読み込み中...
読み込み中...
第15章 抵抗 / 第145話
ミユの魔法の的中率も上がったことだし、協力魔法の練習をする準備は整っただろう。
晴天が突き抜け、穏やかな風が俺たちを撫でていく。
昨日と同じ場所に立ち、ミユに微笑みかけた。
「今日は、いよいよ協力魔法だよ」
「うん」
緊張のせいなのか、恋のせいなのか。高鳴る胸から目を逸らす。
「説明するより、やってみよう」
膝をつき、呼吸を整える。ミユもすぐさま隣にしゃがみ込んだ。
「この先に岩を出してもらっても良い? 大きさは無理のない程度で」
「うん」
頷くと、ミユは右手で地面に触れ、眉間にしわを寄せる。瞬きをした瞬間、数メートル先に身長をゆうに超える岩柱が姿を現した。
このぐらいの大きさなら、水量はこれくらいだろう。――決めた。
ミユの手に自身の手のひらを重ね、意識を研ぎ澄ませる。地面から水があっという間に湧き前方へと流れゆく。勢いに乗ったまま岩柱を砕き、茶色の細い一本道が出来上がった。
「うん、こんな感じ」
これを徐々に大きくしていけば、影も飲み込めるだろう。瞬間移動さえされなければ。
「もう一回、出来る?」
「う、うん。大きさは今くらいで良い?」
「うん」
頷かれて、気がついた。ミユの顔が近い。緑の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
鼻息がかからないように息を潜めてみるが、効果の程は分からない。
一度、冷静にならなくては。落ち着け、俺、と自身の心を宥めてみる。
先に冷静さを取り戻したであろうミユは瞼を閉じ、魔法が放たれたのは良かったのだが。俺が手に力を入れたのが伝わってしまっただろうか。ミユの頬は途端に紅潮し、壁とも言える大きさの岩が出現したのだ。
何が起きたのか、すぐには理解出来なかった。
間髪入れずに水流を発動したが、水量が足りない。左右に二分されて飛び散ってしまった。
「えっ?」
まさか、壁を出すとは思っていなかったのだ。驚いてしまい、壁を見詰めてみる。
「ミユ、今のは大き過ぎない?」
「ご、ごめんなさい……」
「いや……これはこれでやってみよう」
偶然とはいえ、自分を試すチャンスだ。逃す手はない。
太い川を想像し、頭の中で映像を固定化する。「出ろ!」と念じると、瞬く間に地面から水が溢れ出す。数メートルと言う幅の濁流に流石の岩壁も飲まれ、崩れ去る。魔法が収まった時には、地面に生えていた草も根こそぎ洗い流していた。
「これくらいの威力か……。結構、体力削られる……」
魔法の扱いに慣れている俺ですら、頭がくらくらする。
ミユの方を見てみると、若干息が上がっているようだ。
「ちょっと休憩しよっか」
「うん」
疲れが溜まるのは互いに良くない。大きな溜め息を吐き、大の字に寝転んだ。
「実戦だと、今くらいの魔法を連発しなきゃいけなくなるかもしれない」
瞬間移動で避けられては魔法を使い、また避けられて――体力戦になるのは目に見えている。
「私、大丈夫かなぁ。動けなくなりそう」
「走り込み三十分、休憩三十分ってとこかな」
「えっ?」
昨日、体力づくりのメニューを考えてみたのだ。
ミユの顔が引きつったのが分かる。
「それを一日三時間。魔法の練習の前に組み込もう」
「そんなの、悪魔が考えることだよぉ」
「戦いに負けるよりは良いじゃん?」
「それは……そうだけど……」
これでへこたれてはいけない。戦いになれば命を懸けることになるのだから。
観念したのか、ミユも隣に寝転がった。
「こうなったらさ、アレクとフレアも巻き込もう。アレクはとにかく、フレアだって体力が持たないよ」
「賛成してくれると思う?」
「フレアはどうかな。アレクは賛成してくれそうだけど」
そうするのが良いよ、と青空も賛成してくれているかのようだった。
