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第18章 崩壊への道(前編) / 第156話
混乱の最中で、口を開いたのはアイリスだった。
「あたしたちも救助に行こう?」
振り向いてみると、赤い瞳は揺るぎなくヴィクトを貫いている。しかし、彼女が思うような答えは返ってこなかった。
「いや、災害が全部終わるまで待つんだ。オレらが死んじまったら、もう取り返しがつかなくなる」
「でも、じっとなんてしてられないよ」
「ここで出来ることを探そう。災害の原因は何だったのか、何か探れるかもしれない」
俺たちに見当がつかなくても、使い魔たちなら何かを掴んでいるかもしれない。なにせ、世界に異変が起きる時には、使い魔が知らせてくれるという伝承が残っているのだ。期待せずにはいられない。
左隣りに座るカイルを見てみると、口を結んで首を横に振るのだった。意思を汲むかのように、アリアが言葉を繋げる。
「私は何も分からなかったんです。本来なら、何か起こるのであれば察知出来た筈なのですが……」
カノンの隣に座るアリアは声を詰まらせた。涙まで浮かべている。
同意を示すように、カイルとロイも口々に話す。
「私も、何も……。すみません」
「私もです。なんて申し上げたら良いのか……」
声を震わせると、悔しそうにテーブルの上で拳を握る。
「使い魔を責めるヤツはいねーさ。オレらも、何も出来なかったんだ。同罪だ」
ヴィクトが吐き捨てるように言葉を投げると、サラは小さく首を振った。
「いつまで災害が続くか分かるか?」
「それも……何とも言えなくて……」
「どうなってやがる」
ヴィクトは短い髪を片手でくしゃりと握る。
「これじゃあ、俺たちも身動きが取れないよ。良いアイデアないかな」
せめて、天変地異の原因が何なのかさえ分かれば良いのに。収拾がつくのかも判断出来ない状況は脱しないと。焦りばかりが募り、責任が肩に重くのしかかっていく。
窓の外は、もう日が暮れそうになっていた。ピンクと紫が混じった空は世界の異変など露知らず。草原を風が吹き抜け、海のような波を立たせる。どうか、現状を打破させてくれ。外の景色に願ってみるが、返答は来ない。
ふと、隣に座るカノンの方から息を呑む音が聞こえた。何かあったのだろうか。小首を傾げ、声を掛けてみる。
「カノン?」
「何、あれ……。人……?」
その指先は部屋の隅を差している。
俺たち以外の『人』がこの場に居る筈がない。ダイヤには結界が張られているし、完全なる孤島なのだ。
カノンの見間違えだろうと、そちらを見てみる。すると、確かに、人らしきものが佇んでいたのだ。黒いフードに、靄のような真っ黒な顔、吊り上がった赤い瞳――それを人間と呼べるのかどうかは、今は置いておこう。
あまりの不気味さに息を呑んだ。
「『あれ』とは失礼だな」
地響きのような低い唸り声が部屋を震撼する。何となく、本来は口のある場所が動いたような気がした。
「オマエは何者だ?」
「世界を破壊する者、とでも名乗っておこう」
つまりは、この天変地異を起こした者、ということだろうか。
「どうやってここに?」
「魔法で移動してきただけだが」
魔法を使える者は、魔導師、使い魔、あとは各国の王しか存在しない。こいつはその全てから除外される。
あるべき筈のない者が存在している、ということだろうか。
「『魔法』って言ったか?」
「魔法を使えるのは俺たちだけじゃ――」
否定をする意味も込めて、そいつの額を見た。見てしまった。黒い宝石のようなものが額の中央で小さく光を反射させている。
まさか、こいつは魔導師――。
「気付いたか。その答えは『イエス』だ」
「お前がこの災害を?」
「そうだ。いずれは、この世界全てを呑み込むだろう。質問はもう良いだろう?」
その『魔導師』は嬉々として目を細め、マントを翻す。空気を振動させながら、その姿は霧散する。
この状況はまずい。奴が魔法で天変地異を引き起こしたのだとしたら、俺たちでさえ太刀打ち出来るのか分からない。そんなにも強大な魔法を使ったことがないのだ。
ヴィクトはテーブルの上に両肘を置いた。そこへ額を乗せ、絶望を滲ませる。
「脅しか? ただオレらを挑発に来たのか?」
「それもあると思う」
しかし、それだけではない。
「他にもあるのか?」
「ただ、自分の存在を誇示したかった。言い換えれば、自己顕示欲の塊。わざわざ俺たちの前に現れるなんてさ、敵に存在を知らせるようなものだし。ホントに世界を破壊したいだけなら、知られないように裏からやるよ。それに……」
「なんだ?」
「あいつは俺たちと同じだよ。『魔法』って言ってたじゃん? おでこの辺りが一瞬光ったんだ」
「はっ?」
ヴィクトだけではなく、カノンとアイリスも表情を強張らせて固まってしまった。俺だけが事実に気づいていたらしい。今更になって証拠も提示は出来ない。上手く説明が出来ず、俯いてしまった。
一方で、俺の一言に確信を得たのか、使い魔たちは力強い口調で情報共有をしてくれるのだった。
「あれは魔導師です。奴の微かな気配が、そう言っています」
「私も、確実にそう言えます」
「額の石も確認しました。黒い石――皆様が、火、水、風、地なら、奴は闇、でしょうか。気配を探っていると、私の心も冷え切ってしまいそうな程です」
アリアは肩を抱き、身震いをする。無口なサラだけは唇を噛むだけに留まった。
「それで、今、奴はどこに?」
「エメラルドの北部です」
カイルの言葉を肯定するように、他の使い魔三人も深く頷いてみせる。
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