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第9章 生きるということ / 第304話
「それをちゃんとミユに伝えないで、自分の中に閉じ込めて……いいことなんて何もないんだ」
「吐き出して、少し気持ちが楽になったでしょ?」
神の意図を理解したらしいクラウは片手で頭を抱え、ガクリと肩を落とす。
「なんだよ……。こんなの誘導尋問じゃん……」
「ここまでしないとミユに伝えられないクラウが悪いんだよ~」
「ミユは襲われたばっかりだし、負担を増やしたくなかったんだ」
「でもさ、このまま黙ったままでいてクラウが潰れちゃったら、余計ミユに負担掛けるじゃん」
エメラルドとサファイアの言い分は、私にしてみると納得できるものだ。
いい言い訳が見つからないのか、クラウは渋い顔でそっぽを向いてしまった。
「ミユも何とか言ってあげたらいいんだよ~」
「私?」
「うん。言いたいことがあるんじゃない?」
言いたいこと――あるにはある。あの考え方の癖を改善してあげられるといいな、と思う。
「私ね? 嫌なことがあるの」
ぽつりと呟くと、僅かにクラウの顔がこちらを向いた。エメラルドとサファイアも黙って聞いていてくれる。
「私に何か起こったら、クラウって自分だけで何とかしなきゃって考えちゃうでしょ?」
「そう……なのかな」
自覚がないのか、クラウは俯きながら呟く。
「そうなの。周りに助けも求めないし、私に相談もしてくれない。私は、私のせいでクラウが傷ついちゃうのが凄く嫌。この世界で一番嫌」
「俺は……」
一瞬、何かを躊躇ったように見えた。しかし、次の瞬間にこちらへ向いた顔は険しいものだった。
「俺だって……ミユの嫌な所はある。頑張り屋だからこそ、肝心なところで俺を頼ってくれてない感じがするんだ。俺は、俺が知らない所で、ミユがたった一人傷ついてるのが嫌だ。この世界で一番嫌だ」
言われて初めて、そんな風に思われていた事に気付く。私は今までずっとクラウを頼って生きていると思っていた。それはただの思い込みだったのだろうか。
クラウの潤む瞳を見詰めながら、過去を手繰り寄せてみる。呪いが発現した時には、照れてしまって上手く接してあげられなかった。クラウが危機に陥ると、私が一人で抱え込んでしまっていた。他にも自分では気付かない所で、哀しい気持ちをひた隠しにしていたことがあるのかもしれない。
返す言葉がなく、俯いてしまった。
「二人とも」
そこへエメラルドの透き通った声が響く。
「するべきことがあるんじゃない?」
はっと気付き、顔を上げた。クラウの辛そうな瞳が目に映る。
「ごめんね」
「ごめん」
私とクラウの声が重なり合う。そのまま見詰め合っていることもできず、すぐに俯いてしまった。
柔らかな何かが頭を撫でる。
「よくできました」
声のした方を見てみると、慈しみに満ちたエメラルドの笑顔があった。
これではまるで私がまだ子供かのような扱いだ。膨れっ面を向けると、エメラルドはクスクスと笑う。
「俺、子供じゃないし!」
恐らくクラウもサファイアに頭を撫でられたのだろう。同じようなやり取りが隣からも見て取れる。
「すぐにじゃなくていい。少しずつでいいから、お互いを頼っていけたらいいんだ」
「そうだね~。多分、二人なら大丈夫だよ」
エメラルドとサファイアは顔を見合わせて小さく笑う。
クラウの気持ちが分かった以上、このままでいたいとは思わない。変わりたい。決意を胸に、クラウの瞳を見詰めてみる。
「今まで苦手なことだったかもしれないけど、これからは伝えられるようになってみせるね」
「うん、俺も自分をもっと大事にしてみる。ミユに傷付いて欲しくはないから」
ふわりと笑うクラウの表情に、安堵の息が漏れる。
すると、またしてもエメラルドの手が私の頭をひと撫でした。不満を露にしても、きっと伝わらないのだろう。
サファイアは、すうっと息を吸い込む。直後、真顔に変わる。
「っていうか、俺たちは説教するために二人を呼んだんじゃないんだ」
「あっ、そうだったね~」
「エメラルド……」
何を言い出そうとしているのかは分からない。でも、エメラルドの緊張感のない様子はこちらにも伝わってくる。サファイアも思い切り肩を落とすので、可哀想に、と思ってしまった。
サファイアはわざとらしく咳ばらいをし、場の空気を換えてみせる。私たちの顔を見据えた青色の瞳は――潤んでいるのだろうか。
「重い話になるけど……伝えなくちゃいけないことがある」
サファイアはそう切り出すと、エメラルドと顔を見合わせた。二人は頷き合い、再びこちらを向く。
「ミユとクラウは、自分の寿命を知りたい?」
エメラルドの問いに、思わず息を吞む。
知りたいかどうかと聞かれると、知りたいに決まっている。でも、聞く勇気がない。知らない方が身のためなのだろうか。決心がつかず、口を結ぶ。
クラウも歯を食いしばったまま、何も話そうとはしない。
エメラルドは細い息を吐き、私たちを見る。
「どっちにしても、二人は死が怖いんだよね?」
その言葉に、クラウは鋭い目をエメラルドへ向けた。
「当たり前じゃん」
「死は怖いものじゃないよ」
怖くないはずがない。今でも、こんなにも心臓が激しく鼓動していると言うのに。
思い切り首を横に振り、両手を胸に押し当てる。
「気持ちは分かるよ。でも、こう考えて欲しいんだ。死は『魂の引っ越し』だって」
「魂の引っ越し?」
「うん。今いる世界から天国への引っ越し」
「でも、死んじゃう時って痛いでしょ? 苦しいでしょ?」
私は知っている。死の苦痛がどんなものか。前世の記憶があるからこそ。
潤んだ視界の向こうにいるエメラルドとサファイアも、これには困ってしまったようだ。二人で顔を見合わせ、首を傾げている。
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