想を言える雰囲気でもなく、オズから顔を背け、一言だけ呟く。
「……いいえ」
「そうか。だが、今一度謝っておくよ。あれは、そう決断する以外にはなかったのだから」
理屈ばかり並べて。そんなに謝られては、まるで私たちが悪いみたいではないか。絶対にずるいと思う。
オズの言葉を最後に、沈黙が続く。顔を合わせるでもなく、機械的にダンスは進んでいく。その沈黙を破ったのもオズだった。私がくるりと一回転した後、静かに口を開く。
「あれは王全員が練りに練って考え出した結論なのだよ。残酷なのは分かっているが、前向きに考えて欲しい」
「前向きになんて……! 言っている意味、本当に分かっていますか?」
「ああ。これは『今』の我々ではなく、『未来』を考えてのことなのだよ」
未来なんて。今をただひたすらに生きている私たちにとって、想像も理解も及ばない。
モヤモヤした気持ちを押し殺しきれず、俯いてしまった。そうしているうちに、互いに手を離した。オズとのダンスが終了したのだ。彼は悲しそうな笑顔を残し、そのまま踵を返すと、フレアの元へと向かっていく。その代わりに、レンが私の前へとやって来た。オズの時と同じく、ドレスを摘まみ上げて膝を折る。その後、差し出された手を取った。
オズとは正反対の踊り方だ。私のことは一切構わず、自分の踊りたいように足を動かす。そのせいで、何度も足がもつれそうになってしまった。私のことも少しは考えて欲しい。眉をしかめると、レンはくすりと笑った。
「これくらいのテンポについてこられないのか? フレアは軽快にステップを踏んでいたぞ?」
フレアと一緒にされても困る。彼女とは違って、私の練習期間はたったの七日間なのだ。
むうっと頬を膨らませると、レンは「ははは」と笑った。
「まあ良い。転ばないだけな」
鋭い眼光はそのままに、尚も私を振り回す。
「付け焼き刃でここまで覚えたのなら上出来だ。どうせ、招待状を受け取ってから、慌てて練習したのだろ?」
そこまで分かっているのなら、もっと気を遣って欲しい。
ところが一変、曲は続いているのに、レンの動きが止まったのだ。引き寄せられるようにして足がもつれ、身体のバランスを崩して彼の胸に激突する。そのまま、レンが息を吸い込んだのを感じた。
「きみもどうすれば良いのか分かっている筈だ。これ以上、クラウが苦しむ姿は見たくないだろ? オズから聞いた。恋人同士なんだってな」
カッと顔が熱くなる。オズは王たちに何ということをばらしているのだろう。それはさておき、確かにクラウが苦しむ姿は見たくないし、私の体力も限界に近いということは自覚している。ただ、それを解放する方法が間違っているのだ。
レンの肩越しに、対角線上でマグと踊っているクラウへと視線がいった。彼は後ろを向いているから、表情は分からない。マグは眩しい程の笑顔で、ピョンピョンと跳ね回っている。悩みなんて何もないような彼女が羨ましくなり、口を尖らせた。すると、クラウが不意にこちらへと振り向いたのだ。つまらなそうに、無表情で。リラのように、氷を連想させた。ところが、私が自分を見ていると知るや否や、クラウは仮面が剥がれ落ちたかのように、にこりと眩しい程に笑ってみせたのだ。すぐさまマグへと向き直ってしまったのだけれど、たった一瞬で胸がほんわりと温かくなる。レンに反抗する勇気も沸いてくる。
「確かに、クラウのために何とかしたいです。でも、魔導師を辞めろだなんて……やっぱり間違ってると思います。他にも方法がある筈です!」
訴えかけるようにレンを見詰めると、冷たい瞳が返ってきた。
「いや、ない」
「嘘っ!」
繋いでいた手を離し、胸の前で拳を作る。それでも、レンの表情はピクリとも変わらない。
「嘘を吐いてどうする。オズからも聞いただろ? 王全員が考え抜いて辿り着いた結論だと」
悔しくて拳を下ろし、小さく震わせる。俯いて唇も噛み締める。レンはそんな私の顎に手を当て、顔を無理やり持ち上げた。目を合わせると、意味深な言葉を口にしたのだ。
「紛い物にもう用はない。自分の世界は自分で守る。おまえたちにスティアを壊させはしない。そう魔導師たちから神に報告しろ」
吸い込まれそうな瞳に、頭が真っ白になった。意味が分からない。紛い物とは、誰のことを言っているのだろう。もしや、私たちのことなのだろうか。それに、世界を壊すのは神様だとでも言っているようではないか。世界を壊したがっていたのはルイス――影だ。
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