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第13章 成り上がりの次期公爵夫人 / 第315話
婚約発表とスカイブ湖観光の疲れが響いてしまい、翌日は私もクラウもダウンしてしまった。こうなることを見越していたのか、レオニスとキャサリンには何も言われなかった。それが心地いいと感じてしまうのは、ルーゼンベルクに慣れた証拠なのだろう。
ベッドの中でうとうとしている間に、夢を見る。
ここは貴族の庭、だろうか。白いガーデンチェアとテーブルが置かれ、ラナンキュラスが咲いている。それらを一瞥した後、寝転がったままで空を仰いだ。
「キャロリーン」
幼い男の子の声が聞こえた。次に、視界に金の瞳が映る。
「遊びに行こうよ」
「どこに~?」
「公園!」
言うと、その男の子は私の手を引っ張り、立ち上がらせた。
「ブランコで、どっちが高くまで漕げるか競走しよう!」
「うん~!」
背は私の方が少しだけ高いだろうか。にこっと笑う男の子に、胸がどうしようもなく高鳴ってしまう。
「公園まで追いかけっこね!」
「え~っ?」
追いかけっこをしても、いつも私が負けてしまうのに。頬を膨らませてはみるけれど、最終的には私も笑ってしまうのだ。
「ダニエル、待って~!」
一足早く駆け出したダニエルを、小さな足で追いかけるのだった。
ゆっくりと瞼を開けて思う。
これは私の記憶なんかではない。これは――カノンの記憶、なのだろうか。だとしたら、カノンの初恋はリエルではなかったことになってしまう。
「え~……?」
カノンに幻想を抱いていたわけではない。でも、これはこれで――ショックだ。
頭の中は完全にカノンに支配されてしまった。口を尖らせて溜め息を吐き、唸り声を上げる。
この事実をクラウに話すべきだろうか。隠したとして、顔に出さない自信はない。それなら、言うしかないだろう。
翌日の朝食後、クラウと廊下を歩きながら切り出してみることにした。
「ねえ、リエルの初恋ってカノン?」
「えっ? 急にどうしたの?」
「ただ、気になったの」
私から話し出しておきながら、尻込みしてしまう。クラウの顔を見上げてみると、小さく唸り声を上げられてしまった。
「そうだって信じたいけど……覚えてないから。そういうカノンは?」
やはり、そう来るか。視線を落とし、小さく口を開く。
「……リエルじゃなかった」
「えっ……」
そこで気まずい空気になるかと思いきや、クラウは話を続ける。
「……いや、カノンのことでミユを責めたりはできないよ。今、俺のことを見ててくれるならそれで満足だから」
ここで私へと話を切り替えられるのは凄いと思う。話術ではなく、精神的に、という意味だ。私の頬も熱くなってしまう。
「ミユは可愛い」
私の反応を見て面白がっているのか、クラウは私の顔を見てにこりと笑う。
「リボン、気に入ってくれたんだね。よかった」
納得はしていない。それでも、クラウが似合うと言ってくれたから、あの日からハーフアップを続けている。結び目にはスカイブ湖で買ったリボンも結んでいる。
肩を抱き寄せられ、余計に鼓動は速くなっていく。正直に言うと、カノンのことを話してよかったのかは分からない。ただ、何でも言い合える仲になれたのだな、と胸は綻んでいくのだ。
何度か夜を通り越し、お茶会の日はやってきた。婚約発表が社交界デビューだったなら、今日は社交界への第一歩を踏み出す日、なのだろう。
お土産を大きな紙袋に入れ、アイリンドル別邸のドアノッカーを叩く。そして、すぐに扉は開かれた。
「ミエラ~!」
「リリー!」
挨拶よりも早く、ハグを求め合う。リリーはすぐに私のリボンに気がついたようで、目を輝かせた。
「スカイブ湖に行ってきたんだね~。綺麗だったでしょ?」
「うん」
綺麗で、幻想的で、ちょっぴり嫌な思いをしてしまった。それは胸に秘めたまま、リリーに小さく頷いてみせる。
「皆も来てるよ~。ヒルダもいるよ~」
「お邪魔します」
リリーがいるから、きっとこのお茶会で嫌な思いはしないだろう。こんなにも心優しい人の周りには、同じ心を持った人が集まると思うのだ。
会場の扉を開けると、令嬢たちの視線を一身に受けてしまった。
「ミエラが来たよ~」
リリーはテーブルのど真ん中に座り、その隣に私の席を用意していたようだ。ヒルダとは席が離れたので、挨拶らしきものはきちんとできていない。
私が席に辿り着く前に、令嬢たちはわっと駆け寄ってくる。少しだけ勢いに呑まれてしまった。
「その大きな荷物は何?」
「もしかして手土産?」
次から次に質問されそうなので、言葉を重ねられる前に大きく頷いてみせた。
「婚約記念に、クローディオとスカイブ湖に行ってきたの。それで――」
「えーっ!? クローディオ様と旅行!?」
「いいなぁ」
一斉に羨望の眼差しが私に向く。クラウの名前を出したのがいけなかっただろうか。
「皆にお土産です」
わあわあと歓声を上げる令嬢たちに、声を上げてみる。そして、一つ一つ箱を取り出し、近くにいた令嬢から次々に渡していった。
お土産の開封会と化したお茶会の会場は、盛大に熱気を帯びる。
「えっ! このグラス可愛いー! ミエラ様、センスいいね!」
「えっ? 私のグラス黄色だよ! ピンクのが可愛いー!」
「じゃあ、交換する?」
「いいの? やった!」
その光景は、私がお土産を選ぶ時に思い描いていたものと同じだった。喜んでもらえてよかった。ほっと胸を撫で下ろし、自分の席に座り直す。
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