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第一部 地域ローカルスーパー(下級神)編 / 第16話
業務報告書
神域活動記録 第一二四号
宛先:商工観光課長(神域担当課長 併任) 起案:椿木 葵 件名:小売店舗「みそぎ屋」関連神格等の現況整理について(報告)
記
一、当該店舗に関係する神格等が増加傾向にあるため、以下のとおり整理する。
(一)当該神格(店主)。呼称「零」。権能は対象の期限に係る操作(劣化・延命・値引による格の減衰。新たに七割減の適用例を確認)。神力は増加傾向にあるが、下級神の範疇に留まる。遵法意識と客の安全への優先順位は引き続き高い。
(二)穴守葛の葉(狐神・古参)。立華町商工会議組合会長を自称。権能は狐火・幻影等。当該神格の店舗に常駐に近い頻度で出入りしている。飲酒による変異体質あり(第〇八九号報告参照)。危険性は低いと判断するが、格は極めて高く、要注視。
(三)メアリー・チューリング(人間・エターナル・リテール特別顧問)。対神装備を保有。当該神格との交戦二回はいずれも失敗に終わり、以後の動向は不明。なお○月○日、道後温泉エリアにて私的滞在とみられる姿を確認した(本人は市場調査と主張)。敵対行動はなし。
(四)レジ型付喪神「Kira」(新規発生)。当該店舗の金銭登録機(昭和五十六年製)に宿る。発生届は未提出。当課の登録様式に「付喪神」の区分が存在しないため、様式の改定を上申する。
二、当該神格の身元について(継続調査)
(一)当該神格は「御削」を名乗る。当該店舗の先代店主・御削氏(現在療養中)の縁者を称するが、戸籍上、該当する人物は確認できない。
(二)呼称「零」は、故・御削零氏(先代の後継者。昨年○月、交通事故により死亡)と同一である。同氏の死亡直後に当該神格が発生している時系列も含め、偶然とするには一致点が多い。
(三)当該神格の外見は、店舗内に掲示された創業者の写真と酷似している。
(四)上記より、当該神格と御削家の血縁的・霊的連関について、継続調査とする。ただし本件は、当該神格の遵法性・危険性の評価に影響を与えるものではなく、調査の優先度は「低」とする。
備考
特記事項なし。
(私的メモ)
優先度「低」と書いたのは、私だ。業務としては、それで正しい。危険のない神様の身元を、税金を使って調べる理由はない。
だから、ここから先は業務ではない。
道後温泉に行った。巡回中に偶然、あの人たちと一緒になって、みかんの蛇口のジュースを飲んだ。
小さいころ、一度だけ、子供会で道後に行ったことがある。あのときも蛇口が並んでいて、私はさんざん迷って、結局いつも同じのを選んだ。隣で零が「葵はどうせせとかだろ、早く決めろ」って笑って、私は「迷うのが楽しいんじゃない」って怒った。あの子はいつも、私が選ぶ前に、私の選ぶものを知っていた。
昨日、店主さんは、私が何も言う前に、せとかの蛇口をひねった。
なんで零さんは、私の好きなみかんの銘柄がわかったの。話したことなんてないのに。
「顔がせとかっぽかった」って何。ふざけてるの。ふざけてるんだろうけど。あの誤魔化し方の下手さまで、覚えのある下手さだった。
名前が同じなのは、偶然かもしれない。顔が写真に似ているのは、神様とはそういうものなのかもしれない。でも、みかんの銘柄は。あれは記録にも戸籍にも写真にも載っていない。あれを知っているのは、世界で、たぶん一人しか。
……やめよう。この先を書くと、業務報告書に書けない仮説ができてしまう。仮説というのは、一度できると、検証したくなる。検証というのは、職権の私的濫用でやるものではない。
でも、一つだけ、ここに書いておく。誰にも出さない報告書の、いちばん下に。
あの人がせとかの蛇口をひねったとき、私は「ありがとう」より先に、「おかえり」と言いそうになった。
後書き
幕間・業務報告書2、お読みいただきありがとうございました。報告書の「書けないこと」が増えていく幕間シリーズ、今回が一番書いていて胸に来ました。
次回、本編に戻ります。タイトルは「消費期限」。……第13話にして、この作品のタイトルが「賞味期限」の神様である理由を、裏側から書く回になりました。どうか見届けてください。
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