読み込み中...
読み込み中...
第15章 抵抗 / 第144話
物思いに耽っているうちに、ミユが小さく呟いた。
「そこ」
次に岩柱が姿を現す。それは氷柱とほぼ同じ大きさで、目前まで迫っていた。
続けざまに岩の魔法が放たれ、氷柱は脆くも崩れ去る。代わりに、そこには岩柱がそびえていた。
ミユが魔法を命中させたのだ。
「やった!」
「やったじゃん!」
魔法のコントロールは、正直に言うと難しい。もう少し時間がかかると思っていた。
まぐれでなければ、上達は早そうだ。すぐに命中率は上がるだろう。
右手を上げ、ハイタッチを求める。ミユははち切れんばかりの笑顔を返してくれ、手も合わせてくれた。
「じゃあ、もう一回ね」
「え~っ!?」
「これでへこたれるようなら影は倒せないし、バテるようなら体力が足りない」
「そんなぁ……」
これで練習を止めようものなら、今までの努力が水の泡だ。
甘い見通しを立てていたのか、ミユは小さく溜め息を吐く。
「溜め息吐かない。次、行くよ」
休憩も設けずに、大地に手をかざした。氷柱は岩柱を砕き、再びそこにそびえ立つ。
ミユにチラリと睨まれた気もするが、見逃しておこう。影は休憩なんて与えない。全力でぶつかってくるだろう。
俺ですら、こんなに短期間で魔法を連発することはなかった。ミユも良くやっている。
今にして思えば、アレクもフレアも優しく指南してくれたのだろう。
そよ吹く風は俺たちを癒すことはなく、ただ通り過ぎていった。照りつける太陽が余計にミユの体力を奪っていくようでもあった。
* * *
正午を周り、使い魔たちが呼びに来た時にはミユがヘトヘトになってしまっていた。額に汗を滲ませ、肩で息をしている。
魔法の練習だけではなく、体力面の強化も必要だろうか。どうやって連続魔法に耐え得る体力をつけたらいいだろう。一人考えていると、カイルに帰館を迫られた。
ダイヤの会議室に転移するなり、アリアに付き添われたミユはその場に崩れ落ちる。
「もう駄目~……」
それを見たアレクとフレアは心配そうと言うよりも、呆れに近い表情だ。
「おい、ミユ。大丈夫か?」
「全然、大丈夫そうじゃないでしょ」
流石に無茶をさせ過ぎただろうか。ミユの体力の無さに原因があるとは言え、申し訳ないことをした。頭を掻いてみたものの、謝罪の気持ちは伝わっていないだろう。
「おい、どーしてくれんだ。これじゃー、午後から使いもんにならねーじゃねぇか」
「ごめん、こんなにクタクタになるなんて思ってなくてさ」
正直に言うと、これに尽きる。ミユの力を過信していたのかもしれない。
すると、ミユに睨まれた。確実に。咄嗟にその頭を撫でてみる。
「ミユ、ごめんね」
俺が謝ると、ミユは小さく頷く。傍らではフレアがふふっと笑った。
「午後は休息の時間だね」
「昼飯は食べれるか?」
「食べる。お腹空いた~……」
腹部を擦るミユに、思わず笑いが零れる。俺も空腹感はあるのだ。問題はその空腹を満たせるかどうか、だ。
アリアは胸を張り、出来る使い魔をアピールする。
「今日のお昼はサーロインステーキですよ。皆さん腹ぺこかと思いまして」
「ステーキ!?」
見開かれた緑の瞳はキラキラと輝いている。余程、嬉しかったのだろう。
「お席へどうぞ」
誘われるがまま、誰からともなく席に着く。肉とオニオンが焼ける香ばしい匂いが鼻を、食欲をくすぐる。
ステーキの横にはポテトサラダも運ばれてきた。好物の突然の登場に腹が鳴る。
俺がスプーンを手にすると、ミユもフォークとナイフを構える。
「いただきます」
呟くや否や、ミユはステーキにがっついた。
俺も遠慮なくいただこう。ポテトサラダを一掬いし、口へと運んだ。まったりとしたジャガイモとマヨネーズのハーモニーが堪らない。
左隣にカイルもようやく腰を落ち着け、同じようにポテトサラダを頬張っていた。
ミユは手を休めることなく、ステーキを食べ進める。
その勢いにアリアが圧倒されたようだ。
「そんなに急がなくても、ステーキはどこにも行きませんよ?」
「だって~」
空腹で、しかも好物を前にすれば、誰だって手は止まらないものだ。ミユが頬を膨らませるので、七人とも笑いを堪えられなかった。
ポテトサラダもステーキも平らげ、あとはケーキを残すのみとなった。サラがショートケーキを取り分けていると、不意にミユが立ち上がった。瞼は落ちそうで、目も虚ろだ。
「ご馳走様でした~」
呟くと、フラフラと扉の方へと向かっていく。
「ミユ、ケーキあるよ?」
呼び止めたが、聞こえていないようだった。そのまま扉は開き、ミユは躓きそうになりながらも廊下へと消えていった。
「よっぽどお疲れになったんですね。誰かのせいで」
カイルが茶化すので、今度は俺が不貞腐れてしまった。
俺は何も悪いことなんてしていない。全てミユのためだ。
「クラウも膨れないの」
フレアが苦笑いするので、カイルからわざとらしく視線を逸らした。
「それにしても……。クラウ様、右頬のお怪我はどうされたんですか?」
「えっ? うーん……」
一気に俺とアレクの周囲の空気が凍りつく。その僅かな変化に気付いたのだろう。カイルは少し考えた後、首を小さく横に振った。
「やっぱり良いです。サファイアにお帰りになってから伺います」
カイルが折れてくれて良かった。まだ、カイルに解呪の剣について話す心積りは出来ていない。
ほっと息を吐き、拳を握り締める。
「ミユ様のケーキは残しておいて差し上げましょう。あとでケーキがあったと気付かれたら、しょんぼりなさるでしょうから」
「そうだね」
使い魔たちは小さく笑い合う。
「それよりアリア。ミユの傍についてやっててくれ。また影がきたら太刀打ち出来ねーからな」
「はい。任せておいて下さい」
アリアはガッツポーズをし、そそくさと立ち上がる。
「サラ、ケーキは頼んだからね」
託されたサラは無言で頷いた。
どうか、今日はこれ以上、何も起きないでくれ。祈らずにはいられなかった。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する