読み込み中...
読み込み中...
第13章 成り上がりの次期公爵夫人 / 第316話
そこへヒルダが駆け寄ってきてくれた。その隣にはマーガレットの姿もある。
「ミエラ、元気してた?」
「はい、ルーゼンベルクがいい人たちばかりなので」
「もう、そんなにかしこまらないでよ」
何故かヒルダは口を尖らせる。私はただ挨拶を返しただけなのに。怒られる理由が分からず、首を傾げてみる。
すると、マーガレットはあからさまに顔をしかめた。
「えっ、もしかしてミエラも天然なの……? もう嫌になっちゃう……」
「えっ?」
「天然は自覚がないから……」
マーガレットは溜め息を吐き、肩を竦める。益々、わけが分からない。
頭の中が疑問符だらけになっているところで、リリーは遠くを見るようにして瞳を輝かせる。
「それにしても、婚約発表の時のミエラ、綺麗だったなぁ~」
その表情までもがとろけてしまいそうだ。ヒルダは「ふふっ」と笑う。
「まだまだこれからだよ。結婚式が残ってるもん」
「そうだね~。二人とも綺麗なんだろうな~」
クラウはともかく、私のハードルを上げないで欲しい。思わず唸り声を上げると、ヒルダは豪快に笑った。
「ミエラ、自信持ちなさい! 今のままでも、十分、可愛いんだから」
「そんなことを言われても……」
今すぐに自信を持てるはずもない。またしても「う~ん……」と唸る私に、今度はマーガレットが口を開いた。
「容姿は分かんないけど、性格は確実に私よりミエラの方が可愛いよね」
「そうそう。要するに、女は中身だよ」
「ヒルダ、遠回しに私の性格が可愛くないって言ってるよね」
「言い出したのはマーガレットじゃん」
会話の中身だけを聞けば喧嘩しているようにも聞こえるだろう。笑いを交えながら話しているので、冗談交じりなのだ。
「こんな純粋なご令嬢が、お姉様の他にいるとは思わなかった」
「私もだよ。ミエラは本当にいい子なんだから」
ヒルダはにっこりと笑って私を見る。
「ミエラ、ルーゼンベルクに来てくれてありがとね」
ヒルダが私のことをこんなふうに思ってくれていただなんて。照れ笑いをすると、リリーが私の手をぎゅっと握ってくれた。
「私もルーゼンベルクでよかったと思ってます。ありがとうございます」
空気がふんわりと柔らかくなる。そこへオレンジケーキが運ばれてきたので、ヒルダとマーガレットは撤退してしまった。ちょっとだけ緊張感が戻ってくる。
「ミエラ、あのね?」
リリーは私の顔を見詰めながら、ほんのりと頬を赤く染めた。
「このオレンジケーキ、私が焼いたの」
「えっ?」
リリーは次期公爵夫人で、ちょっぴりドジで、可愛らしいお姉さんだと思っていた。その彼女がケーキを焼けるなんて。しかも、令嬢たちに堂々と振る舞えるなんて。私からしてみると感動を覚えてしまう。
リリーに何も言えない代わりに、ケーキを一口いただいてみる。甘さが抑えられ、さっぱりとしたホイップクリームだ。オレンジに非常に合っている。公爵家のシェフが焼いたと言っても納得できる味だ。
「リリー、すごい。美味しい」
「よかった~」
微笑むリリーに上手く反応ができず、一口、もう一口とフォークは進んでいく。紅茶も頂きながら、あっという間に完食してしまった。
「美味しかったぁ」
「ありがとう~」
できることなら、もう一カットいただきたいくらいだ。顔を綻ばせていると、唐突に声を掛けられた。
「ミエラ様! あの……」
振り向いてみると、隣に座っていた茶髪の令嬢と目が合った。
「私たちとお友達になって!」
そのグレーの瞳はまっすぐに私を見ている。あまりの気迫に、目を瞬かせてしまった。
「私はリネットで、隣の子はアンジェラ」
「よろしくお願いします」
茶髪の令嬢――リネットが紹介を終えると、黒髪の令嬢――アンジェラも丁寧にお辞儀をする。つられて私も頭を下げてしまった。
よく見てみると、婚約発表の時に質問をしてくれた令嬢だ。
「婚約発表の時はありがとう。名前をちゃんと覚えてなくてごめんね」
「ううん、そんなことはいいの。それより……」
アンジェラは一度言い淀んだものの、柔らかな瞳を私に向ける。
「ミエラって呼んでいい?」
「うん。勿論」
なんだ、そんなことか。笑顔で返事をすると、リネットとアンジェラの顔にも笑みが溢れる。
「よかった……! 友達が増えたよ! しかも異国出身の、元魔導師様の!」
「勇気を出して声掛けてよかったねー!」
リネットとアンジェラは手を取り合い、喜びを分かち合う。私はというと、『友達』という言葉に心臓がとくんと高鳴った。
「元魔導師だから、大袈裟だよ~」
本当は、普通の人として見て欲しかった。それなのに、リネットとアンジェラは両手をブンブンと振る。
「だって、立場は女王様と同じなんだよ? 魔導師様のままだったら絶対に近付けてなかったもの」
「それはそうだけど……」
そう言われると返答に困ってしまう。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する