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第8章 過去へ繋がる森 / 第122話
必要以上に考えてしまっているのは分かっている。その思考を止められないのだ。「うーん」と唸り声を上げ、思考を別の方向へと持っていこうとするが、その方向性が分からない。口を尖らせてみても同じだ。
フレアだって恐怖を抱えている筈なのに、気丈に笑う。
「とりあえず、座ろ! クッションもない、冷たい床だけど」
拒否する理由もないので、頷き、そのままアレクの隣に腰を下ろした。良い会話が思い浮かばない。会話よりもミユを気にしてしまう。今頃、塔の主に会っているのだろうか。影を倒す最終手段である羽根を与えられているのだろうか。過去を見せられているのだろうか。無事に魔法を得ることは出来るだろうか。無事に戻ってきてくれるだろうか。心配は尽きない。
「フレア、大丈夫だ。百年前みたいなことにはならねぇよ」
「うん」
頷くフレアの頭をアレクがクシャクシャと撫で回す。フレアは嫌がる素振りを見せず、ただ撫でられている。考え過ぎなのはフレアも同じではないか。思わず溜め息が漏れてしまう。
それを合図に、アレクの狙いは俺に変わったようだ。頭を撫で回される感触が心地悪い。
「何するのさ」
「オマエら、良い加減、前を向け。呪いなんかない未来を見ろ」
アレクの腕を掴み、頭を捻る。呪いのない未来――。
ミユとフレアが仲直りを果たし、昼下がりには四人で紅茶でも嗜んで会話に花を咲かせる。影の脅威も退け、笑い合う。そんな未来が来るのだとしたら。泣きそうな程に、平和な時間だろう。
いや、先行し過ぎただろうか。まずは、その影の脅威を退けるのが先だ。どちらにせよ、影が未来にちらついたままでは駄目だ。必ず、今度こそ誰も欠けることはなく、幸せな未来をもぎ取ってみせる。
アレクから手を放し、自分の柔らかな金の髪を整えた。
「ミユが魔法を使えるようになったら、魔法の特訓だな。もし、羽根が使えなくなっちまったら、影に対抗出来る手段がなくなっちまうからな」
「うん」
攻撃のためだけに魔法を使うことは、羽根の攻撃を除いては俺たちですら経験がない。何か攻撃魔法を編み出す方法が見つかれば幸いだ。
アレクに頷いてみせると、意地悪そうな笑みが返ってきた。
そういえば。ふと、今日の出来事が蘇る。悔いが残る結果に気がついた。
「俺、今日ミユと話してない」
「あ?」
「一言も、話しかけられてない」
最悪だ。今日こそは挨拶以外にも話をしよう。そう意気込んでいたのに。大きな溜め息を吐き、肩を落とす。
「それくらい何だ? オレなんか、フレアの覚醒前は……は?」
アレクの目線が魔法陣の方へと行く。まだ、ミユがここから離れてから、それ程経ってはいない。それなのに。この強い緑色の光は、ミユが帰ってきた証だ。
その名を呼ぶよりも早く、足が動いていた。光の消えた魔法陣に辿り着くと、中央にはやはりミユの姿があった。その目尻には涙が溜まっている。
「ミユ、ごめん」
辛い思いをさせているのは俺のせいだ。
冷たい床に寝かせておくのは忍びなく、その身体を抱き寄せた。温かな体温が俺の心を浮き足立たせる。
「帰ろっか」
見えている筈もないのに、ミユに微笑みかけてみせた。
「クラウ、帰り道は出来てるぞ!」
「ありがとう」
端的に会話を終わらせ、早々に地の塔から退場した。
* * *
後はミユの目覚めを待つだけだ。もう、俺たちに出来ることは何もない。カイルとアリアに見張りを任せ、眠れもしないのにベッドへと寝ころんだ。
全てを思い出したミユは、何を思うのだろう。呪いを解けなかった俺たちを恨むのか、はたまた自分の過去を憂うのか。
瞼を閉じ、自分の時はどうだったのかと思い出す。
俺は絶望した。こんなにも自分に力がないのかと。運命を変えることは叶わないのかと。もうカノンには逢えないとも覚悟した。俺は幸せ者だ。諦めていた想い人にも巡り合えた。となれば、彼女を守り切るのみだ。
「リエル。ミユは……大丈夫だよね?」
“うん。あの子はまだ影とは接触してない。あの子が一人きりにならないように見張っていれば、勝機はある”
リエルの主張には難がある。まるでミユにストーカーでもするかのような言い草だ。そんなことをすれば好意は裏返され、敵対相手となってしまう。
「嫌われるようなことはしたくないけど……」
“なにも、一人でやれなんて言ってないよ。三人で協力すれば良い”
「フレアを頼れると思う?」
“それは……”
リエルは言葉を濁し、喋らなくなってしまった。
カノンはアイリスに殺されたと勘違いをしている。それはミユも変わらないのだろう。ミユがフレアを頼るなど、ましてや信用するなど短時間では実現不可能だ。それどころか、今生で仲直りできるかも怪しい。
とにかく、アレクと協力して、また影がミユに呪いをかけようとするのなら阻むだけだ。いや、呪いをかける前にこちらから仕掛け、倒してやる。カノンの復讐心ですらも沸き起こってくる。
駄目だ、このままでは徹夜してしまう。瞼を閉じたままで、思考を追い払い、闇の中へと身を置いてみる。眠気もないので、すぐに眠れる訳がなかった。眠っているのか眠っていないのか分からない微睡みの中で、何度もミユの笑顔を思い浮かべた。
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