読み込み中...
読み込み中...
第17章 成すべきこと / 第152話
落ち込みつつ、窓の外に目を向ける。粉雪は止んだものの、空は雲に覆われている。またいつ雪が降り出してもおかしくない天気だ。益々気分が沈みそうになり、テーブルにつき、置いてあったチョコチップクッキーを摘まむ。
明日からどう過ごせば良いのだろう。外出が禁止されてしまう未来を予測して考えたが、今はまだその時ではない。カイルの返答を待ってから決めよう。魔法でコップに水を満たし、喉へと流し込んだ。
間を置かず、眼前に青色の光が現れる。カイルが戻ってきたのだ。
「カイル、どうだった?」
聞いてみたものの、俺を見る目が先ほどまでと違う。どこか驚きを隠せない、そんな表情だ。
「女王が、明日以降も外出の許可を下さいました。しかも……」
「何?」
「女王の兄上が、調査に協力してくれるとのことです」
「えっ?」
何故、女王の口からそんな言葉が出たのか。女王の兄と言えば、あの人物しかいないのだが――。
「クラウ様、女王の兄上とはご面識が?」
「カイルもさっき会ってるよ」
「えっ? でも、さっき会ったのはクラウ様の従兄では……」
困惑したカイルは、俺を見詰めるばかりだ。言った通り、スチュアートは女王の兄であり、俺の従兄で間違いはない。
「確かに髪の色も女王と同じでしたし、目も似ていました。でも、その方がクラウ様の従兄……?」
「そうだよ。そういうこと」
「ええーっ!?」
カイルは腰を抜かしそうな程に驚き、口を震わせている。そこまで驚くことはないのに。再びコップを手に取り、口を潤した。
明日からスチュアートが調査に協力してくれるのならば、こちらとしても心強い。一度は調査自体を諦めかけたのに。俄然、やる気が出てきた。
「明日からも頑張ろう」
胸の前で拳を作り、決意を固めた。
* * *
あくる日の正午に、女王、そしてスチュアートと玉座の間で会う約束を取りつけた。スチュアートとは仲が良かったとはいえ、女王とは話したことすらない。相手がどう反応するかが気がかりであった。
昨日と同じく紺色のスーツと白いクラバットに身を包み、胸の中央にはサファイアのブローチも添える。どこからどう見ても魔導師ではなく、貴族だ。
「カイル、準備出来た?」
「私は元より」
既に執事の姿へと変わったカイルは、にこやかにゆっくりと瞬きをした。
「じゃあ、玉座の間に行こっか」
「はい!」
頷き合い、瞼を閉じる。成人前に一度だけ訪れた、女王の戴冠式の場を思い浮かべた。
扉から玉座へと一直線に紺色の絨毯が引かれ、天井は抜ける程に高い。それなのに、豪華なシャンデリアがいくつも並んでいる。玉座の方には、スチュアートと齢十九の女王の姿があった。兄妹で話していたのだろう。女王の肩にはスチュアートの手が添えられている。
「クローディオ!」
その温和な雰囲気も、俺の登場によって崩されたらしい。スチュアートはこちらに駆け寄り、そのアイスブルーの瞳は瞬く間に潤んでいく。
「瞳の色が変わってる。本当に魔導師様になってしまったなんて。もう一生会えないかと思ってた」
「俺もそう思ってたけど……その反応、恋人か何かみたいじゃん」
「何でも良いよ。またこうして会えたんだから」
俺の元に辿り着くと、ついにスチュアートの目元から涙が零れ落ちた。思わず苦笑する。
再び会話が出来るなんて。奇跡に近い出来事だった。
感動の再会にも関わらず、女王は凛と言い放つ。
「お兄様には目的は話してあります。すぐに話をまとめてください」
「分かりました」
「貴方は魔導師です。敬語は使わないでください」
女王は敬語で話しているくせに、俺には敬語を禁止するなんて。立場が対等だと、彼女も意識してのことだろう。
俺たちには世間話をしている時間もないらしい。それもそうか。本来ならば、接触も禁止されているのだから。
スチュアートに向き直り、要件を伝えていく。
「絶対に『死の呪い』を解く方法を探し出そう。何があっても」
「そんなもの、どうして?」
「俺の命よりも大事な人が、その呪いを受けてるんだ」
昨夜、手描きで紙に写した呪いの印をスチュアートに押し付ける。彼もゴクリと生唾を飲み込んだ。
「もし俺と外で会ったら『ガブリエル』って呼んで。『クローディオ』は名前が知れ渡り過ぎてるから」
「分かった」
「話は終わりましたか?」
経緯を聞いていたのか、女王はすかさず話に割って入る。
「お兄様は行って下さい。お兄様に時間制限はありませんから」
「うん。クローディオ、また後で話そう」
「うん」
スチュアートは改めて顔をハンカチで拭い、ニコッと笑顔を作った。それに答えるように、俺も微笑んでみせる。また後でなんて、機会は与えられるのだろうか。それは玉座でツンとすました女王にかかっている。
「貴方は……」
「何?」
小さく呟かれた女王の言葉に、小首を傾げてみる。
「あたくしの従兄、なのですか?」
「うん。戴冠式にも来た筈だけど」
「そうですか」
その問いに、何か意図があったのかは分からない。女王は変わらず無表情のままだ。
丁度良く、城の鐘が一度だけ鳴り響く。一時を告げたのだろう。
「貴方も行って下さい」
「うん。この機会を作ってくれて、ありがとう」
感謝を伝えると、女王の口元が少しだけ上を向いた気がした。
「カイル、今日はどこ?」
「魔法守護者の子爵です」
「近くに巨木があるよね? あそこにワープしよう」
「分かりました」
スチュアートも調査に協力してくれているのだ。良い報告がしたい。次こそは何か手がかりがありますように。祈るような気持ちで子爵邸へと向かった。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する