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第8章 過去へ繋がる森 / 第118話
あれから無情に時間だけが流れていった。今日で、もう四日目だ。解決策も出ず、三人で途方に暮れる。
夕食にはアレクがカルボナーラとグリーンサラダを用意してくれたが、味はたいして分からない。ミユに拒絶されてから、味覚がおかしくなってしまったのではないかと言う程だ。
「美味しくない」
「残すなよ」
小さな呟きもアレクに反応され、思わず溜め息が漏れる。
会議室で食事を摂っていても、会話は殆ど無い。みんなが頭でっかちになって、自分の中だけで思考を完結させてしまっている。
俺もそうだ。考えても、考えても、ミユに前世の全てを思い出して欲しい。魔法を得て欲しい。その結論にばかり辿り着く。では、どうすればミユは素直に従ってくれるだろう。結論は出ている筈なのに、その結論を回避しようとしてしまう。ありのままを全て話せば良い。見せられている過去は前世の記憶だと言ってしまえば良い。そうする勇気が、心構えが、俺には足りないのだ。
グリーンサラダにフォークを突き刺し、乱暴に口へ押し込んだ。
「美味しかったよ」
「オマエ、美味しくないって言っただろ」
「そうだっけ」
味の感想など、どちらでも良い。アレクに適当に返すと、大袈裟に溜め息を吐かれてしまった。
「ま、良いか。とりあえず、ミユの皿を下げに行ってもらって良いか?」
「うん、良いけど」
曖昧に返事をすると、神妙な顔でアレクとフレアは顔を見合わせる。何か二人で話したい事でもあるのだろう。要するに、厄介払いだ。
頭を掻き、空になった皿を手にして椅子から離れる。
これからどうすれば良いのだろう。やはり、ミユに正直に全てを伝えるしかないのだろうか。考えながら、キッチンに皿を置き、ミユの部屋へと向かう。出来ればこんな状態でミユと顔を合わせたくはない。結論を出してから、晴れ晴れとした表情を彼女に見せたかった。それも俺の独りよがりだ。また、溜め息を吐いてしまった。
廊下の角を曲がると、カイルとアリアの姿が見えた。二人は俺に気づくと、ぺこりと頭を下げる。
二人のうちどちらかに、皿を片付けてきてもらえるように頼むことは出来た。
しかし、ミユには二人がここに来ていることを知らせていない。カノンを殺した影がこの辺をうろついているかもしれないなどと、ミユに伝えることなんて出来なかったのだ。
カイルとアリアをちらりと見遣り、拳を作る。しんと静まり返った廊下に、三回ノックをする音が響いた。
「ミユ、入るよ?」
声を張り、ドアノブを握る。ドアは何の違和感もなく、するりと開閉した。
ミユはテーブルの前に座っていた。丁度、夕食を食べ終わったタイミングなのだろうか。
やはり、ミユはこちらを向いてはくれない。スカートを握り締めてもいる。近づくのも躊躇われるのだが、目的をやり遂げなくては。
軽やかに、とはいかない足取りでテーブルへと近付き、ミユの顔色を窺う。
「お皿片づけるけど、良い?」
声をかけると、頷いてはくれた。このままそっと立ち去ろう。そう思っていた。
ところが、不意にミユがこちらを振り向いたのだ。
「あの!」
それだけを言うと、揺れる焦茶の瞳で見詰めてくるだけだった。
「何?」
「えっと……その……」
ミユの声は萎んでいく。何か言いにくいことなのだろうか。焦らせないように、微笑んでみせる。
「みんなを追い出した時……アレクが言いそびれたことが気になって……」
アレクが言いそびれたこととは何だろう。今一度、ミユと仲違いした時の出来事を思い返してみる。アレクはミユに、このまま過去を見続ければ魔法を使えるようになることを伝えた。そして、他にも話がある、と言いかけていた筈だ。
他の話なんて、過去の出来事は前世の記憶である、ということしか思い当たらない。先程も思ったが、それを伝える勇気も、心構えも、俺には足りていない。
「うーん……」
唸ってはみるものの、やはり思いが言葉になって出てきてくれることはない。
「もっとミユを混乱させかねないから。ちゃんと心の準備が整ったら、また聞いて欲しい」
そう言い返すので精一杯だった。
納得が出来ないのか、ミユは不服そうに頬を僅かに膨らませる。
この純粋な瞳を見続けることは、俺には不可能だった。視線を逸らし、口を開く。
「俺も、ミユに伝える為の心の準備が出来てないんだ。ごめん」
言い訳じみた言葉しか出てこなかった自分に、唇を噛む。ただ、これだけは言える。
「ただ、過去に出てくる人たちは、俺たちと何か関係がある。どんな関係かは……今はミユの想像に任せるよ」
これで、何かを察してくれれば良い。もしかすると、余計にミユの混乱を招いたかもしれない。
心の中で「ごめんね」と呟き、なんとか微笑んでみせる。
「じゃあ、片づけちゃうね」
「うん」
ミユが頷いたのを確認し、皿を取ろうと手を伸ばす。その時に、服の袖にフォークの柄を引っ掛けてしまったのだ。弾みでフォークはテーブルから滑り落ちた。
ゆっくりとしゃがみながら、フォークを拾おうと試みる。その時に、嫌な感触がした。服に隠していたネックレスが不意に勢い良く傾き、飛び出したのだ。トップにはあの、カノンの結婚指輪がぶら下がっているというのに。
カノンの事を思い出していないミユには見られたくない。全てを思い出した時に、重たいと思われたくはない。咄嗟に右手でリングを握り締めた。
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