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第18章 崩壊への道(前編) / 第157話
どこにいるかが分かったなら、あとは。
「じゃあ、奴を止める手立てはある?」
これさえ分かれば奴を止められる。それなのに、使い魔たちは顔を見合わせ、苦しそうに俯くばかりだった。
「この世界が破壊されていく様を、黙って見てろってことなのか?」
ヴィクトは頭を抱え、声にならない叫びを喉の奥で殺す。アイリスの瞳からも涙が零れ落ちてしまった。俺だって、肩が震えている。
『魔法』という力を持っているのに何も出来ないなんて、絶対に間違っている。オレたちがやらなければ、世界は壊されてしまうというのに。震える拳を握り締める。
絶望的な状況で、唯一声を上げたのはロイだった。
「あっ、あの方なら……」
もしや、何かを閃いたのだろうか。
「皆様に魔法を与えて下さったあの方なら、絶対に何か知っている筈です」
「『絶対に』って言い切れる理由は何だ?」
「それは……皆様には言えませんが……」
口ごもりながらも、ヴィクトからは目を逸らさない。確信に近い物言いに、期待を込めることにした。
「この際、藁にでも縋ろう。とにかく、今はあの塔に」
「私もそれが良いと思う」
カノンの賛同も得られ、二人で頷き合う。ヴィクトとアイリスもようやく決断したようだ。
「仕方ねぇ。アイリス、行ってみよーぜ」
「分かった」
ヴィクトは我先にと立ち上がり、たった一人で姿を消した。アイリスも涙を拭い、カノンを見る。それも一瞬のことで、ヴィクトと同様に光の中へと消えた。
カノンとアイリスは仲が良いとは言い難い。どちらかが悪い訳ではなく、完全なるすれ違いによるものだ。どうにか仲を取り持ちたいと思ったこともあったが、裏目に出てしまうばかりだった。俺とヴィクトのせいでカノンが「ヴィクトもリエルも振り回しっぱなしっていうのが気に入らないだけ」とアイリスに言われたのが起因となり、もう口は出さないと決めたのだ。
カノンもワープを果たし、残るは俺だけとなった。行くべき場所は水の塔だ。幻想的なあの光景を思い返し、瞼を閉じる。
浮遊感が去って目を開ければ、七年前に来た時と同じく、雪と氷の世界だった。寒さは全く感じない。どうやら、ここは災禍の影響を受けなかったらしい。雪を踏みしめ、天にも届きそうな逆さ氷柱の塔へ踏み込んだ。薄暗いそこにはモザイク模様の魔法陣が凛として輝いていた。
まるで、俺がここへ来るのを分かっていたかのようだ。
「頼むから、何か教えて」
呟きながら、足の裏で光を遮ると、魔法が発動した。
やって来たのはネモフィラが咲き誇る、真っ青な花畑だ。風が花弁を優しく撫で、爽やかな香りが鼻に抜ける。
しかし、塔の主は姿を現さない。
「急いでるんだ! 頼むから、奴を止める方法を教えて欲しい!」
晴天を目がけ、声を張り上げる。
「聞いてる!?」
「それなら、お前たちが倒せば良い」
「どうやって?」
「こうやってだ」
言われた瞬間、脳裏に映像が思い浮かぶ。赤、青、黄、緑――四色の羽根は重なり合うと、白色の羽根に変化した。それは光の矢となって靄の身体を突き抜ける。
「俺たちに、これが……?」
果たして出来るのだろうか。倒せるという確信はあるのに、出来るという自信がない。だって、たった四枚の羽根なのだ。そんな力が秘められているとは、想像に難しい。
「出来るから教えている。お前には青の羽根を授けるから、その時が来たら、『影』を倒したいと念じなさい」
「『影』?」
「人の形をした、世界の闇の怨霊だ」
あのフードを被った『奴』とことを言っているのだろう。何となく理解し、何度か頷いてみせる。
その時、頭上に青い光を感じ、見上げてみた。空で何かが光っている。それはふわりふわりと舞いながら落ちてきているようだ。
正体は青い羽根だった。手のひら大のそれは、顔の前で停止する。そして、一瞬にして青い閃光が放たれた。驚いて目を瞑っているうちに、羽根は姿を消してしまった。どことなく、頭の中が暖かく感じる。
「今の羽根は?」
「言っただろう。その時が来たら念じなさいと」
「じゃあ、もう……戦えるの?」
「その気になれば、影は倒せる」
やった。世界は破壊されずに済むということだろう。これまで感じたことのない程の喜びが込み上げてくる。
「ありがとう!」
礼だけを言うと、迷わず身を翻した。ダイヤの会議室を思い浮かべて、即座にワープする。
瞼を開けると、三人はもう戻ってきた後だった。俺が最後になってしまったらしい。明るい表情から察するに、俺と同じ物を皆も貰ってきたのだろう。
「倒し方を教えてもらってきた。皆は?」
「あぁ、勿論だ」
ヴィクトの力強い頷きに、涙が出そうになる。今泣いている場合ではない。奴を倒すという本番がまだ待っているのだから。
ヴィクトも釘を刺すように口を開いた。
「安心すんな。オレらの行動で、世界が変わっちまうんだ。エメラルドの北部、だったよな?」
「はい、そうです」
「アリア、魔法陣は出せるか?」
エメラルドの地を完全に熟知しているのはアリアだけだ。彼女は大きく頷き、杖を出す。そうして八個の魔法陣を描いている間に、ささっと一言だけヴィクトと取り交わす。
「良いか? すぐにでも攻撃出来るように、心の準備だけはしとけ」
「分かってる」
返事をした時には、アリアは魔法陣を描き終え、こちらに振り向いていた。迷っている時間はない。
「行くぞ!」
ヴィクトを先頭に、次々と魔法陣へと飛び込んだ。この先に奴がいると信じて。
しかし、その場所は草原が広がるばかりで、人影すらない。痕跡はあったのだ。少し奥へ行ったところに、草が枯れている。両手を広げた程の円状で、奴のマントの大きさと似通っていた。
「奴はどこに!?」
「嘘だ」
後方でカイルのか細い呟きが聞こえた。
「奴は今、サファイアにいます」
「クソォっ!」
ヴィクトの叫びに、心が震える。
しまった、奴も魔法を使えるのだ。ワープだって出来てもおかしくはない。悔しさが込み上げ、拳を握り締める。
このままでは影に追いつく術がない。胸に灯っていた光が潰えた瞬間だった。
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