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第12章 乱舞 / 第226話
疑問が声となって溢れ出る。
「神様が……世界を?」
「やはり、ミユも己の立場を忘れているのか。フレアもだったが……『デュ』の名を持つ者よ、愚かだな」
レンは忌々しいものを見るようにして吐き捨てる。
そうだ、私たちはその意味も聞きに来たのだ。今になって思い出し、慌てて口を開いた。
「『デュ』の名の意味って何ですか? 私たち、何回も考えたのに、何も思い出せなくて。知っているなら教えてください」
「それは自ら導き出すべきものだろ? 我々に答えを求められても困る」
語気を荒げて訴えたのに、レンは白々しく嘲笑う。
曲が転調し、彼との踊りに幕を下ろす。もっと時間があれば、聞き出せたかもしれないのに。私の顔から手がようやく離され、金の瞳が残像を伴って動く。悔しくて、両手で拳を握り締めた。
次にやってきたのはアレクだ。安心したせいで、膝から崩れ落ちそうになる。駄目だ、こんなところで倒れたら、今までの積み重ねが水の泡となってしまう。どうにか気力で姿勢を保つ。
アレクはレンを睨み、私の頭をひと撫でする。
「ミユ。レンに何を言われた?」
柔らかいのに、張りのある声で小さく問いかけてきた。
「これ以上、クラウを苦しめたくないだろ? って迫られて。魔導師を辞める以外にも方法はある筈だって反抗したら、ないってキッパリ言い切られて……」
思い出すだけで悔しくなってくる。自分のやるせなさに顔を歪めていると、アレクの眉がピクリと動いた。
「それで、どーした?」
「紛い物が何だとか、スティアを壊させはしない、そう神に報告しろとか、意味分かんないよ」
ドレスがバサバサと無作法に揺れているので、自分でもステップが雑になっているのが良く分かる。アレクはレンの方をちらりと見て、更に眉間へ皺を刻む。
「レンのヤツ、もっと分かりやすく説明しろよ!」
「私に言われても困るよ~!」
私だってアレクと同じ気持ちなのだ。むうっと膨れると、彼は苦笑いした。
「悪ぃ。つい、な。にしても、意味深なことを言いやがる。神が世界を滅ぼすみてぇじゃねーか」
今一度、アレクはレンの方へと目を遣った。その横顔は険しく、目は鋭く細められている。何秒か見詰めた後、視線はオズの方へと移っていった。
「オズは何か言ってなかったのか?」
「レンが失礼なことを言って済まない、みたいなことしか言ってなかったよ」
「そーか」
アレクの視線が私の方へと戻る。悲しそうに目を伏せるや否や、ぽつりと呟く。
「オマエらには、もう何も背負わせたくなかったんだけどな。済まねぇ」
まさしく、消え入りそうな声だ。アレクは何も悪いことなんてしていないのに。謝るなんて間違っている。
「アレクらしくないよ。顔を上げて?」
覗き込むようにして見上げると、アレクは小さく笑った。手を繋いでいなければ、頭も搔いていただろう。
「そーか? オレも意外と仲間思いなんだけどな」
それは言われなくても分かっている。思わずくすりと笑ってしまった。
「それより、アレクは何か聞き出せた?」
「いや、リラは何も喋らねぇし、マグは……場を掻き乱して楽しんでるみてぇだったな。大した収穫はねぇ」
「そっか……」
私たちの中ではアレクが一番牽引力があるので、少しだけ期待をしていたのに。アレクが無理だったとなれば、クラウも聞き出せたかは危うい。
不服そうなアレクと溜め息を吐き、フレアと話し込みながら踊っているクラウの方を顧みる。
「クラウも何も聞き出せてないのかなぁ」
「望みは薄いだろーな」
飄々としたマグはともかく、揺れ動く素振りを見せたリラは何かを語っていて欲しいものだ。口をへの字に曲げていると、アレクはいつもの意地悪そうな笑みを作った。
「でもよー、フレアは分かんねーぞ。オマエと同じで、レンやオズと話してるからな。別の話も聞き出してるかもしれねー」
アレクは更にニカッと笑い、クラウを見る。
「ミユ、次はクラウの番だろ? アイツからフレアの話を聞き出しておけ。オレもオマエから聞いた話をフレアに伝えといてやる」
「分かった」
タイミング良く、相手が変わるタイミングに差しかかった。私の肩を軽く叩くと、アレクはフレアの元へと向かう。そして、最後の順番の人――クラウがこちらへとやってくる。そのほんわかとした微笑みを見るだけで、心が洗われる気がした。今はひとまず安心したい。礼を交わしながら、私も顔をほころばせた。
「俺と踊ってくれますか?」
「勿論ですよ」
あえて敬語で話すあたり、場の雰囲気に酔っているのだと思う。でも、それが心地良い。二人でくすくすと笑い合い、いつもよりも格好良く見えるクラウの手を取った。練習通りに彼がステップを踏み、それに合わせて私も足を動かす。
私には一抹の不安があった。事の発端は、クラウがオパールに闇の印を刻まれた一連の出来事だ。嫌味を言われた可能性はある。
「クラウ、リラとマグに酷いこと言われなかった?」
今にも飛びついてしまいそうな私に、クラウは優しい笑顔でゆっくりと首を横に振る。
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