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第13話 / 全32話
クリスマスケーキを買うことにしたのだが、すでに予約の締切が過ぎており、予約をすることができなかった。
ホールが無理でも、せめてショートケーキかロールケーキをやっくんに食べさせてあげたい。そう考えた私は、普通に夜勤で仕事だったクリスマス当日の夜勤明け、帰りにケーキ屋に立ち寄ってみた。するとたまたまキャンセルが出たとのことで、ホールケーキを買うことができた。何という幸運。
家に帰ってケーキを冷蔵庫に入れ、やっくんの作り置きおにぎりを食し、シャワーを浴びてからベッドに入って寝た。
しっかりと眠って夕方に目を覚ます。リビングに行くと、すでに起きていたやっくんがキッチンに立ち、夕飯の支度を始めていた。
「やっくん! ケーキ買えたよ!」
「けーき……。くりすますに食べると言っていたものか。冷蔵庫の中にあった箱か?」
「そうそう! ごはんの後にデザートで食べよ」
今日のごはんのおかずは鯖の味噌煮。小松菜と油揚げの揚げ浸し。味噌汁。今日も安定の和定食である。とても美味しかった。
食べ終えた食器をシンクに片付けてから、ケーキの箱を冷蔵庫から出して、リビングのテーブルに置いた。箱を開けて、ゆっくりと取り出す。白い生クリームに赤いイチゴが乗ったクリスマスケーキが姿を現した。
「おお……! これが、けーき」
やっくんが目を見開く。
「うん。ケーキは色々種類があるんだけど、クリスマスの定番はこれだね」
言いながら、包丁を構える。
「本当は蝋燭立てたりするんだけど。用意してないから省略」
白いケーキに包丁を入れて、真ん中から真っ二つにした。
「消費期限今日だから食べちゃわないと。……はい、これやっくんの分」
半分に切ったものを、皿に乗せてやっくんの前に置く。
「……こんなに食べて良いのか」
「クリスマスだから特別」
やっくんはフォークでケーキの端をすくい、一口食べた。
「…………」
「どう?」
「……甘い」
すぐにもう一口を食べ、やっくんはうっとりと目を細めた。やっぱり、予想通りケーキ好きだった。頑張って探した甲斐があった。
半分のケーキを食べ終わると、お腹はパンパンになった。やっくんも満足そうに息をつく。
「……くりすますとは、甘い祭りなのだな」
「ふふっ。……そうかもね」
後ろのソファーに寄りかかる。
「クリスマスが終わったらすぐ年末かぁ。今年は久しぶりに休みが取れたし、帰省して--」
そこまで言って、ガバッと体を起こす。
「帰省!?」
やっくんはぎょっとした顔でこちらを見てきた。
「千春……何事だ……?」
「どうしよう。やっくんを実家に連れて行くわけはいかないよね……夜中に電車動かないし……血は行く前にあげれば大丈夫として、帰ってる間連絡取れないじゃん!!」
「……千春?」
「……そうだスマホ! スマホを買えばいい!」
私は自分のスマホをポケットから取り出し、公式ストアのサイトを開く。通話とメッセージができればいいから、高性能である必要はない。であれば最適なモデルは--
「九万……廉価版でも九万か……」
「おい……」
痛い出費だ。けれど今月ボーナスが出たばかりで懐に余裕はある。何より、帰省中に全く連絡がつかない不安から解消される。
これは娯楽じゃない。必要経費だ。私は即座に端末を購入した。
それからSIMの契約に進む。やっくんは妖怪なので、当然住民票も身分証もない。やっくん名義でスマホを契約するのは無理だ。ならば、私名義のサブ機で契約すればいい。私は速やかに契約を済ませた。
「ふう……」
「千春……一体どうしたのだ」
「年末年始に帰省することをすっかり忘れてたの。やっくんは日中に移動するの難しいでしょ?だから、私がいない間は留守番してもらわなきゃいけない」
「……そう、なのか」
「だから、やっくんのスマホを買ったよ。明日か明後日には届く。届いたら、使い方を教えるね」
スマホを持って、これだよ、と見せる。
やっくんははて?と首を傾げた。
購入から二日後、スマホ本体とSIMカードが揃った。自分の機種変更の時ならば、開封の瞬間は多少わくわくする。でも今回は完全に業務だ。感慨もなく速やかに開封した。
SIMカードを差し込み、初期設定を即座に完了させた。
「やっくん、ちょっとこっちに来てもらえる?」
こたつを挟んで向かいに前に座っていたやっくんに声をかける。やっくんはこたつから出て立ち上がると、私が座るソファーの横に腰掛けた。
「これはスマホ。離れていても話をしたり、メッセージを送れるの。他にも色々できることはあるんだけど、ひとまず帰省に向けて電話とメッセージ機能だけ覚えてもらうね」
「わ、わかった……」
家電の時もそうだったけど、やっくんはすごく理解が早かった。電話はすぐにかけられるようになった。LINEは、文字入力はできないけどスタンプは送れるようになった。あと、カメラで写真も撮れるようになった。
これで安心だ。臨時出費九万、月の維持費は二千円。大丈夫。安心はお金で買えるものだから。
やっくんはスマホの画面が眩しいみたいなので、常時ナイトモードになるように設定してあげた。
スマホをやっくんに持たせたすぐ後の夜勤の時、仕事中にスマホにメッセージが届いた。
何気なく開くと、目に入ってきたのは一枚の画像。自宅のキッチンに置かれたバナナホルダー。
バナナがひとつもない。私は、自然と笑顔になった。
『買って帰るね』
送信すると一瞬で既読がつき、スタンプが返ってきた。
思わず笑ってしまう。
ただバナナを買ってきてほしい、それだけのやり取りなのに。
ポケットにスマホがある。
それだけで、やっくんと繋がっている気がした。
……なんだか、ものすごく嬉しかった。
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