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第23章 星に願いを / 第171話
ぼんやりと起き上がると、周りを見回す。薄暗いテントで、アレクも、カイルも、ロイもまだ夢の中だ。いびきが収まっているのが幸いか、静かに心を落ち着けることが出来た。女性陣とは離れて眠ったので、ミユの様子が分からない。かと言って、女性のテントを覗きに行くのもはばかられる。溜め息を吐き、寝袋を握り締めた。
解呪の方法が判明するまで、あと二日ある。まだミユの命も、俺の命も大丈夫だ。胸に手を当て、安心しろと自分に言い聞かせる。隣でアレクの身体が動くのを感じた。
「……あ? もう起きたのか?」
「おはよう」
「あぁ」
アレクの口から『おはよう』という単語を聞いたことがない。挨拶くらいきちんとしろよと思いながら、文句は口に出さない。口喧嘩が始まるのは目に見ているからだ。
呑気な声とともに、アレクは大きく伸びをする。そのまま上体を起こし、俺と目線を合わせた。
「あー、まだ眠てぇ」
「アレク、俺より先に寝てたじゃん」
「そういう問題じゃねーんだよ。フレアは大丈夫か、ミユは影に襲われてねぇか、オマエは突拍子もなく無茶しねぇか、とか、色々考えてたら、夢の中にもオマエらが出てきやがったんだ。休まるもんも休まらねぇ」
「うーん……」
気持ちは痛い程分かる――と言いたいところだが、『俺が突拍子もなく無茶をする』状況とは何なのだろうか。俺の心配をするくらいなら、その分ミユを心配してあげてくれという感情は間違ってはいないだろう。
頭を掻き、カイルとロイの顔を見てみる。二人とも、しっかりと目を開けていた。
「ごめん、カイル、ロイ。起こしちゃった?」
「私たちは元々、熟睡出来ない身体なんです。気にしないでください」
カイルは微笑むと、ゆっくりと身体を起こした。ロイもそれに続く。熟睡せずに脳と身体を休めるのは無理に等しい。倒れてしまわないかと気にはなったが、何百年も、何千年も生きてきた使い魔にとってそれが日常ならば、心配しても仕方がない。
首を軽く振り、着替えを済ませる。女性陣のテントから物音が聞こえ始めるのを、ただひたすらに待った。
間もなくして、女性陣の可愛らしい声が森に響き始める。何を話しているのかまでは分からないが、声のトーンから、四人もまた無事なのだろう。良かったと思うと同時に、一晩明かすだけでもこんなに気を揉まなくてはいけないのか、と心に靄が広がっていった。
俺たちは先にテントを出て、女性陣を待ち構える。早くミユの元気な顔が見たい。気もそぞろに、テントの入口を見詰めていた。彼女たちが出てきたのは、十数分経ってからのように思われた。
待っていたなんて言えないなと思っているところで、アレクが言い訳をしてくれる。
「おぉ、丁度良かったな。オマエらを迎えに行こうとしてた所だ」
「あたしたちもだよ」
待ち伏せしていたことには気付いていなかったようだ。安堵の吐息が漏れる。
俺の顔に何かついているだろうか。ミユは俺の顔を食い入るように見詰める。
「どうかした?」
「ううん、なんでもない」
首を振るミユの表情は明るい。大した意味はないのだろう。
「ま、良っか」
いつかきっと、話してくれる日が来るなら、それで良い。ミユが小さく笑うので、俺も笑い返した。
道を占拠していたテントは取り除かれ、行く先が再び姿を現す。深く続く森が先の険しさを示しているかのようだ。
そんな気持ちを一蹴するかのように、カイルは明るく笑い、俺たちをぐるりと見回す。
「それでは、今日も一歩ずつ進みましょう」
「は〜い」
ミユも元気よく返事をするので、心配してしまった俺が馬鹿みたいだ。首を傾げるミユに、益々笑いが漏れる。
葉の隙間から覗く空はどんよりと曇っている。今にも雨が降りそうだ。冷たく湿った風が髪を、マントをなびかせる。それでも、びしょ濡れになった昨日よりはマシに思えた。
朝食のハードパンをかじりながら、隊列を組んで歩を進める。先日よぎった思いが不意に沸き起こった。ミユは俺を見てくれているのだろうか。もし、杞憂で終わるのなら、彼女に正式なプレゼントを渡したい。
「あのさ」
口をついて出ていた。ミユは小首を傾げる。
「何〜?」
「ミユの誕生日っていつ?」
プレゼントを渡すなら、誕生日が一番都合が良い。
「えっ? 九月二十日だけど……」
やはり、そうなのか。丁度、ミユが魔導師として、この世界にやって来た時期と重なる。
「九ヶ月後、か……。ありがとう」
だいぶ先の話だな、とプレゼントの内容に思いを馳せる。
「クラウの誕生日は?」
「えっ、俺の? 十一月十五日」
「えっ?」
ミユもプレゼントをくれるのだろうか。淡い期待が膨らむ一方で、ミユの顔は青ざめていく。
「誕生日なら、誕生日って言ってよ〜!」
「だって、それどころじゃなかったから……」
「嘘〜……」
俺の誕生日は、俺が部屋で塞ぎ込んでいる間に終わってしまったのだ。ミユが責任を感じる必要はない。
彼女が大きな溜め息を吐くので、小さな笑い声が漏れた。
「来年祝ってくれたら、それで良いよ」
「うん……。私、頑張って生き残るから」
ミユは力強く前方を見据え、大きく頷く。ミユからのプレゼントを貰う為に、俺も倒れる訳にはいかない。また一つ、生き残らなければならない理由が出来た。ありがとうの意味も込めて、ミユの頭を撫でてみる。
「良し、休憩だ!」
アレクの掛け声で足を止めたのは、大して変わり映えのしない道のど真ん中だった。傍らに流れる小川に移動し、草をクッションにして、ミユ、アレク、フレアと円になり座る。使い魔たちも、同じように四人で話に夢中になっていた。
「オマエら、疲れてねぇか?」
アレクは女性陣を気にかけ、二人を見る。
「あたしは大丈夫」
「私も」
体力づくりをした成果なのか、強がりなのか。どちらなのかは分からないが、無理はしていないと信じよう。
アレクは返事を聞くと、用意されたクラフト袋に手をかける。
「昼飯だ。文句は言うなよ」
中から取り出されたのは、朝食と同じハードパンだった。それを一つずつ、各々に渡す。今は旅の途中だ。文句は言えない。腹の虫が鳴く前に、パンをちぎって口へと放り込む。
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