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第19章 崩壊への道(中編) / 第159話
ふと、傍らに咲いている白い花に目がいき、そっと撫でてみる。そうだ、プロポーズするならあの場所にしよう。どこにあるかも分からない、記憶の片隅にある場所――。
行ったことはないが、どんな場所かをイメージ出来るのだ。きっとワープも出来るだろう。
「ここにテント建てちゃいますね」
思考を遮るように、ロイが声を上げた。彼は胸ポケットから何かを取り出し、そっと地面へと置く。
「皆さん、少し離れて下さい」
言われた通りに後退ると、そこには緑のテントが現れた。魔法で縮めたテントを復元したのだろう。
「私とカイルは釣りに行ってきます。アリアとサラは?」
「食べられる野草を探してきます」
「では、魔導師の皆さんは、ばらけずにテントの近くで固まってて下さい」
ロイが的確に指示を出し、使い魔たちは二手に分かれていった。
残された俺たちは手持ち無沙汰でテントの前に座り込む。
「どーする?」
「昔話でもする?」
「どんなだ?」
「例えば、俺たちの過去、とか」
魔導師となった時点で、過去の身分は明かさないようにと決められている。政治的戦略なのか、理由は定かではない。しかし、世界が終わるかもしれない今、そんな理由は意味がないと思うのだ。
「魔導師になる前のか? んなの、考えなくても駄目だろ」
「世界が終わるかもしれないんだ。話すくらい、許されるよ」
「あたしは嫌。折角、柵から解放されたのに」
「じゃあ、アイリスは聞くだけで良いよ」
視線を落とすアイリスに、不満が漏れてしまった。
「やっぱ、やめよーぜ。こんな時にまで、空気悪くすることねぇだろ」
ヴィクトの反応に、カノンも不服そうに頬を膨らませる。可愛いな、とその手に触れようとしたが、その前に、ヴィクトに肘で小突かれたのだ。
「ちょっと肩慣らししねーか? いきなり戦いに巻き込まれたんじゃ、反撃出来るもんも出来ねぇしな。来い」
「ちょっ……ヴィクト!」
立ち上がるなり、ヴィクトは俺の腕を掴む。折角、カノンと話を出来るチャンスだったのに。引き摺られながら、その意地悪な笑顔を睨みつけた。
「ロイは散り散りになるなって言ってたじゃん!」
「ちょっとだけだ。構わねぇだろ」
「あぁ、もう」
こうなっては、俺の意見など通らないだろう。仕方なく、腰を上げてヴィクトの腕を振り払った。使い魔たちが向かった方とは正反対を進む。ある程度カノンやアイリスと距離を取ったところで、ヴィクトは足を止めた。
「オマエ、カノンに告ったのか?」
突然だった。
たった一言で頭が麻痺してしまい、きちんと働いてくれない。
「オレもまだなんだ。アイリスに何一つ伝えられてねぇ」
ヴィクトは突然、何を言い出すのだろう。
「おい、魔法対決してるって見せかけるんだ。アイツらに深掘りされたくないだろ」
「う、うん」
しどろもどろに返事をし、先に放たれた竜巻に大量の水をまとわせる。
「カノンは……俺のこと、どう思ってるんだろう」
「んなの知るか」
そんな言い方はないと思う。目を吊り上げると、ヴィクトは目を逸らすのだった。
「知らねぇからこそ、告るんだろ?」
「まあ……そうなんだけどさ」
ヴィクトが言っていることはもっともだ。怒りは一気に沈静化していく。
「オレにも告る勇気があれば良いんだけどな。あと、あれだ。雰囲気も大事だしな」
「俺は、世界が終わる前に告るよ」
「オレもだ」
決意にも似た意思表明に、自分でも驚くのだった。
* * *
突然の爆発音に目を覚ます。何が起きたのか何も分からない。
パンと魚という質素な夕食を摂り、全員が眠りに就いた筈だった。
残されたランタンの光に映るテントの光景は、信じ難いものだった。女性陣が誰一人としてここに残っていないのだ。
「何が起きた!?」
「分からない! 分からないけど……!」
影が関与しているに違いない。半狂乱になりながら、テントから飛び出した。
「カノン!」
「リエル、こっちだ!」
ヴィクトが指さしているのは、森が広がる方角だ。
「なんでこっちだと思うのさ!」
「風の匂いが違ぇ」
「風の匂い?」
「あぁ」
ヴィクトは風の魔導師だから、そういう能力も備わっているのだろうか。考えてみたところで結論は出ないので、一旦置いておこう。とにかく、カノンたちを探さなくては。
カイルとロイとも合流し、森を目指す。頼むから無事でいてくれ。不安に押し潰されそうになりながらも、ヴィクトの後をひた走る。
そうして見えてきたのは、アリアに揺さぶられるカノン――嫌だ。死なないでくれ。一気に血の気が引いていく。
「カノン!」
アイリスとサラの間をすり抜け、アリアをすれ違いざまに跳ね除けた。カノンは目を開けようとしない。動こうともしない。
怖くなって胸に耳を当ててみると、呼吸はしているようだ。
「影……!」
そこへカイルの驚愕の叫びが響く。
振り向いてみると、闇夜の中でも分かる赤い目、境界の分からない黒いマント――カノンを傷付けたのはこいつだ。絶対に許さない。
「お前、カノンに何をした!? どうしてここに!?」
「その問いに答える義理は無いな」
「答えろ!」
俺の恐怖と怒りを逆撫でするかのように、影は鼻で笑う。
その光景も、渦を巻くように歪んでいく。視界だけではなく、頭の中も。影の魔法だろうか。こんなところで倒れる訳にはいかないのに。
「影……!」
必死に手を伸ばしたが、届くことはなかった。無力にも、意識は闇の中へと引き摺り込まれてしまった。
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