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第4章 空 / 第340話
目が覚めた時に真っ先に飛び込んできたのはガルニアの顔だった。私の手を握り、私の顔をじっと見つめる。
「エルヴァ……! よかった、死んじゃうかと思った……!」
少し遅れて、アイスブルーの瞳が私を見た。一瞬、その中にサフィールの兄を見て心臓が飛び跳ねたけれど、彼は別人だ。この穏やかな瞳は、確かラジエルと呼ばれていた人だ。
この人が私を救い出してくれたのだろう。肩の力が抜けていく。
「僕の兄、レヴィスが大変なことをしてしまい、本当に申し訳ございませんでした。兄の代わりに謝罪します」
「お兄さん……?」
ラジエルは静かに頭を下げる。恐らく、僕の兄とはサフィールの兄のことを言っているのだろう。それならば、サフィールとラジエルは兄弟なのだろうか。三人の関係性を掴み切れず、首を小さく傾げてみせる。
「僕はサフィールの双子の弟です」
「双子……」
そういうことか。何度か頷き、ラジエルの言葉を咀嚼する。
「サフィールたちを呼んできます」
ラジエルは優しい微笑みを残し、視界から消えていった。残されたガルニアは小さく頭を下げ、私に向き直る。
「それにしても、サファイアの第一王子……何の恨みがあって、エルヴァにこんなこと……」
「トライドールだから」
牢屋の中で見聞きしたことを繋げるのなら、こういうことになる。
「でも、自分の弟だってトライドールでしょ? いくら何でも、こんな酷いこと……」
「レヴィスはサフィールの死も願ってた」
自分の口から言うのもぞっとする。兄弟でいがみ合うなんて、それほど悲しいものはない。
間もなく、ドアの向こう側から数人分の足音が響き始める。
「エルヴァ!」
一番に部屋へ飛び込んできたのはサフィールだった。丸い瞳を潤ませ、頭を下げる。
「俺が軽はずみなことをしたせいで、エルヴァを危険な目に遭わせた。申し訳ない」
サフィールは何も悪いことなんてしていない。私が帯剣していなければ起きなかった事故だ。
「あの、謝らないでください。私は――」
そこまで言って、トファーとオーリがサフィールに体当たりをしてしまった。三人は慌てふためきながら前方へと倒れ込む。
「何やってるんですか、この人たち……」
後ろでラジエルが苦笑いをする。
それにしても、サフィールもラジエルもオーリと同じような服装に変わっているのに、王族の雰囲気は消えないのだな、と感心してしまう。
三人は顔をしかめながら立ち上がる。トファーは不服そうにサフィールを見るので、サフィールもトファーに口を尖らせた。
「何さ」
「オマエ、こんなところで突っ立ってんなよ! ぶつかられても文句は言えねーぞ?」
「俺はただ謝ってただけで、二人の邪魔はしてない」
「まあまあ、二人とも。両方悪いってことで」
オーリは場を宥めたつもりなのだろうか。言い合うサフィールとトファーの間に割って入ったものの、余計に二人から鋭い目で見られるだけだった。
サフィールは大きく溜め息を吐くと、改めて私の方へ柔らかな視線を送ってくれた。
「エルヴァを介抱したのはラジエルなんだ。ラジエル、ありがとう」
「ううん。多少なりとも医学の知識があったから。お役に立てたなら」
そう言って、ラジエルも笑ってくれた。
そういえば、今、私たちはどこにいるのだろう。地上に停泊していたのなら、いつ見つかってしまってもおかしくはない。かと言って、空を飛んでいるのなら、雲がなくては艇体を晒してしまう。
「私たち、今、どこにいるの?」
「あ? サファイアの上空だぞ?」
トファーに言われて窓の方へと視線を動かしてみれば、地上よりも空の青が近い。
「これから目指す場所が見つかったからな」
それはどこなのだろう。首を小さく傾げてみせると、サフィールが会話を引き継いだ。
「サファイアのルーゼンベルク公爵家。五百年前に天災を起こしたかもしれない、魔導師がいたかもしれない名門家だね」
『かもしれない』が二つも続いている。本当に信用できる話なのだろうか。若干、不安になってしまう。
「ダイヤモンド・ブスカール号はオーリとラジエルに任せて、四人で離れたところからルーゼンベルクに向かう。何でも王都の中心部にあるらしいからな」
トファーの話に納得しかけて止まる。私たちはトライドールだ。オッドアイがある限り、再びあんな目に遭うかもしれない。しかも、四人が揃っていることで、余計に人目を引くだろう。
「でも、私たちにはオッドアイが……」
「んなもん、隠せばいいだろ。オレたちは今までそうやって生きてきたんだからな」
トファーの過去があるせいで、妙に説得力がある。
そんなトファーの瞳をガルニアが見詰めた。
「それにしても、四人一緒は危険過ぎない?」
「だから、二人一組に分ける。オレとガルニアの古参組と、エルヴァとサフィールの新参組にな」
私がサフィールと一緒――王子様なのに。絶対に気後れしてしまう。ガルニアと一緒がよかったなんてサフィールの前では言い出せず、手だけが震え始めた。
「それよりも、エルヴァの回復が先だな。起きたんなら、ちゃんと食うもん食うんだぞ」
にこっと片方だけ口角を上げるトファーに、複雑な気持ちだけが膨らんでいった。
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