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第28話 / 全32話
今日の私は、ニトリを訪れてカーテンを選んでいた。といっても、別に引っ越しをしようというわけではない。カーテンを新調しようと思っただけだ。
ことの発端は今朝。いつものように起きて、やっくんの様子を見ようとクローゼットを覗いたときのこと。扉を開けた瞬間、中からムワッと生ぬるい空気が流れてきた。
そのことで、自分が寝ている空間に比べて、クローゼットの中の気温が暑くなってきていることに思い至ったのだ。
たぶん、いままでは逆だったのだと思う。クローゼットの中には日の光が入らないから静かだし、涼しくて快適だったはずだ。
でも、これからの季節は違う。エアコンの風の入らない締め切ったクローゼットの中は、部屋の中よりもずっと暑くなる。
夏の暑さで、やっくんが体調を崩してしまったらかわいそうだ。それにやっくんは、ああ見えて妖怪なのだ。何かあっても病院にかかることもできない。だから、できることはすべてやって徹底的に予防しないと。
……という流れで、クローゼットの暑さ対策について考えることにしたんだけど。
最初は冷感マットや保冷剤を使う方法を考えたのだが、これは却下した。これらの道具は補助にはなるけど、暑さを根本的に解決するものではない。やはり、クローゼットを締め切って寝るということ事体が、夏には厳しくなるだろうという結論に至った。
ならば、クローゼットを開け放っていてもやっくんが落ち着いて眠れるように環境を整えればいい。
最終的に、日中の日の光を遮るための遮光カーテンを買うことにした。
今使っているカーテンも遮光カーテンではあるのだけれど、遮光二級なので完全な遮光はできず、部屋の中が真っ暗にならない。なので今回は、最も遮光と断熱効果の高い遮光一級のカーテン選ぶことにした。
遮光一級カーテンは日の光をしっかり遮るし、遮熱・断熱による節電効果も期待できる。それに看護師として勤務する自分も、日中に眠ることが多い。もともと多少明るくても気にせず寝られる方ではあるものの、遮光一級カーテンに切り替えた方が夜勤明けにぐっすり眠れるかもしれない、という期待もあった。
店内に置かれている遮光一級カーテンを眺めてはひとつひとつ手に取り、今の部屋に合いそうな色柄を選ぶ。事前に測ってきた窓の幅に合うか確認した上で、買い物カートの中に入れた。
さて。予定していたものはこれだけだけど、他にも使えそうなものはあるだろうか。店内を一通り回ったところで、扇風機コーナーの片隅に置かれたサーキュレーターに視線が止まる。サーキュレータをクローゼットの近くに配置すれば、エアコンから出る冷気を効率よく行き渡らせられるかもしれない。
私は小さめのサーキュレーターを手に取ると、買い物カートの中に入れた。
ニトリから家に帰った私は、早速部屋のカーテンを取り替えることにする。この部屋に暮らし始めた頃から使いっぱなしだったカーテンは、数年の埃を背負って購入した時よりも重たくなったように感じられた。きれいに取り外して軽く掃除をした後、新しいカーテンを取り付けていく。つけ終わると、なんだか部屋の雰囲気がパッと明るくなったような気がした。
つづけて、サーキュレーターも設置する。こちらは、箱から出してコンセントにつなぐだけだ。電源を入れると、すぐに動き出す。動いているときもそれほどうるさくなく、寝ている時に使っても気にならなそうだ。
これで準備は整った。私はカーテンを閉め切った状態でクローゼットの扉をそっと動かして、全開にした。クローゼットの中に手を入れてみると、ムワッとしたぬるい空気が外に流れ出して、だんだん涼しくなっていくのが確認できた。
(……よし。これで真夏でも大丈夫だね)
唯一のデメリットは、遮光が完璧すぎて部屋の中が真っ暗になってしまうことだ。眠っているやっくんの様子を伺うことは、残念ながらできなくなってしまった。それでも、クローゼットの前に立っていると、大型犬用ベッドの中でもぞりと動く気配が感じられた。
私は小さく頷いた後、部屋の扉を開けてリビングに戻った。
その日の夕方。起きてきたやっくんは開口一番に「部屋の様子が少し変わっておった」と言ってきた。
「ふふ。気づいた? 夏に向けてカーテンを変えたんだよ」
「そうなのか。前の物よりも、部屋の中が暗くなったな」
「そう。よく眠れるように暗くしたんだ。これからの季節はクローゼットを閉めたままだと暑くなっちゃうから、扉を開けたまま寝てね」
「ああ、そういうことか。分かった」
夏は暑くて大変だけど、嫌いではない。それに今年はやっくんもいるから、夏の果物を食べるのが楽しみだった。高いからあまり買ったことはなかったけど、モモやブドウ、スイカにメロン。美味しい果物がたくさん出てくる季節だから。
やっくんはどの果物が好きだろう。次に買い出しに行った時に果物コーナーを覗くのが、少し楽しみだった。
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