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第20章 再会 / 第256話
辺りを見回してみても、他に人影はない。廊下にいた時に物音もしなかったので、キッチンにもその姿はないだろう。
「アレクは?」
聞いてみると、クラウとフレアは互いの顔を見合わせる。
「まだ戻ってきてないよ」
「ロイと喧嘩でもしてるのかもね。じゃないと、遅くなる理由なんてないから」
クラウ、続いてフレアの答えを聞き、「そっか」と小さく呟く。
「それより、もらってきた食材をどうしようかって話してたんだよ。俺たちだけで食べられる量じゃないし」
クラウは何の話をしているのだろう。私はまだ、エメラルドの人たちから大量の食材をもらったことを話していない。首を傾げると、フレアは苦笑いをする。
「扉の方、見てみて?」
指し示されるがまま、視線を移動させた。その先には膨らみきった麻袋が二つ並んでいた。
二人も私と同じことをしてきたのだろうか。納得するやら、呆れるやらで、私も懐から麻袋を取り出してみる。
「私もなの」
麻袋を床に置くと、その場で元の大きさに戻していく。あっという間に、食材たちがずっしりと詰まった麻袋は三つに増えた。
「ミユもなの!?」
「ええ……? これ、どうしよう……」
フレアは目を見開き、クラウは頭を抱える。こうなったら、最後の一人に託すしかないと思うのだ。料理を出来るのも彼しかいない。
「アレクに任せよう?」
「うん、そうだ、そうしよう」
まるで目の前の食材から目を逸らすように、クラウと二人で頷き合う。
フレアは大きな溜め息を吐いた。
「アレクに任せたとしても、四人で食べられる量は限られてるよ。使い魔も呼んでパーティでもしないと無くならないと思う」
フレアの言葉に小さく唸りはしたものの、食材が腐るくらいなら、豪勢な料理を楽しんだ方が良いに決まっている。フレアに向き直り、口を開いていた。
「じゃあ、そうする?」
「そうしよっか。駄目にするよりも、少しでも食べてあげたいから」
クラウの賛同も得られたので、食材たちの晴れ舞台は決まったようなものだ。三人で笑い合い、エメラルドの人々の笑顔を思い返す。また、あの眩しすぎる笑顔に会いたいな、とどこかで思ってしまう。日本への帰還が遠ざかっていく気がする。
考え事をしていると、不意に扉が鈍い音を響かせながら開いた。やはり、たくさん泣いたのだろう。現れたアレクの瞼も赤く腫れている。
「オマエら、待たせたな! 夕飯は食ったか?」
アレクの登場で、場の空気がより一層明るくなる。
それにしても、第一声が夕飯の話とは。アレクらしいな、と笑いが漏れてしまった。
「まだだよ」
「んじゃ、朗報だ。トパーズで抱えきれねぇほど食材をもらってきたんだ。美味いもん食えるぞ」
「ええっ!?」
「なんだ? その反応」
アレクは訳が分からないというように首を竦めると、小さな麻袋を懐から取り出した。それは目の前で元の大きさに戻っていく。溢れんばかりの秋野菜と精肉が見て取れた。
「アレクもなの……?」
「あれ見てみてよ」
クラウが三つ並んだ麻袋を指さす。黄色の瞳がそれを見つけると、アレクの口から「おおぉ!?」と大声が漏れた。
「あれも食材なのか!?」
「違うものも混ざってるけど、半分は食材だよ」
「あんなにどーすんだよ……」
「アレク、頼んだ」
クラウがアレクの肩を叩くと、アレクは目をつり上げる。
「オマエ、完全に他人事じゃねーか!」
「今のクラウのは冗談だよ。使い魔たちも呼んで、パーティしようって話してたの」
「でも、結局料理するのはオレだよな」
「う、うん」
フォローを入れた筈のフレアにまで火の粉が飛んでしまった。ここで私が口を出しても、良い方向には進まないだろう。気まずさを紛らわせるように目を伏せてみる。
「ま、いーか。使い魔も呼んでパーティするなら、アイツらにも料理させられるからな」
僅かに感じた違和感に、思わず口を挟んでしまった。
「それ、とばっちり――」
「なんか言ったか?」
「ううん!」
私の呟きにも敏感に反応されてしまった。首を大きく横に振ると、アレクはようやく、いつもの意地悪な笑顔に戻っていった。
「とりあえず、夕飯作ってくるな! クラウ、麻袋を運ぶぞ」
「うん」
嫌がる様子も見せず、アレクとクラウは一つずつ麻袋を抱えて出ていってしまった。私たちも運びたいところだけれど、今は男手を頼ろう。
フレアと笑顔を交し、いつもの席へと着いた。彼女はテーブルに置いてあったシルバーのピッチャーを手にし、グラスに水を並々と注いでくれる。
「はい、これミユの分」
「ありがとう」
手にしたグラスからはひやりとした冷気が感じられる。冷たくて美味しいのだろうな、と思いながら口をつけると、想像通りの味と温度だった。息を吐き出し、グラスをテーブルへ静かに置く。
「ミユもエメラルドを散策したんでしょ?」
「うん。この世界の人たちは、元いた世界じゃ考えられないくらい温かすぎたよ」
「そっか。それが良いのか悪いのか、あたしには判断はつかないけど」
フレアは吐息をつき、瞬きをした。
「この世界を取るか、元いた世界を取るか、判断する材料にはなった?」
「うん。だいぶ参考になったよ。まだ決断は出来ないけど」
「そっか。そうだよね」
フレアは何度か頷いてみせる。しかし、その視線は私を辿ることはなく、グラスの方へと落ちた。
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