その空に、ふとサファイアに残してきた家族の顔が過る。
「ミユにはさ、家族っている?」
「うん、両親と妹が一人」
「そっか」
妹がいるなら、ミユに似て可愛いのだろうな、と想像が膨らんだ。
「俺にも、両親と姉さんがいる。それに、友人も。その人たちの命が俺にかかってるって思ったら、どうしようもなく怖いんだ」
俺たちが負ければ、世界は終わる。親しくしてくれた人たちの命も散る。そう思うと震えが止まらない。
「怯えてる俺の姿を見たら、きっと笑うんだろうな」
「そんなことないよ」
力強い声に、はっと振り向いた。ミユはまっすぐに空を見詰めている。
「絶対、クラウのことを笑う人なんていないよ」
「ありがとう。やっぱりミユは優しいな」
優しくて、心強くて、涙腺が緩みそうになる。首を振るミユに、感謝も込めて微笑みかけた。
一陣の風が俺たちの上を駆け抜ける。
「休憩終わり」
俺も弱音は吐いていられないな、とあざけり、立ち上がった。ミユも遅れて立ち上がる。
はっと息を飲む音が聞こえた。
「ちょっと動かないで」
「えっ?」
ミユは俺の背中をパンパンと払う。
何かついていただろうか。振り向くと、ミユは頭に一枚の草の葉を乗せて、朗らかに微笑んでいた。
「葉っぱがついてたから」
「ありがとう。ミユの頭にもついてるよ」
ちょっとした気遣いが嬉しい。
礼にと俺もミユの頭についていた葉を摘み、微笑んでみせた。
「ありがとう」
こんなにも穏やかに過ごせる時間は、あとどれくらい残されているのだろう。考えると切なくなってくる。
解呪の剣は一度頭から切り離そう。そうでもしなければ、俺の周りには死の影がつきまといそうで怖いのだ。
恐れを払拭するかのように、土石流は何度も流れては消えるのだった。
* * *
アレクの賛同とフレアの諦めにも似た同意で、午前に走り込みが取り入れられた。午後からは、勿論、協力魔法の練習だ。
そうしているうちに、二週間が経った。ミユはメキメキと体力をつけ、魔法の質も向上していった。本人も魔法をイメージしてから出現させるまでの時間が短くなったと言っていた。岩の大きさだって文句はない。
民家大の岩を激流が押し流す。この光景を見て不満を言おうものならどうしようかと思った。
「そろそろ良いんじゃねーか?」
アレクは意地悪そうな笑みを浮かべて納得したようで、フレアも拍手を送ってくれた。
「オレらも大分、仕上がったんだ。それで、だ」
アレクは俺たちの瞳を見て、珍しく真顔を作る。
「明日からミユの呪いを解く方法探しをしようと思う。それぞれの国に散って、各々文献を頼るなり、人に聞くなり、出来ることは沢山ある筈だ。出来るか?」
「出来るかって言われてもさ。俺たち、外に出れないじゃん。本なら城の図書室に行けば良いんだろうけど、それだって許可が下りるか――」
「それはこれから使い魔に頼み込むんだ。一人が駄目なら、二人で協力するまでだろ? オレらならやれる」
頼み込んだところで、許可が下りるとは思えない。しかし、それを否定してしまえば、生きる道を失ってしまうかもしれない。
フレアもアレクの意見を受け、頷いた。
「頑張って使い魔を説得しよう。それしかあたしたちに出来ることはないもん」
「皆、ありがとう。そしてごめんなさい」
「ミユが謝んじゃねぇ。謝らなきゃいけねーのはオレらなんだからよ。百年前は死なせちまって、申し訳ねぇ」
アレクが頭を下げると同時に、罪悪感が沸き起こる。
本当にごめん。俺も知らず知らずのうちに視線を落としていた。
「使い魔たちは会議室にでもいるだろ。早速行くぞ」
「うん」
無理を承知で外に出してもらおう。必ずだ。決意を新たに会議室へと急いだ。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する