読み込み中...
読み込み中...
第19章 崩壊への道(中編) / 第158話
俺たちは諦めなかった。たとえ何度ワープされようとも、追いつける時が来る筈だと信じて。サファイア、エメラルド、トパーズ、ガーネット――四大陸を駆け回る。津波が到来した地域では建物が波にさらわれ、生き残った人々が途方に暮れていた。それを横目に、影を探す。救助を申し入れたとして、泣きつかれるのは目に見えていた。だから、人目を避け、物の影に身を潜めた。
サファイアだけではない。エメラルドやトパーズでは建物が崩れ、木々がなぎ倒されていた。ガーネットでも、火山灰が堆積し、視界も悪い。更に熱波が吹き荒れる。
奴を追ってから三日経った日、ガーネットで探索を行おうとしていたところで、とうとう限界が来てしまった。
砂漠に火山灰が積もり、足は掬われる。焼けつくような暑さに、氷点下で生きてきた俺が耐えられる筈もない。咄嗟にハンカチで口を覆ったが、ふらつく頭を支えきれずに膝をついてしまった。
「リエル! カイル!」
「ごめん、先にダイヤに戻るよ」
息も絶え絶えに、ダイヤの会議室へとワープした。俺の隣には、カイルも到着する。これでは影を追うどころではない。別の方法を模索しなくては。
「リエル様、どうしましょう……」
カイルへの返答が思いつかない。噴き出す汗を拭いながら、荒い呼吸を繰り返す。そうしている間にも、他の仲間たちが戻ってきたようだ。
「大丈夫?」
「今回は流石にキツかった……」
被災地に赴くのは、体力を使うばかりではない。精神面も磨り減っていく。
誰も席には着こうとせずに、床に座り込んだままで八人全員が顔を合わせる。
「これからどーする? このままじゃマズいだろ」
一番に口を開いたのは、やはりヴィクトだった。
無闇に影を追ったのでは、いつまで経っても追いつけない。それどころか、俺たちが傷付いていくだけだ。それならば――。
「影を追うんじゃなくて、待ち構えるのは?」
「どーやってだ?」
「どこかに留まって、影がどう出るのかを見るのはどうかな」
それならば体力も消費しないし、必要以上に傷付いた世界を見なくても良い。
「それじゃー、時間を無駄にしちまうだろ」
ヴィクトは不満そうだが、影を追った方が時間の無駄だと思うのだ。
そこへ、意外な人物が口を開く。
「やってみよう?」
「いや、他の方法は――」
「無いよ」
アイリスがヴィクトの意見を否定するのは珍しい。
「自己顕示欲が強いなら、このままあたしたちを黙って殺すようなことはしない。ダイヤじゃないどこか……トパーズかエメラルドで待ち構えるのが良いと思う」
俺もアイリスに賛成だ。サファイアは寒すぎるし、ガーネットは暑すぎる。トパーズかエメラルドならば過ごしやすい気温だ。脱落者を出さずに済むだろう。
「影を待ってる間は、俺たちも体力を温存出来る。一石二鳥だよ」
「仕方ねぇ、やるだけやってみるか。竜巻が来るトパーズよりも、エメラルドの方が逃げ場はある。それでも駄目だったら、ワープでダイヤに逃げる。明日からだ。オマエら、文句はねーな?」
ヴィクトの問いに、七人で大きく頷いた。
* * *
終末の世界を見せられて、痛感した。俺たちはなんて無力なのだろうと。いつ俺たちが命を落としてもおかしくはない。
悩んだ末に、辿り着いた。想いも伝えずに死ぬ訳にはいかない。せめて『好き』の一言だけでもカノンに伝えておきたい。
いつか渡せる時が来たら。そう思っていたが、死が現実味を帯びる中で『いつか』なんてないのだと悟った。
皆が寝静まった夜更けにベッドから抜け出し、瞼を閉じる。目的を果たしたら、すぐに戻ってくるつもりだ。
たった一人でサファイアの自室へとワープし、引き出しにしまってあった結婚指輪を取り出す。その瞬間、殺気に満ちた気配を感じた気がした。
「えっ!?」
驚き、振り返ってみたが、誰もいない。ただの俺の勘違いだったのだろうか。いや、あれ程までに強烈な殺気は間違える訳がない。
もしや、影がまたダイヤに向かったのでは。嫌な予感がし、トンボ帰りをする。慌てて廊下へと飛び出し、耳を澄ませた。
誰も声を上げていない。ましてや、虫が鳴く音もしない。
怖くなってしまい、各々の部屋を開けて確認した。カノンはすぅすぅと寝息を立てているし、アイリスは人形のように安らかに眠っている。ヴィクトなんて、大の字でいびきをかいていた。
嵐の前の静けさ――決戦が近付いている。そう、予感させた。
* * *
エメラルドの地形に精通したアリアが導き出した場所は、開けた草原だった。前方には地震の影響か、茶色く濁ってしまった巨大な湖がある。湖畔には大木が何本も打ち上げられている。揺れに耐えきれずに倒れたのだろう。更に奥には山々がそびえており、近くではせせらぎも聞こえる。川があるのだろうか。
皆が湖の方を見渡す中で、アリアは声を張る。
「ここなら地震が来ても倒れる物はないですし、食料もあります。水が濁っているのは計算外でしたが……そこはリエル様とカイルに頼りましょう」
「アリア、ありがとな」
ヴィクトは珍しく穏やかに微笑んだ。カノンとアイリスの表情も落ち着いている。まるで、影との戦いが終わった後のような心境だ。
一方で、使い魔たちは警戒の手を緩めたりはしない。
「今、影はトパーズにいますね」
「エメラルドに来たのは間違いだったか?」
「いえ、きっとここに来る筈です」
ロイは確信に満ちた表情で、キッパリと言い切ってみせる。
「とにかく、魔導師の皆さんは、今のうちに休んで下さい。影は私たちが監視していますから」
奴の呼び名はすっかり『影』と定着していた。
ここは素直に、使い魔たちに甘えてしまおう。ヴィクト、そしてアイリスが湖へと背を向け、草原の中央へと向かう。俺とカノンもその後を追った。
ふと、空を見上げてみると、雲一つない澄んだ水色が広がっている。世界の異変など、どうでもいいと言っているかのようだった。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する