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第17章 祝福の讃歌 / 第330話
私の頭の中は、結婚式の余韻に浸るどころではない。アレクとフレアが駆けつけてくれたことに、胸が高鳴って仕方がない。控室で披露宴への着替えもできずにいると、ヒルダがやってきた。
「ミエラ、クローディオの部屋に行っておいで!」
絶対に、アレクとフレアが待っていてくれている。返事もせずに部屋から飛び出し、廊下を駆ける。途中で躓きそうになりながらも、何とかドアの前までやってきた。準備なんてできないまま、ノックもせずにドアノブを回す。
そこには振り返って目を丸くするアレクとフレアの姿があった。
「フレア……!」
話したいことはたくさんある。謝りたいことだってある。
フレアに飛び付き、声を上げて泣き出してしまった。
「もう会えないと思ってたぁ~……!」
「それはあたしも一緒だよ。でも、アレクが絶対に行こうって言ってくれたから」
「アレク~っ……!」
「やっぱ泣き虫なところは変わってねぇんだな」
くずおれてしまった私のところに、クラウとアレクも歩み寄ってきてくれる。久しぶりに四人で輪になった。フレアは私の背中を優しく撫でてくれる。
「私、手紙に酷いことを書いちゃった~……。寿命がどうだとか、そんなの、アレクとフレアだって知りたくなかったかもしれないのに……」
「そんなことないよ。 知らないまま、寿命を迎えるよりずっといい。だから、時間を大切にしようって思えてるもん」
フレアは赤とグリーングレーの瞳を細めた。アレクも口角を思い切り上げる。
「ミユがオレらのことを信用してくれた証拠だよな。隠さなかったのは偉いぞ」
「ふえ~……」
褒められるようなことなんてしていない。私はただ、重たすぎる事実を閉じ込めておけなかっただけだ。
「だから、俺が言ったじゃん? 悲しみは四分の一だって」
「本当は、それ私の台詞~……」
私がしょげているクラウに言ったのが最初だ。口を尖らせていると、悲しいのか嬉しいのか分からなくなってくる。小さく笑い声を上げると、それは三人にも波及していった。
「そうだ。これ、ミユが俺にプレゼントしてくれたんだ」
クラウが胸元から取り出したハンカチは、少しだけファンデーションで汚れてしまっていた。それをクラウは愛おしそうに見つめる。
「あたしが教えただけあるね。頑張ったね、ミユ」
「えへへ……」
「ま、フレアには敵わねーけどな」
フレアはしっかりと褒めてくれるのに、アレクは褒めてくれているのか貶しているのか分からない。それがアレクらしさではあるのだけれど、ちょっとだけ口を曲げてみる。
そこへ、クラウが口を開いた。
「二人とも、いつまでサファイアにいられるの?」
「一週間くらいだな」
「そっか。じゃあ、観光プランを考えておかないと」
「また雪合戦でもするか?」
アレクは意地悪そうに笑う。それにクラウが応戦する。
「またアレクが負けるじゃん?」
「言ったな? オマエ、負けたらどーする?」
「どうもしない……ってか、負けるわけないし」
四人で雪合戦をした、遠い日に思える出来事を思い出す。その時は、完全に私とクラウの圧勝だった。フレアと顔を見合わせ、笑い合う。
「幸せって……こういうことを言うんだね、きっと」
「うん」
今日という日は、一生心に残るのだろう。忘れない。忘れたくない。胸に手を当て、そっと瞼を閉じた。
慌てて控室に戻る。これでは披露宴に間に合わない。何とかドレスを脱がしてもらい、薄緑色の可愛らしいドレスに着替える。婚約発表できたものよりも豪華にはしたつもりだ。
クラウの腕を掴みながら、植物園に作り上げられた会場へと入る。私が会いたかった人は全員参加してくれた。アレクとフレア、ヒルダ夫妻、スチュアート夫妻、リラ、リネットとアンジェラ――みんなが満面の笑みで拍手を送ってくれる。
「元魔導師様が全員集合って……ある意味、戴冠式よりも貴重だよね」
「うんうん」
令嬢たちの囁き声が聞こえたけれど、聞こえないふりをした。私にとっては『元魔導師』としての括りではなく、大切な『仲間』なのだから。
盛大なパーティーは順調に執り行われ、幸せな時間はあっという間に過ぎていった。ウエディングケーキカットもできたし、ブーケトスもできた。ブーケを受け取ったのはアンジェラだった。きっと、次に結婚式を挙げるのは彼女だろう。
コルセットのせいでまともに食事は摂れなかったけれど、覚悟はしていた。不満に思うことはない。心残りがあるとするのなら、エメラルドに残してきた家族に晴れ姿を見せられなかったこと、だろうか。偽りの家族なのに、会いたいという感情が芽生えてしまう。
来場者を見送った後で、クラウと二人で木の葉の間に広がる小さな空を見上げる。
「あ~あ、終わっちゃった~……」
吐息をつきながらぼんやりとする私に、クラウは小さく笑う。
「これは始まりだよ。ゴールじゃない」
「でも、何かが終わったのは確かなの」
世界は私たちを取り残しても回る。空は黄色からオレンジ色へと変わっていった。
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