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第17章 祝福の讃歌 / 第329話
そこでレオニスと合流をした。私を見たレオニスはにっこりと笑う。
「ミエラ、綺麗だよ」
「ありがとうございます」
軽く挨拶を交わし、レオニスの腕を掴む。バージンロードはレオニスが一緒に歩いてくれるのだ。
「いいか? 背筋を伸ばして、しっかり前を向くんだぞ」
「はい」
返事をすると同時に、扉が開く。あまりの光に、視界が眩んでしまった。クラウの姿が見えない。遠くでパイプオルガンが鳴っている。
「ミエラ」
レオニスが私にしか聞こえない程の声量で囁いた。そして、二人で一歩を踏み出す。
来場者は前を向いているので、顔は見えない。話し声も聞こえない。祝福をしてくれているのかも分からない。
でも、この道の先にクラウは確実にいる。その事実だけが私の足を動かしていた。
心臓は破裂しそうなくらいに鼓動し、膝だって震えている。所定の位置でレオニスの手が離れ、たった一人となった。歯を食いしばり、来場者の視線を一身に受ける。
その時、ようやくクラウの姿が見えてきたのだ。装飾のついた白いタキシードは、クラウの髪と瞳の色によく合っている。私を見てそっと微笑んでいるので、肩の力が抜けそうになる。走り出したくなる。
その気持ちは堪え、一歩一歩、着実に祭壇へと向かう。その時、ちらりと見えた来場者席に、薄茶の長髪の男性と黒いウェーブがかかった髪の女性の姿があったのだ。顔は見ていない。だから、そんなはずはない。頭に浮かんだアレクとフレアの笑顔を払拭し、さらにゆっくりと進む。最前列にいるヒルダ夫妻やスチュアート夫妻、リラも通り過ぎ、とうとう祭壇へと一歩を踏み出す。クラウが手を伸ばしてくれたので、それを静かに取った。
祭壇に並ぶと、司祭は凛と声を張る。
「これより、結婚の義を執り行います。異議のある方はいますか?」
パイプオルガンの音楽もいつの間にか止んでおり、大聖堂はしんと静まり返ったままだ。
「では。汝、クローディオは、病める時も悩める時も、ミエラを妻とし、生涯愛し抜くことを誓いますか?」
少し間があったので、ブーケを握る手に汗を掻いてしまった。横目でクラウを見てみると、彼は迷いなく司祭を見詰めていた。
「誓います」
透き通った声が大聖堂に響く。ほっと胸を撫で下ろす間もなく、司祭から次の言葉が紡がれる。
「汝、ミエラは、病める時も悩める時も、クローディオを夫とし、生涯愛し抜くことを誓いますか?」
この結婚に迷いはない。百年も続いた私たちの苦難の道が終わる、一つの通過点なのだから。
「誓います」
それなのに、声は震えてしまった。クラウが小さく笑うのが聞こえた。
「愛し合えるのなら、誓いのキスを」
司祭はにこっと微笑む。
足音を響かせながら、私とクラウは向き合う。クラウの手が伸びてくるので、思わず息を止めてしまった。ヴェールが外されると、やっとはっきりとクラウの顔が見える。すると、その顔が桜色に染まった。
「ミユ、綺麗だ」
囁くと同時に、クラウの顔が近付いてくる。唇が軽く触れると、来場者たちの拍手や口笛の音が飛び交う。
大丈夫、私たちはちゃんと祝福されていたのだ。一気に空気が温かくなったように感じる。来場者の方を見てみると、みんな、弾けんばかりの笑顔だ。
やっとここまでこれたのだ。感極まって涙が溢れそうになる。
「ミユ、泣かないで」
囁かれて、クラウの方に振り返る。銀と青の瞳も潤んでいるように見えた。
「クラウもだよ~」
二人で笑い合い、頬を涙で濡らす。クラウは胸元を飾っていたカサブランカのハンカチを取り出し、私の頬に押し当てる。次に、自身の頬も拭う。
「指輪の交換に移りましょう」
司祭が指示を出すと、子供の手によってリングピローが運ばれてきた。朗らかに笑うその子たちは、まるで天使のように見える。
クラウは指輪を取り上げ、にこっと微笑む。私がそっと左手を差し出すと、震える手で小指にはめてくれた。青と緑の石が仲よく並んだ、シルバーのリングだ。思い出してはいけないのに、リエルが指輪を差し出してくれた時のことを思い出す。そして、クラウがずっとカノンの指輪を大事に持ち続けていてくれたこと、その指輪を受け取った日のこと、カノンの指輪を自分で身に着けたことも。そして、そのリングはタイムカプセルに埋め、本当にリエルが渡したかった指輪を受け取った時のこと――本当に、色々ありすぎた。
目に涙を溜めながら、今度は私が指輪をはめる。親指用だとはいえ、何故、指輪はこんなにも小さいのだろう。小さく唸りながら、差し出されたクラウの左親指に震える手ではめる。終えた時には、額に汗が滲んでしまった。
「二人は正式に夫婦となりました。神よ、どうかこの二人に祝福の讃歌を」
司祭が言い切ると、再びオルガンの荘厳な音楽が鳴り響く。拍手と口笛は一層大きくなった。
神は――エメラルドとサファイアは、今の私たちを見ていてくれているのだろうか。祝ってくれているのだろうか。
頭の片隅には残るけれど、今はそれは置いておこう。クラウと寄り添えることができるなら、それでいい。
振り返り、クラウと手を取り合う。フラワーシャワーが舞う中で、ようやく来場者たちの顔を見ることができた。最前列で笑うレオニスやキャサリン、それにヒルダ夫妻とスチュアート夫妻、リラ、その後ろには――。
「アレク、フレア……!」
オッドアイを抜きにしても、見間違えるはずがない。百年間も、私を待っていてくれた仲間なのだから。激動の時を共に戦った人たちなのだから。
「こっそり呼んでおいた」
クラウはしらっと言って退ける。とんでもないサプライズだ。
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