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第11章 交錯 / 第130話
その夜はまた眠れなかった。リエルに話しかけても良かったのだが、余計に眠れなくなると思って止めた。
瞼を閉じても現実なのか夢なのか分からず、時間を無駄に消費していく。
乱雑なノックが鳴り響くまで、布団の中で唸り声を上げるのみだった。
「おい、クラウ! ……寝てんのか?」
どうせ、『今から魔法の特訓するぞ』とでも言いに来たのだろう。
生憎、今はそんな気力は無い。無視を決め込もうと思ったが、足音が近づいてくるのだ。嫌々目を開けると、アレクのブーツを視界に捉えた。
「起きてんじゃねーか」
「眠ろうとしてただけだし」
目を瞬かせ、欠伸を溢す。
「また眠れなかったのか?」
「うん、そんなとこ」
瞼を擦り、のそのそと身体を起こす。疲れが取れていない。身体が重い。
虚ろに肩を回すと、アレクに盛大な溜め息を吐かれてしまった。頭を掻き、俺へと向き直る。
「飯なんだけどよー、今日から会議室で四人でな」
「なんで急に」
恐らく、ミユとフレアは嫌がるだろう。口をへの字に曲げてみせると、アレクも不服そうに腕を組む。
「このままアイツらの不仲が続いたら何も出来ねぇ。何とか顔を合わせるだけでもしてもらわねーと」
確かに、アレクの言う通りだった。影に立ち向かうには、全員の協力が必要だ。
だからと言って、今すぐに彼女たちのわだかまりが取れる筈もない。料理が不味くなるのは目に見えている。
「今日じゃなきゃ駄目なの?」
「何言ってんだ、早いに越した事はねぇ」
こうなっては、俺が何を言っても折れる気はないだろう。アレクの気持ちを削ぎたい訳ではないが、仕方ない。現実を見てもらおう。
靴を履き、ベッドから離れる。
「ミユに嫌がられても、俺は説得出来ないから。それで良いなら行ってくる」
「あぁ、頼んだ」
アレクの視線を躱し、廊下へと出た。ドアを静かに閉ざすと、ミユの部屋へと狙いを定める。
冴えない頭で未来を予想し、溜め息を吐く。フレアの部屋を通り過ぎ、すぐにミユの部屋の前へとやってきた。
もう起きているだろうか。そう言えば時計を確認していなかったから、今は何時なのかすらも分からない。
起きていて欲しいな、と思いながら、ドアを三回ほど振動させた。
「ミユ? 起きてる?」
ドアの隙間から部屋の中の様子を窺う。
ミユはドレッサーの前で立ち尽くしていた。既に着替えは済ませたようで、くるりとこちらに振り向く。
「今日からご飯は皆で会議室でって、アレクがさ」
キョトンとしていたミユの表情が、瞬く間に強ばっていく。
「フレアも来るなら……行かない」
やはり、否定的な言葉が漏れた。
問うてみた所で答えは出ないだろうが、アレクの期待もある。一応、だ。
「ミユの気持ちは分かるけど、いつまで避け続ける気?」
「それは……」
ミユは首を横に大きく振り、口を結ぶ。
「もしフレアがいなかったら、会議室に来れる?」
聞くと、小さく頷いてくれた。
ミユの答えは聞けたのだ。あとは俺たちがどう判断するかにかかっている。
「ちょっとアレクと相談してくる」
何とかミユに微笑んでみせ、その場を後にした。もうアレクは自室へ戻っているだろう。彼の部屋のドアを乱雑に開けた。
やはりアレクはそこにいた。
「おい、ノックぐらいしろよ」
「ごめん」
椅子に座るアレクに、大して悪びれもせずに頭を搔く。
「で、反応はどうだ?」
「フレアがいるなら行かないって」
「やっぱ、そーなるよな……」
アレクは「あー……」と呻きながら何かを考えると、鋭い視線を俺へと向けた。
「ミユを説得する」
「どうやって?」
「フレアを避け続ける理由を覆すんだ」
つまり、アイリスはカノンを殺していないと証明してみせるとでも言うのだろうか。百年前の話だ。証拠が残っている訳がないし、記憶だって時間の経過と共に、微妙に歪んでいるかもしれないというのに。
「記憶だけで、ミユの思いを覆すなんて出来る? 記憶なんて不確かなものだしさ」
「その不確定さを利用するんだ」
「そっか」
記憶なんてものは不正確だから、ミユの記憶も微妙に間違っているのかもしれない。そもそも、カノンが呪いをかけられたあとは、森で気絶していたのだ。夢である可能性だってある。
しかし、百年前に影が放った言葉も心のしこりのように残っているのだ。
――そこにいるキミも共犯だろう?――
アイリスに対して、確かに言っていたのだ。
謎はある。しかし、謎を解き明かす術も時間も俺たちにはない。
「ピンチになったらオレに任せとけ」
アレクの謎の自信と笑みが俺を余計に不安にさせる。
「とにかく、飯だ。フレアには後で謝っとく」
「分かった」
「行くぞ」
不安とは裏腹に、アレクはにかっと笑う。
言い合いにだけはならないようにしたいな、と思いながら、アレクと部屋を出た。
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