読み込み中...
読み込み中...
第17話 / 全32話
休日の夕方。冷蔵庫を開けてみると、まだあると思っていた豆腐を切らしていた。
豆腐。なくてもなんとかなるけど、ないと朝のお味噌汁が寂しい。時計を見ると、まだ午後五時だった。今から買いに行くか。
「買い出しか?」
上着を羽織って出かける準備をしていると、こたつに入っていたやっくんから声がかかる。
「うん。お豆腐切らしててさ。ついでだし、他のものも買ってくるよ」
「私も行こう」
そう言うとやっくんは立ち上がり、寝室に消える。少しすると、帽子を被って出てきた。最初にスーパーに行った後、買ってあげた帽子だ。つばが大きめで、耳元まで隠れるようになっている。黒い羽衣の下も、いつものTシャツでなく暖かそうなセーターになっていた。
やっくんはエコバッグを手に取って、先にスタスタと玄関へ向かう。私も、その背中を追うように玄関へ向かった。
外へ出ると、すでに日が落ちていることもあり寒い。口から出る白い息を纏わせながら二人で歩いていく。少しして、隣から「千春」と声がかかった。
「なぁに?」
「今日の夕飯、何か食べたいものはあるか」
「そうだなぁ……。今日はお鍋にしない? 帰ってから色々するの大変でしょ。まだ寒いし、丁度いいよ」
「うむ。そうするか。……今日は長ネギと小松菜が安い。いちごが残ってたら狙い目だ」
「……なんで知ってるの?」
「スーパーのホームページの広告を見た」
「そんなことしてるの!?」
そんな会話をしているうちに、スーパーに到着した。やっくんは買い物カートにカゴを乗せると、迷いなく野菜売り場へ向かい、次々と野菜を入れていく。何度か一緒に買い物に来たのだが、やっくんは買い物メモを使わない。出る前に冷蔵庫を確認したら、それだけでもう必要なものを覚えているのだ。私はというと、商品を見てるうちに忘れるのでメモが必須だ。記憶力が羨ましい。
特売のいちごは幸いにもまだ残っていたので、今日のデザートはいちごになった。やっくんは「いちご、まだ残っていたな」と嬉しそうにしていた。かわいい。
野菜売り場を抜け、本来の目的だった豆腐をカゴに入れる。ついでに油揚げや厚揚げ、納豆も補充する。その後は魚売り場を覗く。鍋に入れると良さそうな白身魚を探して、カゴに入れた。その後は肉売り場、乳製品、お菓子と少なくなってきている調味料の補充だ。以前よくおやつに買っていた菓子パンは、最近はあまり買っていない。小腹が空いたとき用にやっくんが小さなおにぎりなどの軽食を作っておいてくれるからだ。おにぎりはおいしいし、腹持ちも良い。お弁当にもいいけど、おやつにも最適だということをやっくんと暮らすようになって知った。昔の人たちも、そうしていたのかな。
途中、通りがかったお菓子コーナーにはチョコが山積みにされていた。バレンタインが近くなってきたこの時期に、毎年見られる光景だ。いままで、やっくんのおやつにチョコはあまり選んだことなかった。でも、甘いもの好きのやっくんのことだ。たぶんチョコも好きだろうなと思った。山積みのチョコの横を通り過ぎながら、バレンタインにはやっくんにどんなチョコを買ってあげようかと、思考を巡らせる。
必要なものを取り終えてレジへ向かう。セルフレジでのバーコードの読み取りは、いつも私がやっていた。今日もいつもの通りレジの前に立ってから、横からじーっと私の手元を見つめるやっくんに気がつく。
「……やってみる?」
やっくんは目を見開いて、それから、こくりと頷いた。
場所を交代して、私は買い物カゴの側に立った。重いものからカゴから取り出して、やっくんに手渡す。やっくんはそれを受け取って、バーコードを探してレジの読み取る部分へ慎重にかざす。ピッ、と音が鳴ったのを確認して、エコバッグへ入れる。ゆっくりとした動き。だけど、ちゃんと読み取りすることができた。手を動かすやっくんは、少しだけ楽しそうに見えた。
支払いを終えて、店の外に出る。エコバッグはやっくんが持ってくれた。帰り道を二人で並んで歩く。
少し歩いて住宅街に差し掛かった時、正面から歩いてくる人物が顔見知りであることに気づく。向こうもこちらに気づいたらしく、軽く手を振ってきた。
「千春ちゃん、こんばんは」
「こんばんは。……西本さんもお買い物ですか?」
「うちもなぁ、さっきしょうゆ切らしてるのに気づいてなぁ。慌てて買いに来たんやわ」
「そうなんですね」
「……そちら、お連れさん?」
「あ、ええと。……弟、です。いま遊びに来てて」
「そうなんや。仲ようてええなぁ」
そのまま、軽く会釈してすれ違う。少しして、やっくんがぽつりと言う。
「……なぜ隠す」
「え、だって……妖怪なんです、なんて言っても信じてもらえないでしょ」
「……私は守り神だ。誇ることはあっても、隠すことはないだろうに」
隣を見ると、やっくんは不満そうに口を尖らせていた。思わず笑ってしまう。
「……何だ」
「いや、ごめん。かわいくってつい」
「かわいいって言うな」
話しながら歩くと、不意に肩がほんの少し触れる。そのまま、二人並んで家まで帰った。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する