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第27章 真相 / 第182話
ところが、ミユは声一つすら発しないのだ。
「ミユ、驚いたか?」
眼前に佇む敵のみが、凍るような瞳で俺たちを見る。
「今の、何? 私、こんなの知らない。私が知ってるのは、アイリスに呼び出されて、行ってみたら影がいて、呪いをかけられた時に傍でアイリスが笑ってて……」
「今、見せたものが真実だ」
「えっ?」
「影が君の記憶を書き換えた」
影に記憶の改ざんなんて芸当が出来るのだろうか。いや、出来るからこそ、百年前の俺たちは内部分裂を起こしたのだ。
アレクは眉をひそめ、奴に唸る。
「影にそんな力があるのか?」
「あるから記憶の相違があるのだろう? ミユ、フレア。君たちなら分かるだろう」
当事者たちは顔を見つめ合い、瞳を潤ませる。
「フレア、ごめんね! 私……!」
「ミユはあたし以上に辛かったでしょ? 気にしてないよ」
「嘘……!」
フレアが気にしていない筈がない。明らかに嘘だ。思い返してみれば、百年前の戦いの後から、フレアは一人で泣いていることが多かったように思う。
だからこその強がりなのだろう。
「あれはフレアの精一杯の強がりだ。もう何も言わないであげて」
耳元でミユに囁く。彼女は苦悶の声を発し、俺の服を握り締める。
フレアはというと、奴を睨みつけ、声の限りに怒りをぶつけるのだった。
「貴方、もう一つ記憶を書き換えてるでしょ?」
「フッ……ミユと打ち合せ済みか。まあ、隠す気もないが」
三度目の魔方陣が俺たちを別空間へと誘う。
ここは――俺たちが影を待ち伏せしていた草原だ。僅か先には湖面も見える。
「ミユ」
フレアがミユに目で訴える。しっかり見届けて欲しい、そんな感情を俺も受け取った。
数メートル先にはカノンとアイリスのうしろ姿がある。更に森の方へ視線を向けると、竜巻に水がまとわりついた柱――魔法対決と誤魔化した結果が見て取れた。
あの時にさかのぼったのか。瞬時に理解する。
「カノン」
意を決したようにアイリスはカノンを見据えた。
「何〜?」
カノンはカノンで、おっとりと小首を傾げる。
「ちょっと、話があるの。でも、ヴィクトとリエルには聞かれたくなくて……」
「あれじゃあ、聞こえないと思うんだけど……」
確かに、俺たちの声が届かなくなった代わりに、彼女たちの声も聞こえなかった。心が騒めき、鳴動も響き、それどころではなかった。
アイリスは失笑すると、躊躇いながらも言葉を声に変えていく。
「あたし、カノンとうまく話せてなかったでしょ? それどころか、ちゃんと目も合わせられなかったし。そのこと、謝ろうと思って」
アイリスは俯き、瞼を固く瞑った。
「今までごめんなさい」
「アイリス、頭を上げて! 私、これから仲良く出来るなら、それで良いから! これからもよろしくね」
「……うん。ありがとう」
カノンはアイリスに抱き着き、その頭を撫でる。
「あたし、カノンよりお姉さんなんだけどなぁ」
「そんなの気にしないの~」
和やかな雰囲気が辺りを包み込む。
この記憶が書き換えられていたとするのなら、ミユの中ではどうなっていたのだろう。アイリスが不利になるように働いているのは分かるが、そうしなければならない必要性が思い当たらない。
思考を巡らせているうちに、ベルフラワーの花畑へと戻ってきていた。フレアの隣で、アレクは殺気をみなぎらせる。
「オマエ、なんでミユとカノンの記憶を書き換えやがった!? フレアに何の恨みがある!?」
「恨みがあるのはフレアじゃない。ただ仲間割れをさせたかっただけだからな」
フレアに恨みがないとすれば、やはり――ミユなのか。
「煩わしい」
奴が手を振り下ろすと、漆黒の矢がこちら目がけて飛んできた。咄嗟に氷の破片を放ち、相殺する。
「じゃあ、ミユに恨みが?」
「ああ」
闇色の瞳は俺を見ることなく、まっすぐにミユを貫く。その視線だけで人を殺せそうな、凍てついた目だ。
ミユが困惑していると、奴は鼻で笑った。
「考えたところで、君が分かる筈がないだろう。全てを思い出した訳ではない君がな」
「意味深な事を言いやがる……!」
吠えるアレクを見向きもしない。
「私が思い出してない事……?」
ミユは小首を傾げる。
百年前の事ならば、覚醒を果たした時に全て思い出している筈だ。それ以外にも思い出さなくてはならない『何か』があるとでもいうのだろうか。
「その存在自体が邪魔でしかない」
「えっ……?」
考えてみるが、やはり分からない。
憎しみを込めるように、奴から漆黒の矢が三本放たれた。その程度の攻撃で、俺たちがやられる訳がない。氷の欠片を三つ飛ばし、それらを排除した。
奴のミユへの殺意をそれ程までに高めるものは何なのだろう。
「私は今すぐにでもミユを殺せる。殺されたくないのなら、かかってこい」
奴は顎をしゃくる。
「やるしかねぇのか……?」
「やらなかったら、ミユが殺される!」
それだけは嫌だ。決意を遅らせるアレクに、現実を叩き付けた。
「羽根を出そうよ。あたしたちには、あれがある」
「でも、羽根で戦って勝ったら、私の呪いが……!」
恐らく、羽根で勝負はつかないのだろう。こちらが優勢であるのなら、奴は黙って漆黒の羽根で攻撃をしてくるからだ。ミユが恐れているようなことは、きっと起きない。
四人で作戦会議をしているうちに、奴は頭上に黒い靄を作り出した。渦を巻き、肥大化していく。
「駄目だ、羽根で立ち向かわなかったら、四人全員殺られるぞ!」
大丈夫だ。俺たちなら生き残れる。ミユの視線を感じて振り向いてみると、不安に押し潰されそうな表情で俺に助けを求めてくるかのようだった。微笑み、なんとか彼女を宥めようと試みる。
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