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第15章 タイムリミット / 第235話
ダイヤに戻るなり、クラウとアレクを置いて、フレアと二人で急いで自室へと向かう。理由は勿論、身に着けているコルセットを外すためだ。廊下にいつもよりも少しだけ乱雑な足音が響く。
「苦しいよ~……」
部屋へ辿り着いて窓を見てみれば、すっかり日は沈んでいた。――丸一日経ってしまったなんて。
フレアが部屋のドアを閉めると、二人で部屋の中央へ崩れるようにうずくまる。
「早くコルセット脱がせて~」
「分かってる。もうすぐだよ」
フレアの手がスルスルと背中の紐を緩めていく。呼吸がだいぶ楽になる。
「はあ〜っ」
大きな息まで漏れてしまった。コルセットを取ると、早速、着慣れた白い衣装に着替える。
「ミユ、今度はあたしのコルセット脱がせて?」
「あっ、うん!」
フレアがしてくれたように、私も彼女の背中の紐に手を掛けた。そこでふと思う。
「ねえ、フレア」
「何?」
フレアは不思議そうに振り返る。
「着替え、大丈夫?」
「ああ、それならそこにあるよ」
フレアはベッドを指差す。その上には確かに白い衣服が畳まれていた。
「いつの間に持ってきたの? 私、全然気づかなかったよ〜」
「こんなこともあるかなって思って、一応、ね。役に立って良かった」
感心しつつも、止まっていた手を動かす。コルセットの紐を解くと、フレアはゆったりとベッドへ向かう。早速着替え終えると、指を鳴らして髪まで元通りにしてしまった。
「フレア、お願いがあるんだけど……」
「何?」
もじもじしながらフレアを見上げる。
「私の髪も元に戻して欲しいんだ〜。私、自分で指鳴らせないの」
「えっ? 仕方ないなぁ」
そんな台詞のわりに嫌がる素振りはみせず、フレアはにこりと笑い、一度だけ指を鳴らした。まとまっていた髪がみるみるうちに解け、いつも通りのストレートヘアへ戻っていく。
「さあ、会議室に行こっか。きっとアレクとクラウが待ってるから」
「うん」
大きく頷き、ドアを開けて部屋を出るフレアに続く。
廊下は蝋燭に柔らかく照らされ、温かな雰囲気を醸し出している。真新しいように見えるこの建物が、実は何千年も──ひょっとすると何万年も前に建てられた建物だなんて。
早足で歩くフレアに置いていかれないように、廊下を眺めながら懸命に歩く。
「ミユ」
不意にフレアが私の名を呼んだ。前を歩くフレアからは見えないだろうけれど、首を傾げてみせる。
「何~?」
「あたし、神様の分身だなんて、まだ少し信じられない。神様のあんな姿見たのにね」
「……私も信じられないよ」
呟くと、見えない空に思いを馳せて、天を仰いだ。
数ヶ月前にスティアへ来るまで、私はどこにでもいる普通の女子高生だった。それが何の予感もなく、いきなりスティアの魔導師として転移させられた。前世を思い出して、呪いが復活し、恋をして、敵とも戦った。しかも、その異世界の神の分身だなんて。人間ではないなんて。考えるだけで気が遠くなる。冷静になると、ことの重大性に気づかされる。
考えごとをしていたから、フレアの足が止まったのにも気づかずに、思い切り背中にぶつかってしまった。よろめきながら体勢を整える。
「フレア、ごめんね」
「気にしないで。じゃあ、扉開けるね」
こくりと頷くと、扉の蝶番の軋む音が響く。フレアの肩越しに中の様子を窺うと、クラウとアレクは既に指定席へ座っていた。二人とも着替えを済ませ、穏やかな顔でこちらを見ている。
「おっ。遅かったなー」
「女の子は時間がかかるの」
「悪ぃ。ま、オマエらも座れよ」
アレクの言葉に誘われるまま、私たちもいつもの席へと着く。
椅子の動く音が止むと、アレクは私たち三人の顔を順番に眺める。腕を組み、大きな溜め息を吐き出す。先程までの笑顔はどこへいったのか、真剣さを帯びた表情で話し出した。
「七日後にそれぞれの塔に来いってことは、正味六日だろ? オマエらは残された時間で何がしたい? どこにいたい?」
パッと思い浮かんだのは、やはり皆と一緒にいたい、だ。いつもみたいに馬鹿なことをして、楽しい思い出を作りたい。勿論、クラウと二人だけで過ごす時間も欲しい。
それに、アリアともきちんと話がしたい。魔導師がいなくなるということは、使い魔という存在だってなくなるだろう。
正味六日なんて、時間がまるで足りない。「う~ん」と唸りながら悩んでいると、クラウが口を開いた。
「俺は一回サファイアに帰りたいよ。カイルのことも気がかりだし。だけど、皆との思い出も作りたい。前半三日はそれぞれの国、後半三日はダイヤで過ごすのが良いんじゃないかな」
「あたしは賛成だよ」
「……うん、私も」
そうだ。そうすればアリアとも、魔導師の皆とも、平等に思い出作りが出来る。限られた時間は有効活用しなくては。
私たちの様子を見たアレクは「よし!」と言って満足げな笑みを浮かべる。
「オレも賛成だ。決まりだな! じゃ、こんな時間になっちまったし、夕飯の準備してきてやる。ちょっと待ってろ」
アレクは勢い良く立ち上がると、乱暴に扉を開けて会議室を出ていってしまった。
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