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第4章 空 / 第342話
激しく鼓動する胸を押さえ付け、五人で会議室へと移動する。いつものようにトファーとガルニアは隣同士で腰を下ろす。私もなんとなく、いつものようにトファーの向かいに座ると、両隣をサフィールとラジエルに押さえられてしまった。右にも左にも王子様がいる。どうしても意識してしまい、頬が熱を帯びていく。
程なくしてオーリも加わり、トファーの隣へ腰を下ろした。
「シエロ団に見つかったとなりゃ、もう空の上は安全じゃねぇ」
トファーは深い息を吐き、腕を組む。
「……着陸するぞ」
シエロ団が何者なのかは分からない。それでも、ここにいては危険だということくらいは分かる。
トファーは目を細め、口を開く。
「エルヴァ、動けるか?」
「……頑張る」
「頑張るじゃねぇ。できるかどうかを聞いてんだ」
トファーの荒い声に、肩がびくっと動いた。
「自信は……ない」
小さく口を開き、俯く。ガルニアの唸り声が聞こえた気がした。
「駄目だったら……」
そこでサフィールの声が響く。
「駄目だったら、俺が背負って歩く。六人全員を危険に晒す必要はない」
王子様にそんなことはさせられない。慌ててサフィールの顔を見上げてみると、彼はまっすぐにトファーに視線を送っていた。
「サフィール、できるんだな?」
「うん」
きっと、トファーの『できる』には他の意味も含まれている。サフィールの力強い頷きに、ガルニアの顔に僅かな笑みが戻った。
「必要なら、僕も――」
「ラジエルは居残りだ。剣を持てねぇヤツに現場は任せられねぇ」
「そんなことを言ったら、今のエルヴァも連れていくべきじゃないのでは……?」
「オマエも知ってるだろ? ルーゼンベルクには水の魔導師だけじゃねぇ、地の魔導師の逸話も残ってるってな」
地の魔導師――一瞬にしてミユからの手紙が脳裏を駆け巡る。
「私……見ちゃいけないものを見たのかも」
ミユが逸話の人物かどうかは分からない。それでも、私の中の何かが、この二つは関連があると訴えかけてくるのだ。
「見ちゃいけないものって?」
ガルニアは首を傾げる。
「私、エメラルドの幽閉塔にいたでしょ? そこに置いてあったの。『私の生まれ変わりである、数十年後の貴女へ』って、ミユからの手紙」
「ミユって、五百年前の地の魔導師だね」
「うん」
オーリの補足に頷いてみせる。
「どんなことが書いてあった?」
「手紙は置いてきちゃったから、覚えてる範囲にはなるけど……」
一つ一つ思い出しながら口にしていく。そんなに長い文章ではなかったから、反復できたのではないだろうか。
話し終えると、トファーとガルニアは難しい顔になってしまった。
「生まれ変わり……? 争いのない世界……?」
「いや、繋がってるようで繋がってねぇ……」
二人は顔を見合わせ、口を尖らせる。
その一方で、サフィールは何かを感じたようだ。瞳が揺れている。
「俺も幽閉塔にいた頃に……誰かの走り書きを読んだ。『これを読んだ君へ。戦争は必ず止めて』って」
これは偶然ではない。五百年前の魔導師たちは何かを知っている。そう予感させるものだった。
それと同時に思う。サフィールにはまだ語られていない過去がある。でも、今の私が聞くには差し出がましい。幽閉塔という共通の言葉は飲み込み、スカートを握り締める。
トファーは「ま」と短く空気を変える。
「でも、オレらが向かおうとしてるところは間違ってねぇんだな」
「うん。そう思いたい」
トファーに呼応するように、ガルニアも首を縦に振った。
「んじゃ、オーリ。着陸態勢に入れ」
「はーい」
トファーが指示を出すと、オーリは急ぐふうでもなく会議室を出ていった。
「エルヴァは今のうちに少しでも休んどけ」
「うん」
ここはみんなに甘えさせてもらおう。軽く礼をし、立ち上がった。それはいいのだけれど、何故かサフィールとラジエルも腰を上げる。
「俺はエルヴァを支える」
「僕は栄養剤を渡したいですから」
二人とも、私ににこっと笑ってみせる。一気に頬の温度が上昇した。
結局、サフィールとラジエルに手を握られ、会議室を後にすることとなった。
「あの……」
「敬語はなし」
まだ何も言っていないのに。サフィールは頑として譲らないらしい。
「どうして二人は私を助けてくれたの……?」
思い切って敬語を外すと、空気がちょっぴり冷えた気がした。やはり敬語の方がよかっただろうか。心の中で狼狽えていると、サフィールが握る手に力が加わった。
「俺のせいで大騒動に発展させちゃったから。ちゃんと謝りたかった」
「僕はサフィールに頼まれて、ですね。牢屋の見張りをしている騎士に睡眠薬を与えて入れ替わるくらい、僕には簡単ですから」
そういう役割分担があったのか。どこか腑に落ちるのが不思議だ。
「二人とも、ありがとう」
サフィール、そしてラジエルに目を向けてみる。すると、ようやく二人も笑ってくれた。
ラジエルは本当に栄養剤だけを渡してくれると、私の部屋から退散してしまった。サフィールと二人きりになったついでに、聞いてみよう。
「あの、さっき話してた夢の男性って?」
「ああ」
サフィールは思い出したように目を開く。
「不思議なんだけど、初めは自分かと見間違えたんだ。でも、相手は髪が短いし、オッドアイも右目の色が違うし」
「う~ん……?」
髪が短い――そう言われると、私が見た金髪の男性も髪が短かった気がする。いや、気がするだけで、確実には覚えていない。
謎が謎を呼び、頭の中で絡まっていった。
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