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第16章 親告 / 第146話
予定よりも一時間程早い帰館に、使い魔たちは何かを感じ取ったのだろう。一礼する彼らの表情は強ばっている。四対四で向き合い、覚悟を決めた。
「明日から呪いを解く方法を探るために、街と城の行き来を許可してもらいたい」
アレクが凛と言い放つ。使い魔たちは全く表情を変えない。
「それは王に許可されていないことはご存知ですよね」
ロイは躊躇うことなく、まっすぐに声を張った。
徹底抗戦は想定の範囲内だとでも言うように、アレクは使い魔たちを切り捨てる。
「承知で言ってるんだ。人の命が懸かってる時に、んなこと言ってられるか」
「こちらも、貴方方の安全を思って言っているんです」
ロイの言葉に、他の使い魔たちも頷いてみせる。
「その『貴方』がオマエらのせいで死ぬかもしれねぇんだぞ?」
「私たちは『四人全員』の身の安全を言っているんです」
「『一人』ならどーってことねぇって言いたいのか?」
「そうじゃありません。その役目は全て私たちにお任せいただきたいんです」
『一人』とは確実に俺のことを言っている。アレクは俺のために使い魔たちと激論を交わしてくれているのだろう。そう思うと胸が酷く痛くなる。
「オレらに黙って待ってろって言いたいのか? オマエらだけじゃ、人手も時間も足りねぇ」
「やってみなくちゃ分からないじゃないですか」
ロイの根拠のない自信に、アレクの目が鋭くなる。
「失敗した後じゃ遅いんだ」
「ちょっと待って! これじゃあ、ただの喧嘩だよ」
いても立ってもいられなくなったのか、フレアはアレクとロイの間に割って入る。お陰で張り詰めた緊張は少しだけ緩和したように思えた。
「ロイ、ごめんね。サラとアリアとカイルも」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
使い魔たちは揃って頭を下げる。
「でも、私たちは意見を曲げる訳にはいかないんです。どうか、引き下がって下さいませんか?」
アリアが言うことも理解出来る。俺たちと王たちの板挟みに合っている状態なのだから。監禁を強いる理由は未だに良く分からないのだが。
それならば、王たちの意見を変えてしまうのが手っ取り早い。
「使い魔だけじゃ、判断出来ないことは分かった。だったら、王に直接、許可をもらってきて欲しい」
俺が口にすると、使い魔たちの眉間にはしわが寄っていった。
「い、いや……。王は流石に……」
「聞いてみなくちゃ分からないじゃん」
「ですが……」
「それくらいして差し上げよう? 皆様は、命を懸けてらっしゃるんだから」
躊躇うカイルに、アリアが強い眼差しを送る。俺たちの気持ちが伝わったのか、使い魔たちが諦めたのかは分からない。ただ、状況が変わったことだけは理解出来た。
「一時間程、お待ち頂けますか? 王たちのスケジュールに割り入ってきます」
「うん、頼んだ」
大きく頷いてみせると、使い魔たちも頷き合う。それぞれが己の意思で、言葉を交わすこともなく、光を放ち、それぞれの国へと消えていった。
緊張が切れたと同時に、目が眩んだ。
ミユも余程緊張していたのか、その場に崩れ落ちてしまった。
「駄目……。緊張した……」
呟くと、両手で顔を覆う。
「ミユ、気持ちは凄く分かる。それもこれもアレクのせいなんだから」
「悪ぃ。つい熱くなっちまってな」
「だからって喧嘩腰になることないじゃん。説得する予定だったのにさ」
アレクの悪いところだ。まあ、止められなかった俺たちも悪いのだが。こっそり吐息を吐き、頭を軽く振る。
「あたし、ジュースでも持ってくるね。皆、喉乾いたでしょ?」
「あぁ、済まねぇ」
俺の喉もカラカラだ。
アレクの返事を聞くと、フレアは微笑みを残して駆け足でこの場を後にした。
「ミユ、立てる?」
微笑みかけ、手を伸ばす。
ミユは頷き、素直に手を取ってくれた。今までは拒絶していたのに。この些細な変化が何よりも嬉しい。
指定席に腰を落ち着けてもミユの緊張は完全には解れないらしく、何度か深呼吸をする。
そうしている間にフレアが舞い戻り、テキパキとグラスを運んでくれた。我先にと手に取り、中の液体を喉へと流し込む。
この甘酸っぱさは林檎ジュースだろうか。
後味を楽しみながらも、これからのことに思いを馳せる。
いつ、フレアに先日の喧嘩の真実を伝えよう。これはアレクには任せられない。俺が伝えるべき事実だ。
それに、カイルには――。
「うーん」
誰からともなく唸り声を上げ、それぞれが物思いに耽る。話題を提供するような者は現れなかった。
数十分後、アレクが痺れを切らすまでは。
「あー! 遅ぇ!」
顔を上げてそちらを見てみると、彼は苦悶の表情を浮かべていた。
「王様に会ってるんだよ? そのうち戻ってくるから」
「にしたって遅ぇ」
アレクは舌打ちをし、テーブルに突っ伏した。
俺の思考も限界だ。
「待ってるだけっていうのも疲れるよね。何か俺たちに出来ることないかな」
「待つことくらいだね」
「はぁ……」
待つこと以外にと言っているのに。
フレアの理不尽さに、俺もテーブルに突っ伏した。
「ここの男性陣は忍耐力が無いんだから」
「そんなこと言ったってさ……」
「アイツら待たせ過ぎなんだよ……」
忍耐力の問題ではない。抱えている事実が重過ぎるのだ。
使い魔たちが戻ってきた時には、頭を抱えていた。
「王たちと緊急会議をしてきました」
不意に聞こえたロイの声に、耳だけをそばだてる。
「オマエら遅ぇよ」
「きっかり一時間で戻ってきましたが」
一時間とは、こんなにも長い時間だっただろうか。溜め息を吐く音も聞こえた気がしたが、無視を決め込んだ。
「しゃきっとして下さい。一日三時間だけ、許可をいただいてこれたんですから」
カイルの『許可をいただいた』という言葉が頭に反響する。
まさか、本当に叶ったのだろうか。
上半身を勢い良く使い魔たちへと向ける。
「オマエら……それ、ホントか?」
「嘘言ってどうするんですか。期限は二週間です。八人で探しましょう」
やった。どうやら、俺たちにはまだ足掻くチャンスが残されているらしい。絶望に追いやられていた希望が一気に膨らんでいく。
あまりの喜びに、ミユは立ち上がり、アリアへと飛びついた。二人で何やら話をしている。
「良かったですね、クラウ様」
俺の元へ歩み寄ってきたカイルが、そっと微笑んだ。
目頭が熱くなったが、泣くにはまだ早い。これはまだ序章だ。口を結び、必死に涙を堪えた。
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