読み込み中...
読み込み中...
第7章 輝く氷雪 / 第116話
「そー言えば、そんな記憶はないな」
「あたしも」
二人は揃って首を横に振る。どうやら、リエルの記憶力の無さが原因ではないようだ。
では、何故、その部分の記憶がすっぽり抜け落ちているのだろう。いや、そもそも過去を見た事実が存在するのかすら怪しい。
唸り声を上げていると、アレクが笑い声を上げた。
「そんなに思い詰めることでもないだろ。過去は過去、今は今、だからな」
「うーん、そうなんだけどさ」
気にしていても仕方がないのは事実だ。釈然とはしないものの、頭を軽く振り、気持ちを切り替える。他に話題はあっただろうか。声は上げず、頭を働かせてみる。
「ねえ、アレク」
「どうした?」
次に話し出したのはフレアだった。どことなく思い詰めた様子でアレクを見る。
「あたし、カノンの身に何が起きたのか、アリアに聞いてみようと思うの」
「今更か?」
「今更なんかじゃない。 ミユが過去を思い出したら……きっとあたしのことを嫌うと思う。その理由をはっきりさせたいの」
今度はアレクが唸り声を上げる。
フレアの案は良いと思う。想定出来る範囲内にはなるが、ミユを傷つけないように、危険に晒さないように、出来る限りの対策はしておきたい。そのために、過去を知ることは無駄ではない筈だ。
「俺は賛成だよ」
フレアへ頷いてみせた。アレクは前方を見て目を細める。
「ま、反対するようなことでもないからな。知ってて損はないだろ」
「問題は、アリアが話してくれるか、だよ」
カノンが殺されてから、アリアは塞ぎ込むようになっていた。必要以上に俺たちと接触しようともしなかった。エメラルドが魔導師不在のせいで天候不順になり、混乱に陥っていたため、でもあるだろうが。
話を聞ける状態に戻っていれば良いのだが。小さな溜め息を吐く。
アレクはにかっと笑い、陰鬱な空気を吹き飛ばす。
「話してくれねーんなら、その時にまた考えよーぜ」
そうする以外にはないのだろう。フレアも微笑み、頷いた時だった。魔法陣が強い青色の光を放ったのだ。
「ミユ!」
そこにいる筈の少女の名を呼び、立ち上がっていた。駆け寄ると、ミユは前回同様に穏やかな表情で眠っているだけかのように思われる。
いつまでもこんな床に寝かせていては、身体が冷えてしまう。そっと抱き寄せ、腕に力を込める。
「クラウ、いつでも帰れるぞ」
アレクの声に振り向いてみれば、既にダイヤ行きであろう転移の魔法陣が出来上がっていた。
「ありがとう」
端的に言うと、その魔法陣の方へと移動し、転移時特有の浮遊感に身を委ねた。
* * *
塔から帰館し、ミユの様子を見る。彼女は一度目を覚ましたものの、あまりにも頭痛が酷い為、鎮痛剤と睡眠薬を飲ませて寝かしつけた。昼があっという間に終わり、夜が訪れ、虫が鳴き始めた。流石に俺たち魔導師だけでは警備がままならないため、使い魔を呼ぶことにした。問題は、その使い魔の中で誰を呼ぶか、ということである。
四人まとめて呼んだ方が手っ取り早いことは分かっている。しかし、そうすると世界情勢の監視を任せられる使い魔がいなくなってしまうのだ。
ミユの部屋で、ベッドの傍で三人揃って椅子に座り、会議を始めた。
「アリアは決まりだな」
アレクは納得したように小さく断言する。
「あと、もう一人呼ぼう? アリアだけじゃ大変だよ。話だって聞きたいし」
「じゃあ、カイルを連れてくるよ。ロイとサラはスティアに残そう」
俺の提案に、異を唱える者はいない。アレクとフレアは頷き、立ち上がる俺を見遣る。
「ちょっと行ってくる」
「あぁ、頼んだ」
短いやり取りも終了し、早速ワープを試みた。
浮遊感が収まり瞼を開けると、緑の家具が青の家具へと置き換わる。窓の外も長閑な草原ではなく、凍てつくような雪景色へと変わった。
俺の気配を察知したのか、数分も置かずに慌ただしい足音が聞こえ始めた。段々と近づいてきて、ドアを思い切り開け放つ。
「クラウ様、おかえりなさいませ!」
息も絶え絶えに、カイルは膝に両手をつく。そんなに慌てなくても良いのにと思うのは俺だけではない筈だ。
「カイル。アリアと一緒に、ダイヤに来て欲しい。俺たちだけじゃ、警備が難しくてさ」
「そういうことなら、勿論です」
カイルは肩で息をしながらも、なんとか上体を起こした。
「アリアには、まだ話を通していませんよね? 私がエメラルドに行ってきます」
「うん。お願いするよ」
返事を聞くや否や、カイルはイヌへと姿を変える。その姿を見たのも一瞬で、光に包まれて掻き消えてしまった。
カイルとアリアが到着する前に、ダイヤに戻っておきたい。サファイアを去ることに何の抵抗感もなく、ミユの部屋をイメージした。
アレクとフレアも、そうするのが当然だとでも言うように押し黙ったままだった。俺が声をかけるまで、帰館に気づいていないようだった。
「ただいま」
部屋の中央で、背を向けるアレクとフレアに声を出す。二人は振り返ると、たちまちのうちに微笑んでみせた。
「おかえりなさい」
「オッケーは出たか?」
「うん。勿論だってさ。すぐにこっちに来ると思う」
まさしく、すぐにだった。俺も椅子へ向かおうとしたその時、カイルとアリアも姿を現したのだ。二人は動物の姿から人の姿へ変化すると、ぺこりとお辞儀をする。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する