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第12話 / 全32話
数日後の日勤の日。仕事を終えてバスと地下鉄を乗り継ぎ、いつもの駅に到着した。そしてふと見上げた街頭の上に、見慣れた黒い影を見つけた。
「え、やっくん!?」
慌てて街頭の下へ駆け寄ると、黒い影が音もなく目の前に降ってくる。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや、その」
やっくんは、目を逸らしながら言う。
「たまたま、散歩に出ていて……」
「……そうなんだ。散歩は、もう終わったの? 一緒に帰る?」
やっくんは目を逸らしながら、こくりと頷いた。
最近は本当に日が短くなって、帰り道は真っ暗だ。
……迎えに来てくれたんだ。
そう思うと、胸が暖かくなった。
その日から、日勤の日の夜は必ずやっくんが迎えに来てくれるようになった。
散歩だとか、ついでだとかたまたまだとか言いながら、一緒に歩いてくれる。夜道を一人で歩くのは苦手だったから、一緒にいてくれるだけで安心できた。
そんな日が何日が続いたある日。
やっくんと合流した後、ついでに駅前の店で買い出しをしてから帰ることにした。いつもの道を逸れて二人で駅前に戻ると、クリスマスのイルミネーションで煌びやかに飾られていた。
そっか。もうすぐクリスマスだもんね。
「綺麗だね-! せっかくだし、少し寄り道してく?」
そう言ってやっくんの方を振り向くと、やっくんは眩しそうに目を細めていた。
「あ。眩しいからやっくんは苦手か」
「……私は構わぬ。千春が見たいなら、付き合おう」
二人はそのまま、煌びやかなイルミネーションに向かって歩き出す。
「……人は冬に、こんなにも灯りを飾るようになったのだな」
ぽつりと呟いた言葉が、冷たい空気に落ちていった。
***
駅の前には人が集まっていた。
先日、千春を探して飛んだ時にも空から灯りが見えて、少々気になっていた場所だ。
歩きながら眺めると、道沿いの木々には無数の小さな灯りが巻き付けられ、チカチカと光っている。
建物にも光の紐が垂れ下がり、辺りはまるで昼間のような明るさだ。
……木が光っている。
これは、何なのだろう。灯りで邪気を払う風習か?
「……千春。これは何かの祭りなのか」
「クリスマスのイルミネーションだよ。毎年この時期はこんなかんじ」
「……くりすます」
初めて聞く言葉だった。改めて辺りを見回す。灯りの煌々とした明るさに目を細めた。
「元々は外国のお祭りだったの。それが日本にも伝わって、カップルでイルミネーション見たり、ケーキ食べたりするようになったんだよ」
「けーき?」
「うん。……しまった。ホール予約しておけばよかった。たぶん、やっくん好きな気がする。まだ間に合うかな……」
急に真面目な顔で独り言をはじめた千春を見ていたら、少し笑ってしまった。
歩いていると、ふと、甘い香りが鼻を掠める。
「この辺りだけ甘い匂いがする」
「ほんとだね。……あ! キッチンカー来てるー! うわー、ホットワインに焼き栗にたい焼きかぁ……」
見ると、鉄の車で何か食べ物が売られているようだった。祭りの出店のようなものか。
「買っていくのか?」
「めちゃくちゃ惹かれるけど……ご飯前だしね。今日は我慢する」
出店を通り過ぎて少し歩いた先の広場の中心に、一際光り輝く木が一本。千春はその木を見て目を輝かせた。
「きれい……」
輝く木の光を映した瞳。寒さでほんの少し高揚した頬。何故か、目が離せない。
しばらくそのまま見ていると、急に千春がこちらを向き、ぱちっと目が合う。心臓が跳ねた。咄嗟に目を逸らす。
「きれいだね」
その言葉に、視線を光る木に向ける。千春がそう言うならば、そうなのだろう。
「昔からイルミネーション好きなんだー。疲れてても、これ見ると元気になる」
「……そうなのか」
気づけばまた、千春の横顔を見ていた。私には、この木の美しさはまだよく分からない。だが、光る木の灯りを映す千春の横顔は、とてもきれいだった。
***
イルミネーションを眺めていたら、すっかり体が冷えてしまった。やっくんは寒さが苦手らしく、眠くなってきてしまったみたい。慌てて自販機に走り、温かいココアを買ってあげた。
ベンチに座るやっくんに缶の封を開けて手渡してから、自分も隣に座った。やっくんは少し眠そうな顔をしながら、ココアの缶を両手で持って飲んだ。
「……温まるな」
そう言って、小さく息をつく。寒さのせいか、少し頬が赤くなっていて、いつもよりかわいさが増していた。
私も自分の分のお茶のペットボトルを開けて、一口飲んだ。ほどよい温かさで、身体の中とペットボトルを持つ手が温められていく。
「寒い?」
「少し。……だが、悪くない」
その後、駅前のショッピングモールのスーパーに入った。夕飯の買い出しをして、家に帰る。
家に着いたらやっくんはすぐにこたつに入り、暖をとっていた。少ししたら温まったらしく復活したので、一緒にお鍋を準備して食べた。寒い日は鍋。間違いない。
食べながら、どこの店ならまだクリスマスケーキが買えるだろうと考えていた。やっくんが喜びそうなものがいいな。
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