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最終章 この世界は素晴らしい / 第331話
一週間後、私とクラウはトパーズでの新婚旅行へと旅立った。同じ船にはアレクとフレアも乗っている。でも、私たちの邪魔はしたくないという理由で、まだ顔は合わせていない。
二人でデッキに出ると、粉雪が舞っていた。トパーズに着く頃には晴れ模様に変わってくれるだろうか。空を見上げると、私が天へと昇っていくかのような錯覚に陥る。
雲の合間から太陽が覗く。
「ミユ、天使の梯子って知ってる?」
「雲の隙間から光が漏れて、スポットライトみたいになってるあれだよね?」
「すぽっとらいとが何かは分からないけど……たぶん、そんな感じ」
同じように空を見上げていたクラウの青い瞳は、星が宿ったように煌めいている。
「俺たち、天使の梯子の中心にいるよ。これからもっと幸せになるために、神様が架けてくれたんだろうね」
「エメラルドとサファイア?」
「もしかしたらオニキスとオパールだったりして」
ちょっとした冗談を言いながら、クラウの手を握ってみる。
私たちは絶対に、もっと幸せになれる。これから毎年クラウの誕生日だって祝いたいし、子供の顔も見たい。またスカイブ湖に旅行に行って、令嬢たちに土産話もしたい。氷像大会の優勝だって見届けたい。スケート大会で優勝は狙わないけれど、記念参加はしたい。先の人生だって、やりたいことだらけなのだ。
「私、クラウにお願いがあるの」
「何?」
「未来から逃げないで、その時が来るまで一緒に生きて欲しいんだ~」
つらい目に遭わせるかもしれない。悲しい目に遭わせるかもしれない。一度は沈んだっていい。それでも前を向いて、周りにいる人たちと笑って生きていけたらな、と思う。
クラウは小さく笑い、片手をデッキの手摺りに掛ける。
「分かってるよ。何が起きても目を背けない。その上でミユと一緒に生きていきたい」
クラウが吐き出した息が白く濁る。
「俺、ちょっとだけにほんに行ったじゃん? 正直に言うと、スティアもこんな世界になるのかなって、ちょっと怖くなった。事件が頻発するのかなって、嫌にもなった」
少し間が開く。そして、伏し目がちの瞳はこちらを向いた。
「でも、やっぱり思ったんだ。悪意のない人間なんて不自然なんじゃないかって。戦争のある世界なんて許せないし、認めたくもない。だけど、そうなる前に俺たちが止めればいい。俺たちが忘れなければいい。完璧な人間なんていないんだから」
クラウが握る手に力が入る。
「この世界は素晴らしい。だから、そんな素晴らしい世界が壊れないように、俺たちが神様を監視しないとね」
今までは私たちが神に監視される側だった。しかし、私たちは真実を知ってしまった。神は自分の立場が逆転してしまったことに気付いているのだろうか。
「わたしもね、この世界の人が大好き。自然が大好き。空気も大好き」
そして、すっと空気を吸い込んだ。
「やっぱり、この世界は素晴らしい!」
Fin.
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