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第22章 希望へ / 第168話
結局、またスチュアートに別れを告げられないまま離れてしまった。思ったように眠れず、早朝の五時にはベッドを抜け出した。麻袋を広げ、今日から始まるであろう旅の支度に取り掛かる。着替えは入れたし、洗面道具も用意した。食事や寝床は使い魔が準備してくれているだろう。遊びに行く訳でもないから、カードゲームをしている余裕なんてない。他に必要なものは――。
「うーん……」
考えても思いつかないので、他にはないのだろう。
手のひらの上に小さな解呪の剣を乗せ、じっと見詰めてみる。持っていくか否か。ミユとアリアが見つけた方法が百パーセント成功するとは限らないので、持っていくしかないだろう。願わくば、使わずに済んでくれ。ハンカチに包み直し、嫌々懐に忍ばせる。
「リエル、こんな時って何して時間潰せば良いと思う?」
“うーん。地の子の事を考えて、空でも見てたら良いんじゃないかな。小説なんて読める気分じゃないだろうし”
「うーん……」
もっともなことを言っている筈なのに、『空でも見て』なんて。他人行儀に聞こえるのは気のせいだろうか。仕方ないが、やることもないのでリエルに従っておこう。窓辺に歩み寄り、窓枠に手をかける。雲一つない、薄水色の空が広がっていた。
ミユはしっかり眠れているだろうか。悪い夢にうなされてはいないだろうか。せめて、夢の中でくらい安らかで幸せな世界にいて欲しい。溜め息を吐き、そっと瞼を閉じた。その時に、胸に当たるリエルのリングの存在を感じてしまった。
そもそも、ミユに渡したリングは、リエルがカノンに渡したものだ。俺が購入したものではない。もしかして、ミユがリングを受け取ってくれたのは、リエルを想っているからでは――。
そんなことを考えてはいけない。思いながらも、胸にしこりが残るのだった。
* * *
アレクや使い魔たちも食事を準備する余裕はなかったらしく、シリアルに牛乳をかけただけの質素なものだった。
会議室に集まったのは俺の他にアレク、カイル、ロイ――賑やかではあるが、華やかさはない、珍しいメンバーだ。シリアルのサクサクとした食感を楽しみながら、話に耳を傾ける。
「念のために聞いとくけどよー、クレスタ村の向こうにクレスタの館があるんだな?」
「はい。アリアにしっかり確認したので、間違いありません」
ロイはアレクにしっかりと頷いてみせる。
「どんな方法なんだろう」
「行ってみないと分からないですね。方法を聞きに行く旅でもあるので」
カイルの答えに、思いを巡らせる。そういえば、ミユの体調に気を取られていて、旅の目的すら正確に聞けていなかったことに気付く。
「クレスタの館ってどんなとこ?」
「それも分からないんです。アリアも行ったことがないらしくて」
アリアが察知出来ていなかった場所となると、新たに誕生した館なのか、それとも滅びた館なのか――後者ではないことを祈るばかりだ。
「食い終わったら、さっさとミユの部屋に行くぞ。一分でも、一秒でも時間が勿体ねぇ」
「うん」
スプーンを口に運びながら、大きく頷いた。
皿の片付けも早々に、四人でミユの部屋へと向かう。フレアとサラもミユの部屋にいるとのことだったので、そこで八人全員が揃うだろう。
先陣を切って、静かにミユの部屋のドアを開ける。ミユとフレアは椅子で和やかに会話をし、アリアとサラは床で準備を整えていたらしい。
「入っても良い?」
「大丈夫だよ~」
ミユは笑顔で返事をしてくれた。ミユとフレアもアリアとサラの元へと移動するので、俺たちもそちらへと向かった。しっかりとミユの隣を獲得する。八人で円になり、顔を見合わせた。
アレクは表情を引き締める。
「良いか? 引き返すことはないと思ってくれ。ミユの呪いを解くまではな」
「それは分かっています」
ロイの返答に、全員が頷く。
「クレスタ村からクレスタの館までは、三日間だったな、アリア」
「はい。森を進んだ所にあります」
「一本道だって信じるしかねぇか」
アレクは呟くと、ゆらりと立ち上がった。
「アリア、魔法陣を作ってくれ」
「分かりました。皆さん、下がってください」
いよいよ、生死をかけた旅が始まるのだ。立ち上がり、アリアに魔法陣を描くスペースを譲った。彼女は杖を取り出し、先端を床へと向ける。次々に魔法陣を描いていき、あっという間に八個のそれが完成した。緑の淡い光を放つそれを、じっと見詰めてみる。
きっと、俺と同じか、それ以上の緊張をミユも感じているのだろう。汗ばんでいるのにも関わらず、ミユの拳にそっと左手を添えた。緑の瞳はこちらを向く。大丈夫だ。何か起きても、きっと俺が何とかしてみせるから。瞳に思いを込め、その瞳を見詰め返した。
「出来ました」
背を向けるアリアの凛とした声に、はっと振り向く。
無言のまま、アレクとフレアは魔法陣と歩き出した。ロイとサラもそれに続く。
「俺たちも行こう」
覚悟を決め、五人の背中を睨みつける。俺も足を動かそうとしたが、出来なかった。ミユに歩き出す気配がないのだ。
「ミユ?」
「……あっ、ううん、何でもない」
早口で囁くと、ミユは首を横に振る。旅に不安があるのは分かるので、それ以上は何も言えなかった。ミユの姿が消えるのを確認し、俺も魔法陣の中へと立った。
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