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第21話 / 全32話
休みの日は家でゆっくり過ごすことが多い私なのだが、今日は午前中から家の近くのホームセンターを訪れていた。夜勤明けの次の日なので、二連休の二日目のような気分だったし、せっかくだからと出かけることにしたのだ。もちろん、ホームセンターに来るくらいだからちゃんと用事もある。メインは、日用品の買い出し。あとは、リビングで使ってたクッションがだいぶくたびれてきたので、自分の分と、新しくやっくんの分を買おうと思っていた。
ホームセンターを見て回るのは楽しい。色々なものが置いてあるから、見ているだけでワクワクする。DIYとかも面白そうだなと思う。住んでる家は賃貸だし難しいけど、材料や道具を見るだけでも楽しい。
木材や工具をしばらく眺めた後、園芸コーナーにも立ち寄ってみる。そこには様々な観葉植物が並び、まるで小さな植物園に来たみたいだ。後ろの棚には肥料やら道具やらも並んでいる。私は小さな植物園を形作る要素のひとつ――小さな植木鉢に入った観葉植物を手に取った。
(こういうの家に置いておいたら、やっくんが一生懸命お世話しそうかも)
そんなことを想像して、自然と頬が緩んでしまう。私は観葉植物をそっと元あった棚に戻した。
(ダメダメ。今日は他にも色々買うんだから。持って帰れなくなっちゃう)
私は買い物カートを押しながら、購入予定の品が置かれた棚を探して周りを見回しながら歩き出す。
ふと、ペット売り場に目が止まった。ペットを飼う予定はない。それでも、ホームセンターに来ると必ず立ち寄ってしまう。近くに寄ると、子犬や子猫がケースの中で身体を丸めて眠っていた。
(ペットっていいなぁ。寝顔を見るだけで癒される)
犬猫コーナーの隣のガラス張りされた小部屋の中には、ハムスターやウサギ、小鳥などの小動物が並んでいた。ハムスターは表に出てきておらず、床材の中や置かれた餌箱の隙間など、狭いところで身体を丸めて眠っている。
(うんうん。狭いところが落ち着くんだよね)
一通り眺めてから、ガラス戸を開けて小部屋から出る。ガラス戸を閉めながら視線を後ろへやると、そこにはペット用の寝具が並んでいた。犬や猫が中に入って寝るためのベッドだ。見ていたら、やっくんの姿が思い出される。やっくんは、いつもクローゼットの隅に置いた布団の上で丸まって寝ている。
……ひょっとすると、やっくんもこういう寝具の方が落ち着いて寝られるんじゃないだろうか。
でも、その棚に置かれていたベッドは中型サイズで、やっくんには少し小さすぎた。もっと大きいのはないのか。私はキョロキョロと辺りを見回しながら探して歩いた。
棚の裏側に回ってみると、大型犬用のベッドを発見。思わず駆け寄る。中に手を入れるとふわふわだし、丸まって寝やすそうだ。人間でも子どもなら確実に喜んで入りそうなかんじだし、やっくんもぜったい好きだと確信できる。
(……いやいや。犬用だし)
私は自分で自分にツッコミを入れて、カートを押して歩き出す。
数歩歩いて、立ち止まる。そして、くるりと引き返し、また大型犬用ベッドの前に立っていた。
(ちょっと持って帰るのにでかいけど……)
私は、その場で軽くベッドを持ち上げてみる。所詮クッションだし、さほど重くはなかった。私はその場で購入を決めた。
大型犬用ベッドをカートに乗せて、他の棚に置かれた品にも目を向ける。ペット用のおやつやおもちゃが所狭しと並んでいた。やっくんのおやつには果物を買うことが多いけれど、ペットにも果物を与えるらしい。干してカットされた果物が並んでいた。
(なるほどね、ドライフルーツという発想はなかったな)
一瞬手を伸ばしかけて――やめた。ドライフルーツならたしかスーパーにも売っている。スーパーで人間用を探すことにしよう。
おもちゃは、かじったり転がしたりするやつが多かった。……やっくんはこういうものに反応するんだろうか。少し考えみたが、ちょっと分からなかった。
でも、私が仕事でいない間とか、どうしても一人で待たせる時間が多いのも事実。暇つぶしのおもちゃはあってもいいかもしれない。
いまは主にスマホで時間を潰してるみたいだけど、あんまりそればっかりっていうのもちょっと気になるし。
……ボードゲームとか買ってみるか? 人生ゲーム、オセロ、将棋みたいな定番品はあってもいいんじゃないか。でも、中には見たことないボードゲームも色々あって、どれも面白そうで迷ってしまう。
結局、やっくんの好みを聞いてからにしようと思い直し、売り場を離れた。……ていうか、そんなに一気に持って帰れないしね。
その後、クローゼットに置く除湿材もカートに追加した。本来買う予定だった日用品も一緒にまとめて会計してみたら、けっこうな物量になった。主に大型犬用ベッドのせいだ。あまりにでかいビニール袋にひとり心の中で笑いながら、帰路に着いた。
夕方、目を覚まして起きてきたやっくんがリビングに現れ、私はソファーから勢いよく起き上がった。
「やっくんおはよう! ねぇ、ちょっとこれ見てくれない?」
「ん……?」
やっくんは、部屋の隅に置かれた大型犬用のベッドに気づくと、目の前で立ち尽くす。
「……これは、なんなのだ……?」
「中に入って寝られるんだよ。やっくん好きそうかなーと思って買っちゃった」
「ああ、なるほど」
やっくんはすぐに用途を理解したらしい。身を屈めると、入り口を潜ってするりと中に入っていった。
「……これは良いな。落ち着ける」
「ほんと!? よかったー」
やっくんはすぐにするりと出てきた。
「千春も入ってみるか?」
「えっ」
「居心地良いぞ」
自分が入るとは思ってなかったけど……そう言われたらちょっと入ってみたくなってきてしまった。私はやっくんに促され、身を屈めてベッドの入り口を潜った。
「……うわ、入れた!」
「どうだ?」
「うーん……ちょっと狭いかも」
丸まって寝るやっくんにはいいんだろうけど。自分がここで寝たら身体が痛くなってしまいそうだ。
その後、ベッドをクローゼットの中に移動し、さらに買ってきた除湿材も設置。私はすっかり満足した。
リビングに戻り、そういえばと思い出して口を開く。
「やっくんってさー、暇つぶしの遊びとかは何かやったことあるの?」
「遊び、か。……囲碁なら知ってるな」
「囲碁かー! 囲碁は私はやったことない。ルールも全然分からないや」
仮に、やっくんと遊ぶために囲碁のルールを覚えたとしても。賢いやっくんのこと、勝負になる気がしなかった。
一緒に遊ぶなら、やっくんにルールを覚えてもらう方が早そうだ。一緒にオセロとかやったら盛り上がるかも、なんて考えてしまう。
次の休みも、またホームセンターに行くことになるかもしれない。そんな気がした。
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