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第17章 成すべきこと / 第151話
暖炉の方から薪の燃える音が鳴る。メイドたちは何やらヒソヒソと話をしている。聞き耳を立てるつもりはないが、居心地の良いものではない。
「カイル」
「どうしました? ガブリエル様」
意識的に偽名を返され、思わず苦笑いが漏れてしまった。
「なんで笑うんですか」
「いや、なんでもない。それより、今日はここで調査は終わり?」
「時間的に、他には行けないでしょう」
「そっか」
二週間と限りがあるのなら、一刻も早く魔法守護者を巡って城の図書室を隈なく探したいところだ。一日一名、俺の父と幼馴染の家、姉の嫁ぎ先を除けば、あと五日かかることになる。図書室を探せるのは八日間、か。あの天井にも届く本棚を、果たして探しきれるだろうか。
唸り声を出すのを我慢していると、男爵はせかせかと戻ってきた。手には一冊の本が抱えられている。
「お待たせ致しました。この中にあれば良いのですが」
男爵は本をこちらに差し出し、表紙をめくる。
広げられた本には一ページにつき一つの魔法陣が描かれており、説明がなされているようだ。期待を押し殺しながら、着実に一ページずつ確認していく。
ない。ミユの呪いに似た物すらない。諦めにも似た落胆が広がっていく。
「……ありがとうございました。行こう、カイル」
顔を見合せ、二人で立ち上がる。改めて男爵に礼をすると、彼も頭を下げてくれた。
「力不足だったようで、申し訳ない」
「いいえ、お手数をおかけして、俺の方こそ申し訳ありませんでした」
微笑んでみせたものの、上手くは笑えていないだろう。
男爵に続き、廊下を出てエントランスへと出た。コートも受け取り、カイルに羽織らせてもらう。
「失礼します」
扉が閉じるなり、カイルと二人で大きく溜め息を吐いた。ちらつく粉雪に混じる白い息は風に吹かれ、すぐに何もなかったかのように消えてく。
城に戻った時には、三時半になろうかという時刻になっていた。四時までには、まだ三十分あるのだ。少しでも時間を無駄にはしたくない。
「カイル、今から図書室に行こう」
「えっ? 今からですか?」
「三十分もあれば、何か探し出せるかもしれない」
カイルはしばらく何かを考え、一人で小さく頷く。
「図書室には結界がはられています。入口から入れば問題ありませんが、ワープで侵入してしまえばどうなるか分かりません」
「じゃあ、どうやって?」
「礼拝堂の柱の影にワープして下さい。祈りの時間とズレていますし、人気もありません。図書室も近いので安全かと」
城の構造を思い出し、ああ成程、と納得する。礼拝堂は図書室に隣接しているのだ。
「分かった」
短く返事をし、早速ワープした。パイプオルガンは堂々と鎮座し、天使の像がにこやかに微笑んでいる。西側のステンドグラスに日光が差し込み、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
柱の影から出口を覗き、誰もいないことを確かめる。
「クラウ様、行きましょう」
「うん」
通路を挟んで向こう側、柱の影にカイルの姿は見えた。互いに目で合図を交わし、一緒に廊下へと飛び出した。あとは図書室へ入るのみだ。
その矢先のことだった。出会ってはいけない人物と遭遇してしまうのだ。
遠目ではあるが、目立つ銀の長い髪を揺らす貴族――従兄のスチュアートしかいない。慌てて柱の影に隠れたが、見つかるのも時間の問題だ。
「クラウ様、どうしたんです?」
俺の焦りをよそに、カイルは不思議そうに、その場に立ち止まったままで首を傾げる。「しっ!」と人差し指を口に当てたが、カイルの声はスチュアートの元へと届いていたらしい。
「……君、クラウ様って言った?」
聞き覚えのある低音が反響し、耳に届く。
「い、いや……」
「魔導師様がそこにいるなら、少しでも話をさせて欲しい」
必死な声色に、俺の心は痛み、温かさも抱く。一緒にピアノを弾いた、子供の頃の懐かしい記憶が呼び起こされる。
ようやく事態の深刻さを理解したのか、カイルは狼狽え、俺とスチュアートを見比べる。
「先に部屋に戻ってる」
もう魔法を使わずとも、魔導師である俺がここにいるとバレたも同然だ。
カイルに囁きかけると、身体から光を放つ。ワープする瞬間、「クローディオ!」と叫ぶスチュアートの声が耳に残った。
カイルが戻ってくるまでは十分ほどかかったように思う。俺の心臓は破裂しそうな程に鼓動している。
スチュアートにバレたとなれば、実家にも話が行くだろう。そして、意地でも俺と会おうとするだろう。もう図書室へは近付けない。
まずいことになったな、と唇を噛んでいると、困惑したカイルが光と共に現れた。
「なんでクラウ様の本名を知っている方が城にいるんです」
その口調は怒っているようでも、焦っているようでもある。
「あれは……俺の従兄だよ。かなり仲は良かった」
「ご親族!? 尚更、まずいじゃないですか!」
「そうだよ……」
溜め息を吐いてみるものの、見られてしまったものを撤回するなんて無理に等しい。
「最悪、クラウ様の外出は控えていただくことになるかもしれません。女王と話してきます」
「……分かった」
手にした権利を失うかもしれないという事実に、ガックリと肩が落ちる。ミユ、アレク、それにフレアは必死に解呪の方法を探しているというのに。俺だけが力になれないなんて。本当にごめん。心の中でひたすら謝ることしか出来なかった。
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