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第7章 輝く氷雪 / 第115話
見慣れない氷の世界へとやってきた。寒さは全く感じない。雪深い森林に囲まれ、湖が凛とした佇まいで居座っている。その湖には中の島があり、天にも届きそうな逆さ氷柱がそびえている。あの逆さ氷柱が水の塔だ。
数歩先にはアレクとミユの姿がある。二人はこちらに背を向けているので、表情は読み取れない。
「行くぞ」
アレクは端的に言い放つ。それに不満が爆発したのだろう。
「ちょっとアレク!」
隣にいたフレアが声を荒げ、走り出そうとする。
「フレア、今は止めよう」
ここで喧嘩をしても、良いことは何も生まれない。無駄な軋轢を生じさせるだけだ。フレアに首を横に振ってみせた。
フレアは唇を噛む。
そうしている間にも、アレクは歩を進めてしまっていた。ミユの気持ちを少しは考慮してもらいたい。
当のミユは膨れており、アレクを睨んでいるようでもある。
「私、行く。意地でも過去の出来事見てやるんだから」
「ミユ、無理してない?」
「頭痛は嫌だけど……無理はしてないよ」
それなら良いのだが。カノンの性格を引き継いでいるのなら、強情な所が彼女の欠点だ。
ミユは小さく頷くので、肩を竦めるしかなかった。
「後でアレクのこと、叱っておくね」
フレアはしかめっ面をミユへと向ける。
「アレクは怒っても効かないよ」
ミユは再びアレクへと視線を向けた。これには同感だ。思わずフレアと一緒に笑ってしまった。
「俺たちはミユのタイミングに合わせるよ」
「じゃあ、行こう~」
ミユは俺たちの返事も聞かず、目に力を込めて前進を始めた。一陣の風が吹き、俺たちのマントを、髪を靡かせる。
ミユの赴くままに歩を進め、橋を渡り、塔の入り口を潜る。そこはこれまでと同様に異質な空間で、何とも言えない不思議な空気感が漂っていた。床には異空間へと繋がる魔法陣が描かれている。
“話は他の者から聞いている。その魔法陣を潜りなさい”
どうやら、アレクが塔の住人と話をつけていたようだ。アレクはこちらを見遣ると、床へと視線を落とした。
ミユは微動だにしない。
“早くしなさい”
「分かってるよ……」
ようやくミユは返事をすると、首を何度か横に振り、深呼吸をする。やはり、もう少し休んだ方が良いのでは。そう思った時には、ミユは魔法陣へと足を踏み入れていた。強い青色の光が放たれて、彼女の姿とともに消えた。
「あのさ。アレク、他にやりようがあるじゃん?」
一言文句を言ってやらないと気が済まない。アレクに向けて、眉をひそめてみる。
「いや、オレの気持ちがついてかなくてな。悪ぃとは思ってんだ」
どういう風に悪いと思っているのだろう。アレクの言葉が足りず、唸り声を上げる。
「とりあえず、クラウは羽根をもらってきて。あたしがしっかりアレクに説教しておくから」
「うーん……」
多分、フレアの説教は恐ろしいに違いない。任せても大丈夫だろう。
頷くと、小さく口を開く。
「任せた」
俺はこれからやらなければいけないことがある。アレクとフレアに背を向け、魔法陣へと歩み寄る。そのモザイクに足が触れると、眩い光と浮遊感に包み込まれた。
そうして辿り着いた場所は、二年ほど前にも見た、あのネモフィラ畑だった。大地の青と空の青が地平線で絶妙に混ざり合っている。
「来たな」
若干威圧的な男性の声が聞こえた。しかし、周りには人の姿は一切ない。
「姿だけでも見せたら?」
「それは出来ない。お前たちを驚かせてしまうからな」
「うーん……」
驚いたところで、何かが起きるという訳でもないと思うのだが。唸り声を上げてみても、声の主の反応はない。こうも無反応だと、調子が狂ってしまう。
「とにかく、俺は羽根をもらいに来ただけだから」
「分かった。授けよう」
端的な声が聞こえると、天からふわふわと青色の羽根が舞い降りてきた。それは俺の眼前で止まると、閃光を放つ。悲鳴を上げる間もなく光は止み、羽根もろともどこかへと消えていった。
「これで影は倒せる筈だ。時が来たら、百年前と同じように強く念じなさい」
「分かった」
これでここにいる理由も無くなった。すぐにアレクとフレアが待つ場所へ戻ろう。
「ありがとう」
礼を言わないのは違うな、と思い、口から零れていた。転移をし、あの独特な塔の中へと舞い戻った。
「だから、ミユの気持ちも考えてあげて。一方的に自分のためだとか言われても、意味分からないでしょ?」
「まあ、そーだな。悪かった」
どうやら、丁度良く説教が終わったらしい。アレクはフレアの頭をクシャクシャと撫で回し、優しく微笑んでいる。フレアは嫌がる素振りを見せてはいるものの、顔が赤い。俺が立ち入るのは間違いではないかと思う程の仲の良さである。
「あっ、クラウ、おかえり」
「ただいま」
フレアは紅潮したままの顔を俺に向ける。笑顔を返したつもりではあるが、苦笑いになっていないことを願う。
そのままスタスタとアレクの隣に移動し、二人と同じように腰を下ろす。
そこで会話が止まってしまった。俺が帰ってきたから会話が止まった訳ではないのは分かっている。しかし、流石に気まずい。
話題を探していると、今朝のリエルとの会話が思い起こされた。
「あのさ。二人は、百年前に塔を周った時のことを覚えてる?」
「あ? 急にどうした?」
「いや、単純に気になっただけ。百年前に、それよりも昔の過去を見たことなんてあったかなって」
アレクとフレアは顔を見合わせ、小首を傾げる。
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