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第一部 地域ローカルスーパー(下級神)編 / 第9話
お稲荷様のつぶやき。誰に聞かせるでもない、ただの独り言じゃ。
◇
神は二日酔いをするのか、という問いに、本日わしが答えを出した。する。大いにする。こめかみの奥で誰かが祭囃子を叩いておる。やめよ。祭は好きじゃが、頭の中でやるでない。
タエとかいうあの婆、恐ろしい女子じゃ。八年物の梅酒なぞ、あれはもう酒ではない。歳月の煮凝りじゃ。神殺しの手口として役所に届け出るべきじゃと思う。……いや、届けたらあの小うるさいお役人がまた条文を並べに来るか。やめておこう。
◇
ところで、じゃ。
昨夜のことが、途中からきれいに抜けておる。油揚げを食うた。梅酒を舐めた。良い気分で歌うた。そこまでは覚えておる。そこから先が、朝のパイプ椅子まで一足飛びじゃ。
別に、よい。よいのじゃが。
……何か、言うた気がするんじゃがのう。
根拠はある。今朝の新入り、目を合わせんかった。合わせんくせに、油揚げの炙りがいつになく丁寧じゃった。裏も表も、焦げ目ひとつなく。あれは何かを聞いた者の炙り方じゃ。長く生きておると分かる。人間は、聞かなかったふりをするとき、手先が妙に律儀になる。
問い詰めてもよかったが、やめた。聞けば、わしが覚えておらんことが向こうに知れる。それは癪じゃ。神には威厳というものがあるからの。
じゃから帳消しじゃ。わしは覚えておらん。あやつは聞いておらん。それでこの件は棚卸し終了――あの店の言い方を借りればの。
◇
化けが解けたのは、まあ、いつものことじゃ。酒が入ると術が緩む。昔からの、わしの締まらんところじゃ。
……昔、それで腹を抱えて笑うた者がおったな。人の姿が飲むたびに伸び縮みするのが、そんなにおかしいかと言うたら、おかしいと即答しおった。失敬なやつじゃった。
――やめじゃ、やめじゃ。二日酔いの朝に古い帳面を開くでない。
◇
それにしても、あの新入り。
わしの狐火に値札を貼った無礼者で、神威にへらへらと軽口を返す食えん小僧で、じゃが油揚げは値の張るほうをちゃんと選んでくる。投げれば文句も言わずに投げられて、着地で肘を擦りむいて、それでも売り文句だけは忘れんかった。
妙な小僧じゃ。神のくせに、どこまでも人間くさい。人間のくせに――いや、これはもう神か。ややこしいのう。
まあ、よい。
寂れた社に矢文の届け先ができて、閉店せんスーパーに七輪の置き場ができた。千年からの狐がいまさら急ぐ理由もなし。おもろい小僧じゃ、しばらく遊んでやるとするかの。
あの店の祠の守り袋も、埃を払うてもろうたようじゃしな。……うむ。それは、素直に良いことじゃ。
◇
本日のつぶやき、これにて終いじゃ。
今宵も油揚げを強請りに行く。無論、代金は労働で払うてやる。わしは義理堅い狐なのでな。……レジ横の椅子に座っておるだけでも、看板娘の労働のうちじゃろ、あれは。
後書き
「お稲荷様のつぶやき」お読みいただきありがとうございました。八年物の梅酒は歳月の煮凝り。神殺しにご注意ください。
次回は本編、ついに「立華町商工会議組合」が発足します。組合員数、二。少ない。
☆いただけると狐の尻尾が揺れます。
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