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第8章 味方 / 第302話
二人の会話は長くは続かなかった。二人は頷き合うと、スチュアートをまっすぐに見る。
「そのアイデア、乗った」
スチュアートはレオニスに爽やかな笑顔を向ける。
「分かりました。お任せください」
「ミエラの身の安全がかかっている。失敗はないようにな」
「はい」
私にもようやく友達ができるかもしれない。味方ができるかもしれない。胸がふわりと温かくなり、そっと片手で押さえた。
クラウは私に優しい眼差しを向ける。
「リリーはおっとりしたいい子だよ。ミエラともすぐ仲良くなれるはずだよ」
「うん」
クラウは私の肩に腕を回す。その体温が酷く心地いい。
「本当に仲がいいんだね。クローディオのそんな表情、初めて見た。貴重だよ」
声に振り向いてみると、スチュアートは目を丸くしている。
そんなに珍しいのだろうか。私にとってはいつもの優しい表情だから、よく分からない。
クラウの顔を見上げてみると、スチュアートは「あはは」と笑う。
「なんだか安心した。ミエラになら、クローディオを任せられそうだ」
クラウの親戚からお墨付きをもらえたらしい。嬉しくて、声が漏れそうになる。
そこへレオニスが「よし!」と声を上げた。
「キャシー、ミエラ、そろそろ席を外してくれないか? 私たちは仕事の話をしなくては」
「分かりました。行きましょうか」
「はい」
どうか、リリーとの相性がいいものでありますように。祈りながら、クラウに手を振った。
* * *
クラウと二人でアイリンドル別邸へ招かれた日のこと、リリーとの初めての会話は声色も言葉も、とてつもなく優しかった。
「今まで心細かったでしょ? もう大丈夫だよ〜」
名乗り合う前に、リリーの方から握手を求められた。
まるで、私に何があったのか見通しているかのようだ。
「あの、私……」
「全部スチュアートに聞いてるから。大丈夫〜」
柔らかな金髪に、海のような青い瞳――ビスクドールのような愛らしい顔に、私の心は揺れる。
「リリー、屋敷に入れてあげよう」
「うん。ミエラ、おいで~」
私が手を取らなかったので、リリーはわざわざ回り込んで私の左手首を握る。右腕を怪我していることも知っているのだろうか。彼女はそのまま軽やかに走り出す。
リリーに連れてこられたのは、リビングではなかった。衣裳部屋だ。リリーは何着もあるドレスの中から深緑の大人っぽいドレスを選び抜く。
「これに着替えて~。いつまでもメイド服じゃ駄目だよ~?」
「えっ? 私はこのままでも――」
「駄目~」
リリーはベルでメイドを呼び寄せ、私の着替えを手伝わせる。纏ったドレスはベルベット素材でとても温かい。
着替え終えた私をつま先から頭頂部まで眺め、リリーは大きく頷いた。
「スチュアートとクローディオのところに戻ろっか~」
「はい……」
私が返事をすると、リリーは僅かに眉をひそめる。
「敬語はなしだよ~」
「う、うん……」
初対面で敬語を使うなと言われても困ってしまう。しどろもどろになりながら返事をすると、リリーは満足そうに微笑んだ。
リビングへの道もリリーは私の手首を掴んで疾走する。最近は運動をしていなかったせいか、息が切れてしまいそうだ。
心配になったのか、クラウとスチュアートの方からもこちらに歩みを進めてくれていた。
「そんなに走ったら危ないぞ」
「大丈夫~」
リリーが走るのはいつものことなのか、スチュアートの表情には少し余裕がある。
「リリーが大丈夫でも、ミエラが大丈夫じゃないかもしれないんだぞ?」
「あっ。ミエラ、ごめんね~」
私はまったく気にしていない。それどころか、私は嬉しくて仕方がないのだ。会った瞬間から私を受け入れてくれる人がいる。そう、元魔導師でも。
やはり、私は事件の余波をまだ引き摺っているらしい。
「ミエラ、怒ってる~……?」
リリーは揺れる瞳で私を見詰めていた。
「ううん、全然怒ってないよ」
「よかった~!」
曇った表情も一気に明るくなる。
クラウとスチュアートに促され、リビングへと入る。ルーゼンベルクの豪華さと変わらないくらい、この屋敷のリビングも沢山の調度品が置かれている。やはり別邸とは言えども、流石は公爵家だ。
スチュアートとリリー、私とクラウが対角になったソファーにそれぞれ腰掛ける。三人とも柔らかな笑みを称え、私を見詰める。恥ずかしいやら、嬉しいやらで気持ちがまとまらない。
その中でリリーが口を開いた。
「ねえ、ミエラ。私に質問ある〜?」
「えっ?」
「だって、私はスチュアートからほとんど聞いちゃったのに、私が何も教えないのは違うでしょ〜?」
言われてみると、確かにそうなのだ。でも、いざ聞くとなると、何から質問すればいいのか分からない。
「う〜ん」と唸り声を上げていると、クラウが助け舟を出してくれた。
「じゃあ、二人の馴れ初めは?」
「面白いものじゃないよ〜?」
「面白さは求めてないから」
二人のやり取りに、スチュアートが吹き出す。私も小さく笑ってしまった。
リリーはきょとんとした後、懐かしそうに目を細める。
「私の十八歳の……一昨年のバースデーパーティーにスチュアートが来てくれたのが最初だよ〜」
ということは、リリーは今二十歳、クラウと同い年だ。話し方のせいで私よりも年下に感じたから、少し意外だ。
とは言え、もう二人は結婚しているのだから不思議ではないだろう。
「俺はどこかの公爵家に婿入りするのが決まってたようなものだから、リリーと出逢えてよかったと思ってるよ。こんなに心が綺麗な子はなかなかいないからね」
スチュアートはリリーの手に自分の手を重ねる。そして、二人は微笑み合う。
ああ、夫婦とはこういう温かいものなのだな、と実感させてくれるような人たちだ。
私たちもこうなれたらいいな。心の隅ではなく、心の中心で羨ましく思うのだった。
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